第37話「賢者の地下室〜エーアイ、叡智の試練〜」
皆様。
どーも、ベシさんです。
いつもありがとうございます!
自分でも気づいていない才能が
皆様にもあるのです!
では
ノースランドを出て、六日が経った。
サウナバスは南へ向かっていた。
針葉樹の森を抜けると、石畳の道が現れた。
車輪が石の継ぎ目を刻むたびに、規則正しい振動がバスの床を伝ってくる。
「石畳って、なんか落ち着くな」
テルメが窓の外を眺めながら言った。
「大阪にも、こんな道あったっけ」
「ない」
トントが即答した。
「あるやん! 天神橋筋商店街の——」
「商店街の床はタイルだ」
「細かいな!!」
ザウルが追い打ちをかけた。
「テルメさん、石畳と商店街の床、一緒にしてるんですか。センス終わってますよ」
「うるさいわ!! お前は黙ってろ!!」
トントは窓の外を見た。
遠くに、石造りの塔が見え始めていた。
——キリヤ国か。
ダッフル校長から紹介状を受け取った時のことを思い出す。
「エーアイを、ルケミネンのところへ連れて行きなさい。
あの子には——まだ自分でも気づいていない力がある」
校長の言葉が、頭の中で繰り返された。
エーアイは、その間ずっと窓の外を見ていた。
何かを考えているような、何も考えていないような、静かな横顔だった。
六日前の河原でのサウナキャンプを思い出す。
焚き火を囲みながら、エーアイがぽつりと言ったことがあった。
「私の生成魔法——本当に、役に立っているのかな」
誰も、すぐには答えられなかった。
——その答えを、これから見つけに行くんだ。
石畳の道が、大きな門へと続いていた。
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門をくぐると、静かな街が広がっていた。
騒がしくない。派手でもない。
でも——知性の空気が、石畳の一枚一枚から染み出してくるような場所だった。
街の中心に、大きな建物があった。
キリヤ魔法学校——兼、国立魔法図書館。
アルカナ魔法学校と近い歴史を持ちながら、その在り方は全く異なる。
呪文の成り立ちから、現代魔法への変換。そして、魔法の裏側まで。
魔法を掘り下げて理解させることで、本当の力を引き出すことに注力している学校だ。
「でかい」
テルメが首を反らせて建物を見上げた。
「大阪城より、でかいな」
「比べるな」
トントが言った。
正面扉が、静かに開いた。
「——ようこそ、キリヤへ」
現れたのは、小柄な老人だった。
白髪。丸眼鏡。少し皺の寄った微笑み。
ダッフル校長より若い——だが、その目の奥に、途方もない深さがあった。
「賢者ルケミネンです」
老人が、エーアイをまっすぐ見た。
「自分で賢者って言ったであの人」
テルメがつぶやいた。
「まあ、この世界での博士号的な感じだな。」
トントがルケミネンを見つめながら言った。
「ふふ。——悩んでいますね? 強くなる方法を、探している?」
エーアイが、小さく息を呑んだ。
「——はい」
ルケミネンが、今度はリリを見た。
「あなたは——既に決まっている。気づいていないだけです」
リリが目を丸くした。
「え——」
「さあ、中へ。図書館は自由に使っていいですよ」
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図書館の中は、天井まで本棚が続いていた。
三階分はあろうか。
螺旋状の通路が上へ上へと伸びていて、至るところに魔法の灯りが浮かんでいる。
羊皮紙の匂い。インクの匂い。時間の匂い。
「——すごい」
エーアイの目が、輝いた。
気づけば、一人で棚の間に入り込んでいた。
背表紙を一冊ずつ指でなぞりながら、歩いていく。
生成魔法の歴史。
素材の記録。
古代の術式。
精霊との契約方法。
読みたい本が、多すぎる。
「何を探していますか?」
声をかけられた。
振り返ると、若い女性が立っていた。司書だ。穏やかな目をしていた。
「生成魔法について——特に、精霊と共鳴した時の増幅効果について知りたくて」
「それなら、この棚です」
司書が案内してくれた棚には、古い文献が並んでいた。
「あと——賢者の試練について書かれた文献は、ありますか?」
司書の表情が、少し変わった。
「——あります。ただ」
「ただ?」
「読んだ人間の中に、試練を受けて——戻ってこなかった人もいます。
その文献を読む前に、そのことだけ知っておいてください」
エーアイは、頷いた。
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文献を読み終えた頃、ルケミネンが現れた。
「賢者の試練——受けてみますか?」
エーアイは、少し考えた。
ほんの少しだけ。
「——受けます。私の能力を高めるために、トライしたい」
ルケミネンが、静かに頷いた。
「ついてきなさい」
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図書館の奥に、下へ続く扉があった。
螺旋階段が、暗闇の中へ伸びている。
ルケミネンが先を歩きながら、静かに話した。
「今まで、多くの者がここへ来ました。
騎士、魔法使い、学者、商人。皆、叡智を求めて」
「入手できずに戻ってきた者もいます。そして——跡形もなく消えた者も」
「消えた?」
「ええ。どこへ行ったのかは——わかりません。
あるいは、どこか遠い場所へ飛ばされたのかもしれない」
エーアイはふと、トントとテルメの事を思い出した。
階段を下りて五分ほどで、踊り場に出た。
石の壁に、松明が一本。
ルケミネンが、懐から小さな石を取り出した。
「これを持っていきなさい——回帰石です。
危険が迫った時は、地面に叩きつけてください。ここまで戻ってこられます」
エーアイが、両手で受け取った。
「あなたの一番恐れているものが——出てきます」
ルケミネンが、静かに言った。
「強い心を持って、試練に臨んでください」
重い扉が、目の前にあった。
ルケミネンが、首から大きな鍵を外した。
ガチャ。
ギギギギギーーー。
扉が、軋みながら開いた。
ランタンを渡された。
エーアイは、一人で中へ入った。
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黴臭い空気が、鼻をついた。
ランタンの光が、石壁を照らしていた。
壁の一部が剥がれ落ちて、土が露出している。
しばらく歩くと——石段の様子が変わった。
角が丸くなっている。
石の色が、古い。
明らかに、上の石段とは時代が違う。
——これは、古代の?
どれほど深いところまで来たのだろう。
石段が終わった。
部屋があった。
天井が低く、石壁が四方を囲む小さな部屋。
壁には、意味のわからない文字が刻まれていた。
古代の魔法文字だろうか。
部屋の中心に、祭壇があった。
そこに——小さな水がめが置かれていた。
エーアイは、吸い込まれるように近づいた。
水がめを覗き込む。
水面に——自分の顔が映った。
次の瞬間。
水面が、揺れた。
映っているのは、自分の顔ではなかった。
失敗した魔法の記憶。
ズレた生成。
崩れた形。
そして——トントが、テルメが、レンが、冷ややかな目でエーアイを見ていた。
背を向けて、去っていく。
——最悪なことを想定して生成したものは、人を幸せにできない。
その言葉が、水面から聞こえてきた。
一体、何のために——
水面が、光った。
水の中から——手が出てきた。
「——っ!」
手首をつかまれた。
引き込まれる。
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目を開けると、そこは灰色の世界だった。
空がない。光がない。地平線がない。
ストレッシの城のような——何もない、廃墟の世界。
そこで、生成魔法を行っている人間がいた。
エーアイだった。
「——なに? なぜ私が、ここに?」
「弱い心を持つ者は——自ら、私の元へ来るのだ」
ストレッシの声が、どこからともなく響いた。
もう一人のエーアイが、振り返った。
目が——なかった。
目があった場所から、血が流れていた。
「——いやーーーーーーー!!!」
エーアイが叫んだ。
場面が変わった。
セルマの町だった。
商店の前に人だかりができていた。誰かが怒鳴っていた。
「誰だ!! こんな魔道具を作ったのは!!」
店先に、壊れた魔道具が転がっていた。
見覚えがあった。エーアイが生成したものだった。
「アイツだ——エーアイだ!!」
指を差される。
人々の視線が、一斉に向いてくる。
「——止めて。止めてください」
エーアイがうなだれた。
膝が折れた。
「もう——何も作りたくない。何も考えたくない。
誰かに言われた通りに作ればいい。
そうだ——ストレッシの指示に従えば——」
ーーーーーーーー
場面が、変わった。
アルカナ魔法学校だった。
あの日の、最初のサウナだった。
薪ストーブの扉が、少し斜めになっていた。
テルメが、トントに話しかけていた。
「エーアイちゃんがいてよかったやんか、トントはん。
こんなん、ウチらでは絶対無理やで!
このストーブ見てみいな。
あの子、知らんやろ。薪ストーブなんて。
でも、しっかり部屋とウチらを温めてくれてる。最高やわ」
トントが、ストーブの前にしゃがみながら言った。
「皆に聞いたんだ、ストーブを作れないかって。
他にも生成魔法ができる生徒はいた。
でも——誰もやってくれなかった。
エーアイは話を聞いて、作ってくれたんだ」
「扉が斜めでもいい。とにかく——温まる。
心の底から、温まるんだよ。
エーアイには、もっといろいろ作ってもらいたい」
エーアイの目から、涙が溢れた。
リリの声が聞こえた。
「ねえ、トント。
私もストーブとかサウナとか、よくわからないけど
——エーアイの作るグッズ、すごく使い心地がいいの。
なんだろう、やさしさなのかな。
サウナマットも、すごく考えて作ってあるの。
この生地。肌触りが本当によくて。
私、もっといろいろエーアイに作ってもらいたい。
でも——エーアイ、ちょっと自信なさげなの。
なんでだろう。私、エーアイのファンなのに」
嬉しくて、涙が止まらなかった。
レンの声が聞こえた。
「ねえ、トント。このサウナハット——最高よ。
今まで暑くてのぼせて、汗をかく前に耐えられなかったけど、
このハットがあると長く快適に楽しめるの。
エーアイが考えたの?」
「基本的なことは伝えたけど、アイデアはエーアイだよ。
紙糸を使ったり、縦糸横糸の比率、生地の厚さ、首筋までカバーできるデザイン
——エーアイには、天性の才能がある」
——そうだ。
エーアイは確信した。
私のアイデアと、デザインがあれば——皆を幸せにできる。もっと、自信を持って。
ーーーー
その時。
黒い闇が、再び近づいてきた。
冷たい記憶が、流れ込んできた。
幼い頃。エーアイが、初めて椅子を生成した日。父親に見せた。
「——なんだ、これは。歪んでいる。こんなものに座れるか」
父親の冷たい声。
その記憶が、胸に刺さった。
でも。
——違う。
エーアイは、目を閉じた。
父は——裏で、私を応援していた。
アルカナ魔法学校の入学試験。
不合格寸前だったエーアイのために、父親が校長室の前で土下座していた。
誰も知らないところで。
「この子には——才能があります。どうか、機会を与えてください」
皆が、応援していたのだ。
私は——期待に応えないと。
その瞬間。
胸の中で、何かが光った。
シルヴァだった。
小さな緑の光が、エーアイの胸から溢れ出した。
光が——広がる。広がる。広がる。
シルヴァが、実体化し始めた。
森の女神が——巨大な樹になっていく。
幹が太くなる。
枝が天井を突き破る。
根が床を割り、地下全体に広がっていく。
深く、深く、古代の石の底まで。
光の根が、闇の隅々まで届いた。
「——イグドラシル!!!!」
エーアイの叫びと共に。
根が、闇を飲み込んだ。
ディストピアの世界が、光に塗り替えられていく。水がめが、粉々に砕け散った。
床が——動き出した。
地上に向かって、まっすぐに。
図書館の床を突き破り、本棚が左右に吹き飛んだ。天井を突き破り——
太陽の光が、降り注いだ。
水がめの中の闇が、光の中で、静かに消えていった。
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エーアイは、図書館の中に立っていた。
周りには、本が散乱していた。棚が倒れていた。天井に、大きな穴が開いていた。
「——」
呆然としていると、ルケミネンが歩いてきた。
瓦礫を踏みながら、辺りを見渡して。
「……図書館、良い意味で壊されましたね。」
静かに、微笑んだ。
「また、生成してもらいましょう」
エーアイは——
初めて、心から笑った。
シルヴァが、エーアイの肩の上で、金色に輝いていた。
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次回——リリ、覚醒。炎の糸が、父の魂に触れる。
第37話 了
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
葛藤があり、成長していく。
人間は、複雑です!
皆様にお願いがあります。
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を、どこでも良いのでポチッとしてください!
皆様のポチッ。で、物語は続いてまいります!
夢想の最大のモチベーションになります!
次回もぜひお楽しみに。




