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第40話「深夜2時のバックミラー〜テルメ、ヴァロ覚醒〜」

皆様。

どーも、ベシさんです。

ありがとうございます。


深夜の大阪。

素敵ですね。


では!

宴が終わった。

ドワーフたちの笑い声が、まだ洞窟の奥に残っているような気がした。

皆が寝静まった。

タイカ先生は宴の途中で撃沈したまま、岩のベッドの上で大の字になっていた。

トントは壁に背をもたれて目を閉じていた。

レンはキックルを膝に乗せて、静かに眠っていた。

リリはファビラを胸に抱いて、穏やかな顔をしていた。

エーアイはシルヴァと並んで、規則正しく呼吸していた。


テルメだけが——眠れなかった。


天井の岩を見上げながら、寝返りを打った。


また、打った。


「……なんやろ」

小さく呟いた。


眠いのに——眠れない。


体は疲れているのに——頭の中が、静かにならない。


テルメは静かに起き上がった。ヴァロが、ぼんやりと光りながらついてきた。


「……サウナ、入ってくるわ」


誰にも聞こえない声で言って、洞窟の奥へ歩いていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


スチームサウナは、まだ温かかった。


地熱の蒸気が、ゆるやかに満ちていた。テルメは一人で、石のベンチに腰を下ろした。


湯気が、体を包んでいく。


肩から力が抜けていく。


ヴァロが——テルメの隣で、静かに光っていた。


「……ヴァロ」

テルメが、呟いた。


「ウチ、なんで眠れへんのやろ」


ヴァロが、小さく揺れた。

「……なんか、思い出すんやわ。昔のこと」


湯気の向こうに——記憶が、浮かんできた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


深夜2時の、大阪繁華街だった。


山田勝、50歳。タクシーのハンドルを握っていた。


ネオンが、雨に濡れた路面に反射していた。

どぎつい光が、水たまりの中で滲んでいた。

客がいない。ラジオだけが、低い音で流れていた。


……今夜は客が少ないな。


ため息をついた。


体が重かった。

腰が痛かった。

夕方から走り続けて——かなりの時間が経っていた。


信号が赤になった。停車した。


バックミラーを見た。


後部座席に誰もいない。


……いつも、こうや。

俺の人生、ずっとこうや。

誰かを乗せて、どこかへ連れて行って、降ろす。

また誰かを乗せて、どこかへ連れて行って、降ろす。

それだけや。


信号が青になった。アクセルを踏んだ。


その時。


「すんませーん!!」


元気な声が飛んできた。


道端で、二人の男が手を挙げていた。

ようやく、客だな。


元気そうな二人組が乗り込んできた。


「おおきに!!梅田まで頼んます!!」


「……はい、梅田ですね」


バックミラーに——二人の顔が映った。


どこかで見たことがある顔だった。


「運転手さん、疲れてはりますやろ」

一人が言った。体格の良い方だった。


「え、いや——」


「顔に書いてありますわ。『もうええわ』って」


もう一人が笑った。小柄な方だった。


「……バレてます??」


「バレてますよ!!俺ら、人の顔見るのが仕事みたいなもんやから!!」

小柄方が言った。


「お仕事は——」


「芸人です。サバンナマンの高持タカモチ言います」


「センゴクのニッシーダです」


「……芸人さんですか」


「そうです!!知りません僕らの事?

 ちなみに運転手さん、サウナ行ったことありますか?」


「……サウナ?」


「そうです!!サウナ!!」


「行ったことは——ないですね」


「えーーーっ!!もったいない!!」


高持が身を乗り出してきた。

「運転手さん、今夜仕事終わりに——一緒に行きましょう!!」


「え、いや——」


「絶対行きましょう!!俺らが案内します!!」


ニッシーダが言った。

「高持兄さん、急すぎますよ! 運転手さん!してはるし。」


「ええやん!!縁やで、縁!!」


山田勝は——バックミラーの中の二人を見た。

深夜2時。疲れ切った体。誰にも言えない重たさ。


「……行きましょか」


気づいたら、そう言っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


梅田のサウナだった。

基本的に24時間営業の、施設。

昔からあるよな、ここ。

でも、来た事ないわ。。


——中は清潔で、静かだった。


サウナ室に入った瞬間。


熱が——体を包んだ。


「……っ」


肺の奥まで、熱い空気が入ってくる。


「どうですか、運転手さん」

高持が言った。


「……熱い」


「そうです!!熱いんです!!でもそれがええんです!!」


5分が経った。10分が経った。


頭の中が、静かになっていく。


今日の嫌な客の記憶。理不尽に怒鳴られた記憶。

深夜に一人で食べたコンビニのおにぎり。誰にも言えなかった疲れ。

全部が——汗と一緒に、流れていく。


「水風呂、行きましょう!!」


飛び込んだ。


冷たかった。全身が、一瞬で覚醒した。


外気浴。


椅子に座って、天井を見上げた。


「……なんやこれ」


「整ったんちゃいますか」

ニッシーダが静かに言った。


「……整った?」


「そうです。これが——整いです」


山田勝は——天井を見上げたまま、動けなかった。


頭が、軽かった。


体が、軽かった。


50年間、ずっと重かったものが——どこかへ消えていた。


……こんな感覚、あったんや。


生きてて——よかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


サウナの後、三人で串カツ屋に入った。


深夜3時の、カウンターだけの小さな店。


揚げたての串カツが、次々と出てきた。


「ソースは二度漬け禁止やで」

マスターが言った。


「わかってます!!」


高持が串カツをソースにつけて、一口食べた。


「……うまっ!!」

ビールが注がれた。


山田勝も——口に運んだ。


サクッという音。

衣の香ばしさ。

肉の旨味。

紅ショウガの味。

ソースの甘み。


……うまい。


高持が言った。

「運転手さん、ええ顔してますよ。さっきとは——全然違うわ

 僕、心配になったんです。なんか、大丈夫かいなこの人って。

 ホンマすいません、めちゃ振りして」


「いやいや、こちらこそ、ホンマにありがとうございます」


「整ったんちゃいますか」


山田勝は——少し考えて。


笑った。


声を上げて笑ったのは——久しぶりだった。

「……整ったかもしれません」


「でしょう!!それがサウナや!!」


三人で笑った。


深夜3時の、小さなカウンターで。


生きててよかった。


ほんまに——生きててよかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


テルメは、スチームサウナの中で目を開けた。


湯気が、ゆらゆらと揺れていた。


「……あの夜が——ウチをサウナ好きにしてくれたんやな」


ヴァロが、静かに光った。


「タクシーで色んな人を乗せた。

 怒ってる人。

 泣いてる人。

 笑ってる人。

 疲れてる人。

 全部——ウチが聞いてたんや」


「誰にも言えへんことを——ウチに話してくれた人が、おった」


「ウチは何もできへんかった。ただ——聞いてただけや」

涙が——一粒、頬を伝った。


「……それで——よかったんかな」


その時。


ヴァロが——輝いた。


今まで見たことのない、眩しい光だった。

「テルメさん」

ヴァロが——言葉を発した。

テルメが、目を見開いた。


「ヴァロ——喋れるんか??」


「……ずっと、喋れましたよ」


「なんで今まで!!」


「テルメさんが——聞いてくれなかったので」


テルメが固まった。

「……それ、ウチのせい??」


「違います」ヴァロが静かに言った。

「今が——その時だったんです」


ヴァロの光が、大きくなっていく。


「テルメさん。山田勝として生きた50年

 あなたは、ずっと誰かの光を受け取ってきた。

 怒りも、悲しみも、喜びも、疲れも——全部受け取って、

 タクシーの中で一緒に運んできた」


「……ウチが?」


「それが——私の力の源です」


テルメは、ヴァロを見た。


「誰かの光を——増幅させる。 

 それが、私とあなたの力です。

 山田勝として生きた50年が——全部、その力になっている」


テルメの目から——涙が溢れた。


「……ウチの50年、無駄やなかったんか」


「無駄なんて——一秒もありません」


テルメが——深く息を吸った。


「……よっしゃ」


立ち上がった。


「やるで、ヴァロ!!」


ヴァロが——爆発するように輝いた。


金色の光が、洞窟全体を染めた。


スチームサウナの湯気が——全部、光に変わっていった。


壁の岩が、金色に輝いた。天井が、光を反射した。


テルメの周りに——今まで乗せてきた全ての人の顔が浮かんだ。


疲れた顔。

泣いていた顔。

笑っていた顔。

怒っていた顔。

全部が——光になっていく。


「光の増幅——これがウチの力や!!」


ヴァロが——眩しいほどに輝いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌朝。


皆が集まった時——テルメの顔が、昨日と違った。


何かが——変わっていた。


レンが静かに聞いた。


「……何かあったの?」


テルメが。静かに言った。


「ヴァロが——覚醒した」


全員が、静止した。


ザウルが言った。

「テルメさん——なんか、顔が違いますよ」


「そうか?」


「……いつもより、かっこ綺麗っすよ」


テルメが——ニヤッと笑った。


「そやろ!!」


次の瞬間——テルメが叫んだ。

「エーアイちゃん!!ウチも武器みたいなん欲しいんやけど!!」


エーアイが——目を丸くした。


「……え」


「頼むわ!!めっちゃ頼む!!ヴァロも覚醒したし!!

 ウチだけ武器ないのおかしいやん!!」


「武器というか——」


「なんでもええ!!光るやつ!!かっこいいやつ!!」


エーアイが——静かに微笑んだ。


「……作ります」


エーアイが目を閉じた。


シルヴァが——根を張った。

ファビラが——金色に輝いた。

キックルが——青白く踊った。

レッドシリカが——深紅に燃えた。


全てが、エーアイの手の中で——一つになっていく。

精霊たちの力が、束になっていく。


そして。


光のヴィヒタが——完成した。


テルメが、受け取った。


振るった瞬間——五色の光が、洞窟全体を染めた。


「……きれい」リリが呟いた。


「なんやこれ!!!」テルメが叫んだ。


ザウルが言った。


「武器っすよ、これ」


「整いの武器です」エーアイが静かに言った。

「このヴィヒタでアウフグースをかければ——五精霊の力が、

 蒸気に乗って広がります。どんな不快も——一撃で整わせられる」


「これや!!ウチの武器はこれや!!」


ザウル「テルメさん、それ武器じゃなくて整い道具っすよ」


テルメ「一緒やねん!!」


トント「——いや、違う」


テルメ「違わへんわ!!!」


トント「……整い道具で戦う武器だ。同じでも違う」


テルメ「……どっちやねん!!!」


ザウルが静かに言った。


「トントさん、今——哲学的でしたよ」


全員が笑った。


洞窟に——笑い声が響いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ブルーム王に別れを告げた。


「またいつでも来い!!洞窟サウナは——いつでもやってるからな!!」


テルメが叫んだ。


「絶対来ます!!王様!!」


「ガッハッハ!!達者でな!!」


サウナ馬車に——全員が乗り込んだ。


ポホメリの黒い山が——遠ざかっていく。


岩の山が、岩の平原が、黒い大地が——後ろへ流れていった。


トントは窓の外を見ながら、静かに思った。


——全員が、覚醒した。


トントとザウル。

レンとキックル。

エーアイとシルヴァ。

リリとファビラ。

タイカとペトラ。

そして——テルメとヴァロ。


全員が——揃った。


次は——オーユバーラだ。


ザウルが言った。

「トントさん」


「なに」


「……全員揃いましたね」


「……ああ」


「感想は?」


トントが——少し間を置いた。

「……悪くない」


テルメが叫んだ。

「それだけかいっ!!!」


ザウルが言った。

「トントさんの最大の褒め言葉っすよ」


「わかっとるわ!!でも、もうちょっと言葉あるやろ!!」


トントが——窓の外を見たまま、静かに言った。


「……頼もしい」


テルメが——固まった。

「……え」


「全員——頼もしい」


車内が、静かになった。


ヴァロが——柔らかく光った。

ザウルが——風を一吹き、吹かせた。

サウナ馬車が——いよいよセルマ国へ、故郷へ向かって、走り始めた。



次回——第41話・番外編「テルメ前世篇・深夜2時の大阪ミナミ」



第40話 了


最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


*登場する、人物は架空の人物となっております!(笑)

 皆様の想像にお任せいたします。



皆様にお願いがあります。

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を、どこでも良いのでポチッとしてください!


皆様のポチッ。で、物語は続いてまいります!

夢想の最大のモチベーションになります!


次回もぜひお楽しみに。

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