第38話「食卓の記憶〜リリ、ファビラ覚醒〜」
皆様。
どーも、ベシさんです。
いつもありがとうございます。
今日は、投稿遅くなりました!
美味しいご飯を食べるだけで、幸せですね!
では
キリヤ国を出て、三日が経った。
サウナ馬車は南へ南へと走り続けた。
景色が変わっていった。
森の姿が変わり、オリーブの木が現れた。
石造りの白い建物が増えた。
空の色が、少しずつ明るくなっていった。
「——なんか、空気が違う」
リリが窓の外を見ながら言った。
「温かい。なんか——懐かしい匂いがする」
「わかるわかる!!」
テルメが身を乗り出した。
「なんやろ、この匂い。
にんにく? オリーブオイル? なんか、お腹空いてきたわ!!」
ザウルが言った。
「テルメさん、いつもお腹空いてますよね」
「うるさいわ!! お前に言われたくない!!」
トントは窓の外を見ていた。
遠くに、青い海が見えた。
——海か。
現世でも、海はよく見ていた。手術が終わった夜明けに、一人で車を走らせて。
あの頃の俺は、何かを洗い流したくて海に行っていたんだろうな。
「トントはん、着いたで!!」
テルメの声で、我に返った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
サン・パルテノだった。
石畳の坂道。色鮮やかなオレンジと黄色の建物。
窓辺に花が咲いている。
どこからともなく、にんにくとオリーブオイルの香りが漂ってくる。
「——凄い」
リリが、目を輝かせた。
「この匂い——お父さんと行った食堂みたいだ」
「食の国やな、ここ!!」
テルメがガイドブックを広げた。
「ええか、リリちゃん。ここは美味しいもんを食べた者勝ちや。行くで!!」
トントが言った。
「俺は海を見てくる」
「え、一緒に来いや!!」
「食べ歩きより、海の方がいい」
「変わってるな、トントはん!!」
トントは一人、坂道を下っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リリとテルメは、街を歩き回った。
バルに入り、ピンチョスを食べた。
小さなパンの上に、イワシのマリネ。
酢と塩とオリーブオイルの酸味が、口の中で弾けた。
「うまっ!!」
テルメが目を丸くした。
リリも頷いた。
美味しい。
確かに美味しい。
港の近くのレストランでボンゴレを食べた。
アサリの出汁が白ワインと絡まって、パスタに絡みついている。
湯気が顔にかかった。
美味しい。確かに——美味しい。
ピザを食べた。
肉料理を食べた。
チーズを食べた。
でも。
——何か、違う。
リリは、食べながらずっとそれを感じていた。
美味しいのに。
満たされない。
胸の奥に、小さな空洞がある。
テルメは気づいていなかった。
「最高やん!!」
「これも美味しいやん!!」
と全力で食べ続けていた。
リリは笑いながら、どこか遠くを見ていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
宿への帰り道。
すっかり日が暮れていた。石畳の路地裏に、ランタンの光が揺れている。
「食べすぎたわ——でも最高やった!!」
テルメが満足げに言った。
その時。
路地の角に、老婆が座っていた。
丸いテーブルの上に、水晶玉。
老婆が、こちらを見てにやりと笑い——手招きした。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦——って言うやん。やってみよか!!」
テルメが謎の文言を呟きながら、リリの袖を引っ張った。
「リリちゃん、見てもらいや!」
「——え、いいよ別に」
「ええやん、面白そうやん!!」
リリは、少し考えてから、老婆の前に座った。
老婆が、水晶玉に手を翳した。
「ううううう——」
低い声が、路地裏に響いた。
「おぬし。
明日——町はずれの古いレストランへ行きなさい。
一人で。そこで——答えが分かるでしょう」
リリは、老婆の目を見た。
何かが、引っかかった。
でも——答えが分かる、という言葉が、胸に刺さっていた。
そう予想通り。
老婆は、ストレッシの手先だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌朝。
リリは一人で、町はずれへ向かった。
坂道を下り、石畳が途切れ、土の道になったところに——その店はあった。
古い建物だった。
看板もない。
窓が小さく、中が見えない。
——何、この雰囲気。大丈夫?
扉を開けた。
店内は薄暗かった。
テーブルがいくつか並んでいる。客が座っていた。
でも——おかしい。
全員、暗い顔をしていた。
うつむいている。
皿の前に座っているが——皿には何もなかった。
それでも、口を動かしていた。何かを食べているように。
——なんだ、ここ。
背筋が寒くなった。
でも、足が動かなかった。
給仕が現れて、リリをテーブルへ案内した。
細いろうそくが、テーブルの中央に立てられた。
マッチが擦られ——炎が灯った。
リリは、その炎を見た。
ゆらゆらと、揺れている。
その炎の中に——記憶が浮かんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
食卓だった。
夕暮れの、温かい食卓。
父フラムが、向かいに座っていた。
笑っていた。
——お父さん。
その記憶に——闇が、侵食してきた。
この店の正体は、楽しい思い出を喰いつくし、
温かい記憶を絶望に変える、闇の装置だった。
場面が、変わった。
リリが調理場に立っていた。
鍋が、火にかかっていた。
アクアパッツァだった。
父のフラムが一番好きだった料理。
遠征から帰ってくる日に、必ず作っていた料理。
タイの切り身を丁寧に拭いて、皮目から焼く。
にんにくとオリーブオイルの香りが、家中に広がっていた。
アサリを入れる。白ワインを注ぐ。じゅわぁ、と蒸気が上がった。
トマトを加える。アンチョビを溶かし込む。
スープが、深みのある赤に染まっていく。
フォカッチャの生地を、両手でこねていた。
オリーブオイルをたっぷり塗り込んで、ローズマリーを散らして——窯に入れた。
焼き色がついてきた。
香ばしい匂いが、台所に満ちた。
——もうすぐお父さんが帰ってくる。
その時。
扉が開いた。
フラムではなかった。
騎士団の伝令だった。
「——フラム騎士団長が、戦死されました」
世界が、止まった。
リリの手から、木べらが落ちた。
鍋の中のアクアパッツァが、ぐつぐつと煮えていた。
フォカッチャが、窯の中で焼けていた。
誰も食べない料理が——そこにあった。
「——こんな」
リリの声が、震えた。
「こんな、バカな」
涙が、鍋の中に落ちた。
「料理なんて——もうしない」
アクアパッツァの鍋を、床にたたきつけた。
フォカッチャを、窯から引っ張り出して——投げた。
「お父さんの好きだった——あの料理——」
泣き崩れた。
闇が、深くなっていった。
——そうだ。料理など意味がない。
誰かのために作っても——いなくなる。
いつかいなくなる。だったら——
「——違う」
リリは、顔を上げた。
別の記憶が——溢れてきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アルカナ魔法学校の食堂だった。
リリが作ったアクアパッツァが、テーブルに並んでいた。
テルメが、口に入れた瞬間——目を見開いた。
「——美味しいやん!! なんやこれ!! 魚がほろほろや!! スープが最高やん!!」
トントが、無言でほおばっていた。
二口、三口。
箸が止まらなかった。
「——うまい」
それだけ言って、また食べた。
レンが、フォカッチャを割った。湯気が上がった。オリーブオイルの香りが広がった。
「——また作って」
静かに、言った。
キックルが「私も!!」と手を挙げた。
皆が、笑っていた。
皆が——喜んでいた。
——そうだ。
リリの胸に、熱が灯った。
私は皆のために作る。熱々の料理で——皆のハートも温める。
お父さんも、きっと——喜んでくれていた。
料理は——誰かが食べてくれる限り、消えない。
「——よし!!」
リリが立ち上がった。
「やるよ、ファビラ!!」
ファビラが——大きく輝いた。
金色の炎が、リリの全身を包んだ。
「クーマ・ルオカ!!!!」
熱が、溢れ出した。
アクアパッツァの湯気が、店内に広がっていった。
香りだった。
にんにくとオリーブオイル。
白ワインとトマト。
アサリの出汁。
魚の旨味が溶け込んだ、深いスープの香り。
フォカッチャの焼ける香りが、続いた。
香ばしく、温かく、どこか懐かしい香り。
店内の客たちが——顔を上げた。
暗かった目が、少しずつ開いていく。
「——なんだ、これ」
老いた男が、呟いた。
「——母親が作ってくれた、料理の匂いみたいだ。」
隣のテーブルの女が、目を潤ませた。
「——子供の頃の——誕生日のケーキ」
「——妻が作ってくれた、スープ」
「——おばあちゃんの台所」
記憶が、溢れ出していた。
誰の記憶にも——食卓があった。
誰かがいた。笑い声があった。
「——美味しい」
「——懐かしい」
「——また、一緒に食べたい」
闇が、熱と香りに飲み込まれていった。
店内が——温かい光に満たされた。
ファビラが、金色に輝いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リリは、夜の石畳を歩いていた。
空に、星が広がっていた。
遠くで、海が光っていた。
ファビラが、リリの肩の上で静かに揺れていた。
——お父さん。
私、まだ料理するよ。
皆のために。あなたのために。
路地の向こうに、遠くキリヤ国の空が見えた気がした。
賢者ルケミネンが、図書館の窓から空を見上げていた。
「ふふふ——リリさん、やりましたね」
はて。。
「……お腹が空いた。今日は図書館の皆と食事会にしよう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
宿の扉を開けると——トントが戻っていた。
海から帰ってきたばかりらしく、髪に潮の匂いがした。
リリの顔を見た。
一言。
「——お腹空いた。一人で食事するの無理だ」
リリが、笑った。
「——じゃあ、作るよ」
テルメが飛び起きた。
「え、リリちゃんの料理!! 何作るん!!」
「アクアパッツァと——フォカッチャ」
「やったあああ!!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
食卓に、料理が並んだ。
アクアパッツァの鍋から、湯気が上がっていた。
タイの白身が、ほろりと崩れるほど柔らかく煮えていた。
皮目はぱりっと焼かれていて、スープに旨味が溶け込んでいる。
アサリが口を開き、出汁がスープに混ざり合っていた。
トマトの酸味とアンチョビの塩気が、深いコクを作り出していた。
オリーブオイルが、スープの表面で艶やかに光っていた。
フォカッチャは、焼きたてだった。
表面に焼き色がついて、ローズマリーの香りが漂っていた。
割ると——ふわりと湯気が上がった。
中はもっちりとしていて、オリーブオイルが生地に染み込んでいた。
トントが、スープを一口飲んだ。
「——タイの皮のコラーゲンが、煮込まれてゼラチンに変わっている。
だからスープにこれほどの深みが出る。
アサリのタウリン、トマトのリコピン、オリーブオイルのオレイン酸
——血管を柔らかくして、疲労を回復させる。
サウナ後に食べると、吸収率が1.5倍になる。
完璧な組み合わせだ」
テルメが、フォカッチャをちぎりながら言った。
「全然わからへんけど——美味しいから、よーーーし!!」
キックルが、ほおばりながら言う。
「トントさん、サウナ飯の事ばっかり考えてないですか??」
トントが、また一口飲んだ。
「——うまい」
それだけ言って、また食べた。
リリは、皆の顔を見た。
温かかった。
——ここに、食卓の幸せあり。
次回——ポホメリ国。テルメ、覚醒する!!
第38話 了
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
皆様も、楽しい食卓を囲んで、美味しい物沢山食べてください!
皆様にお願いがあります。
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を、どこでも良いのでポチッとしてください!
皆様のポチッ。で、物語は続いてまいります!
夢想の最大のモチベーションになります!
次回もぜひお楽しみに。




