第36話「氷河の咆哮〜ラーガルフリット覚醒〜」
皆様。
ベシさんです。
いつもありがとうございます!
ラグーン。よい言葉の響きです。
では!
翌朝。
謁見の間に向かうと——女王がいなかった。
「女王は、外にいらっしゃいます」
アイスランディックホースが、静かに告げた。
連れられて向かった先は、城の裏手に広がる巨大な氷の山だった。
風が、鋭く頬を切る。
雪煙が舞い上がり、視界が白く霞む。
その向こうから——
ガキィィィン。
金属と氷が激突する音が、山肌を震わせた。
「なに、あれ」
テルメが目を細める。
雪煙の向こうに、巨大な影があった。
山ほどの体躯。氷でできたハンマーを両手で握りしめた、トロールだ。
そしてその正面に——アールブ女王が、たった一人で立っていた。
ハンマーが振り下ろされる。
大地が割れるような轟音と共に、氷塊が四方に飛び散った。
だが女王は動じない。
左手を前に突き出すと、分厚い氷の壁が瞬時に展開された。
ハンマーが壁に激突する。
ガチ。ガチ。ガキガキガキ。
壁にひびが入るが——砕けない。
割れない。女王の魔力が、ひびを瞬時に塗り替えていく。
「押しっこじゃ、勝てないわよ」
女王が、微笑んだ。
次の瞬間——右手が空を切った。
氷の矢が、十数本。
鋭く、速く、美しく——トロールの両足に向かって一直線に飛んでいく。
防ぐ間もなかった。
矢が足首に突き刺さり、トロールの巨体がぐらりと傾く。
どっしーーーーん。
大地が揺れた。
雪と氷の粉煙が爆発するように舞い上がり、視界が完全に白くなった。
しばらくして、煙が晴れると。
「——女王よ。降参だ」
うつ伏せに倒れたトロールが、低く唸った。
「あら、もうお終いなの?」
女王はそう言いながら、トロールの傍に歩み寄り——静かに回復魔法をかけた。
みるみると、足首の傷が塞がっていく。
「え」
レンが、隣で固まっていた。
「なにこれ?練習……?」
「みなさん、おはようございます」
女王が振り返り、穏やかに微笑んだ。
「こちらのトロールは——この国のトロールの猛者。
全てのトロールを束ねる者。名をユールといいます」
「私も腕が鈍らないよう、時間があればここで遊んでいるのよ」
「…………遊び」
テルメがぼそりと呟いた。
「あれが……遊び……」
トントは何も言わなかった。ただ心の中で、静かに思った。
——これは、レベルがちがう。強くなれる。
「さて」
女王がレンとキックルに視線を向けた。
「レン姫。キックル。
ユールと——少し遊んでみない? あなたたちの強さを、見てみたいの」
「回復魔法は私がかけるから——両者、全力で戦いなさい」
ユールがゆっくりと立ち上がった。
巨大な氷の棍棒を右手に持ち、レンに狙いを定める。
その目に——油断は、一切なかった。
「キックル」
「はい、レン様」
「全力でいくわよ」
「——はい」
ユールが踏み込んだ。
大地が軋む。
雪が舞い上がる。
棍棒が、横薙ぎに振られた。
ッッガァン。
レンが水魔法の防御壁を張る——が、衝撃が腕を震わせた。
ギリギリだ。
膝が沈む。
「レン様!」
キックルが叫びながら、全魔力をレンに送り込む。
レンは立て直し、水の針——ウォーターニードルを連続で放った。
ユールの体に着弾する
ダダダダダダ!
だが。
ユールは、ものともしない。
一歩、また一歩、真っ直ぐ前へ進んでくる。
(効いていない)
レンの脳が、高速で回転する。
このパワー。
このスピード。
この防御力。
このタイプに有効な水魔法は——
「ウォータースピア!!」
巨大な水の槍が、ユールに向かって飛んだ。
ユールが右腕で受け止める。氷の鎧が砕ける音がした。
だが——ユールは止まらなかった。
「———!」
「離れて!! レン様!!」
キックルの叫びと同時に、レンがジャンプで後方に跳んだ。
棍棒が空を切る。
ズゴオォォン。
着地していた場所の氷が、粉々に砕け散った。
レンが歯を食いしばる。
キックルが全魔力を絞り出してレンに送る。
それでも——ダメだ!!
なんてパワー。
手詰まりだ。
ユールが、棍棒をゆっくりと持ち直した。
そして——今度はキックルに狙いを定めた。
(キックルが狙われる)
「——キックル、逃げ——」
言葉が終わる前に。棍棒が、薙ぎ払われた。
ブワァッ。
「——キックル!!!!」
レンが跳んだ。
キックルを両腕で抱き抱えながら、斜め後方に吹き飛ぶ。
雪の上を転がり、止まる。
「——大丈夫……?」
「……はい。レン様、ありがとうございます」
ユールが、ゆっくりと歩み寄ってきた。
棍棒が、頭上に持ち上がる。
二人を、そのまま——叩き潰す気だ。
(終わり、か)
レンが、キックルを強く抱きしめた。
その時。
キックルが——光った。
深い、深い青。
生まれた海の色。
地の底から湧き上がるような、原初の青。
「——これは」
女王が、静かに目を細めた。
氷河が、唸った。
遠くの山々から、地鳴りのような振動が伝わってくる。
ミシ、ミシ、ミシ——氷の層が、何かに呼応するように動き始めた。
「キックル……?」
レンが、腕の中のキックルを見た。
キックルの目は——閉じていた。意識がない。
いや、違う。
もっと深いところに——いる。
氷河の水面が波打ち始めた。
波紋が広がっていく。
そして——
水面が割れた。
巨大な何かが、氷河の底から姿を現した。
蛇だ。
いや——龍だ。全身が深青の氷で構成された、リバイアサン...。
いや、違う。 これは
ラーガルフリットだ。
ユールよりも、さらに大きい。
その体が、光の中でゆっくりと鎌首をもたげ——ユールに向かって、尾を薙ぎ払った。
ッッッドガァァァァン!!!
ユールの巨体が、吹き飛んだ。
「——凄い」
誰かが、呟いた。
だが、ラーガルフリットは止まらなかった。
尾が地を叩く。
氷河が震える。
水柱が上がる。
波が、押し寄せてきた。
「逃げろ!!」
タイカが叫んだ。全員が後退する。
ドドドドドドド。
氷河の波が、岸を飲み込んでいく。
「——キックル!!」
レンが叫んだ。届かない。キックルは、トランス状態の深淵にいる。
(どうする。このままでは——)
レンは決めた。
キックルを、強く抱きしめる。そして。
「——鎮まりなさい」
低く、静かに言った。
「精霊よ」
波が、一瞬止まった。
「その魂——コントロールさせてもらうわよ」
レンの全身に、青白い光が走った。
キックルの魔力と、レンの魔力が——一つに溶け合う。
レンは目を閉じ、ラーガルフリットを見た。
見えた。
繋がりを感じる!
「——氷河の咆哮!!」
ラーガルフリットが、口を開いた。
そこから放たれたのは——無数の氷の矢だった。
美しかった。
朝日を受けて、無数の矢が白銀に輝きながら、弧を描いて飛んでいく。
ユールの両腕が、矢に貫かれた。
棍棒が、落ちた。
(命令できた!? 何故なの??)
レンは、自分でも驚いていた。
「そこまで!」
女王の声が、透き通るように響いた。
ラーガルフリットが、静かに氷河へ戻っていく。
波が、引いた。
キックルが——ぐったりとレンの腕の中に沈んだ。
「キックル! キックル!!」
———
キックルは、夢を見ていた。
生まれた海だった。
深く、青く、冷たい。
光が届かない底の方から、何かが輝いていた。
温かい声が、聞こえた。
——キックル。
あなたには、氷の力も。
あるのよ。
誰の声だろう。
でも、知っている。
生まれた時から、ずっと聞いていた声だ。
水と氷。
どちらも、あなたのもの。
今日から——両方の力で、生きなさい。
レンを助けるのです。
二人で——魔王を倒すのよ。
キックルは、海の底で頷いた。
また、眠りに落ちた。
もっと深い夢の中で——さらに冷たい力が、キックルを包み込んだ。
深い青。
濃い青。
生まれた海よりも、さらに深い場所にある色。
——キックル。これからも頼むわよ。
その声は、氷河そのものの声だった。
ラーガルフリット——氷河の底に眠っていた、太古の精霊の声。
キックルは、その声に包まれて——完全に、目覚めた。
ーーーーーーーー
「——レン様!!」
キックルが飛び起きた。
「キックル!! 良かった——!」
レンが、キックルを抱きしめた。
女王が、静かに傍に立っていた。
「キックル。あなたは、水と氷の精霊から生まれた。本来の力が——今日、目覚めた」
「これからは、二つの力で戦いなさい」
キックルは、自分の手を見た。
深い青に、かすかに白い光が混じっている。
氷の冷たさが、水の柔らかさと共存していた。
「レン様」
「なに?」
「これからも——よろしくお願いします」
レンが、微笑んだ。
「こちらこそ」
レンはホット胸を撫で下ろした。
だが、キックルが一瞬、
トランス状態に陥った。
あの瞬間が、脳裏から離れなかった。
キックルは、テルメやザウルと楽しそうに話している。
レンの視線に気付き、
キックルはレンに手を振った。
(いつもと変わらない。わよね。。)
—————
城の謁見の間に戻ると——女王が、細長い布に包まれたものを手に持って待っていた。
「レン姫。
この国に伝わる武器。
レイピアを、あなたに託します」
布が、解かれた。
透き通るような水色の刀身。
握りには、氷河の紋様が刻まれていた。
「名は——ヨークレイピア。
氷河の力を込めて、
氷鍛冶が鍛えた伝説のレイピアです」
レンが、両手で受け取った瞬間——刀身が、淡い青白い光を放った。
キックルも、同じ色に輝いた。
共鳴した。
精霊と剣が——同じ魂を持っていると、喜んでいるようだった。
「このレイピアで、敵を切り裂き、皆を幸せに導くのです。」
女王が、静かに微笑んだ。
「必ず」
レンが、頷いた。
女王が、ふと思い出したように振り返った。
「そうそう。テルメさん」
「——はい?」
「あなた、昨夜。
ここにサウナがないのか、
って言ってたわよね」
テルメの顔が、真っ赤になった。
「えっ。なんで知ってはんの!?
す、すいません。そんな失礼なことを……。
ウチ、1週間に3回以上サウナに入らんと、
なんかムズムズするんですわ。
ホンマに気にせんといてください。
ホンマにすいません、ホンマに——」
「っていうか」
テルメが、ぴたりと止まった。
「この流れ……まさか——あるんですか?」
女王が、静かに微笑んだ。
「ふふふ。——それに近いものが」
城のテラスへ出ると——
眼下に、広がっていた。
誰も、言葉が出なかった。
乳白色と、深い青が混ざり合うような水面。
空の青と海の青が溶け合う。
そこに地球の熱が混ざったような——この世のどこにもない色。
ミルキーブルー。
いや、もっと深い。
もっと静かな。
もっと、美しい。
水面の端では、蒸気がゆらゆらと立ち上り、マイナスの空気に触れて白い霧になった。
その霧が水面すれすれを漂い——まるでラグーン全体が、静かに呼吸しているようだった。
ラグーンの奥では、巨大な間欠泉が地上30mの高さまで吹き上がっていた。
白い柱が、空へ向かってまっすぐに伸び、頂点で霧散する。
その瞬間、陽光を受けて七色の光が散った。
「——虹だ」
トントが、静かに言った。
「ノースラグーン」
女王が言った。
「地熱を使った温泉と、
スチームサウナです。
自然に湧き出しているの。
みなさんの魔力も高まることでしょう。
さあ——入るわよ」
女王が、水着に変身した!
あまりの美しさに、皆が息をのむ。
そして——
ざっばーーーーん。
何のためらいもなく、ラグーンに飛び込んだ。
「さあ、みなさんも」
全員が顔を見合わせた。
よーし!!
ザッパーーーーーーン。
「ひゃぁぁぁぁ——!!」
テルメが、とびきりの笑顔で飛び込んだ。
レンが、静かに滑り込んだ。
リリがエーアイに手を引かれながら入った。
タイカが
「わかります? これが本物の温浴なんですよね〜
腕の治療にもなるんですよね~」と言いながら入った。
トントは——最後に、
一人でラグーンの縁に立った。
眼下に広がる、ミルキーブルーの水面。
立ち上る湯気。
遠くで吹き上がる間欠泉。
その奥に、雪を被った山々。
空は、低く、青く、
果てしなく広がっていた。
脳外科医だった俺が——こんな場所に立っている。
悪くない。本当に——悪くない。
トントは、静かに水の中へ入った。
温かい水が、体を包んだ。
乳白色の水は底が見えないほど深く青く、それでいて不思議と恐怖を感じない。
肌に触れる温度が、じわりじわりと体の芯まで伝わってくる。
魔素が、全身を巡る感覚があった。
(なんだか炭酸泉にに入っているみたいだ。これ自体が、整っている)
「ホンマに広い温水プールやん、これ!
マイナス気温の中で泳ぐなんて、
信じられへんわ! 皮膚の感覚が全部リセットされる気がする!!」
テルメが背泳ぎしながら喋っている。
ホンマに、何しながらでも喋れるやつだな
—あれっ。なんか関西弁混ざってる、俺も。
トントは小さく笑った。
水面から空を見上げると——
オーロラの残光が、
うっすらと空の端に滲んでいた。
緑と、青と、白。
この世界で、俺たちは確かに強くなっている。
—オーユバーラに近づけている。
「あ——」
水面が、突然波立った。
どっばーーーーーーん。
ユールが、ラグーンに飛び込んできた。
巨大な水柱が上がり——
「——っ!!!」
テルメが衝撃で吹き上がった。
そのまま——間欠泉の真上へ。
「あつっ!!!!」
ぶしゃぁぁぁーーーー!!
「間欠泉地獄やんかぁーーー!!
あつっ!! あつっ!! あつっ!!!」
全員が、大笑いした。
女王が上品に笑いながら。
レンが珍しく声を上げて笑いながら。
タイカが
「わかります? これがテルメさんなんですよね〜」と言いながら。
笑い声が、ラグーンの水面を渡り——
雪山の向こうへ消えていった。
トントは、水面に仰向けになった。
空を見上げながら、ぷかぷかと浮かんだ。
なんか——色々スッキリした。
ここも、素敵なところだな。
本当に、ありがとう。皆んな。
トントはプカプカと浮かび続けた。
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第36話 了
次回——エーアイ、リリの覚醒!
図書館で試練って!?
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
レンとキックル。そして、精霊の目覚め。
戦う準備がトトのってきております!
皆様にお願いがあります。
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を、どこでも良いのでポチッとしてください!
皆様のポチッ。で、物語は続いてまいります!
夢想の最大のモチベーションになります!
次回もぜひお楽しみに。




