第34話「修行・鍛錬・流れる汗。バイキングの末裔」
ケロ ケロ ケロっケロ。
ケロサウナ、最高ですね。
では!
風の入江。
岬の崖の上から——トントたちは、入り江を見下ろした。
風が強い。
ここは風がやむことはないという。
ザウルが——いつもと違った。
トントの肩で、静かに——でも確かに、揺れていた。
「……マジっすよここ」
「なに」
「俺、なんか落ち着くっすよ」
「……そうか」
「なんかここ——知ってる気がするっすよ」
トントは黙って——入り江を見た。
ザウルが、何かを感じている。
入り江には小さな村。二十戸程度の集落。
漁村の雰囲気——いや、違う。
砂浜に並ぶ船が、物々しい。
「トントはん」テルメが呟いた。「あの船……どこかで見たことあるような」
「海賊船みたいだな」
「ほんまや!!本物の海賊船か!?」
ザウルが言った。
「テルメさん——声、デカいっすよ」
「いつものことやんか!!」
「入り江に響いてるっすよ」
「うるさい!!行くで!!」
トントたちは、入り江に向かって坂を下っていった。
砂浜に近づいた瞬間——
ザクッザクッと、力強く砂を踏みしめる音が聞こえた。
大きい。
身長百九十五センチはあるだろうか。
体重も百キロ以上ありそうだ。
ごつごつした肩。太い腕。
その上半身を支えるには十分すぎるほど逞しい体。
「何をしている。この入り江に何の用だ」
テルメが慌てて言った。
「こんにちわ〜!すんません、勝手に入ってしもて!
なんやカッコいい船があるので、ちょっと見てましたんやわ〜」
「……そうか。船か」
男は怖い顔でテルメを見た。
「カッコいいだろ。この船でな——やるんだよ」
「やるって、何をですのん?」
……ああ、なんか、聞いてはいけない事を聞いているような。
「さかなだ」
「えっ??さかな?漁師さんですか!?ですよね〜!
そう思ってましたよ〜!腕なんかマグロ一本釣り余裕な奴ですもんね〜!
テレビで大間のマグロ一本釣り!みたいなんやってるやん。
あの番組ウチ好きやってん!
マグロ、ご期待ください!って——」
ザウルが静かに言った。
「テルメさん——大間の話、この世界で誰も知らないっすよ」
「ウチが知ってたらええねん!!」
「俺もわからないっすよ」
「ザウルまで!!」
トントが割って入った。
「すいません。こちらの村に、風の魔法使いはいらっしゃいますか?」
男はトントを見た。
「あぁん?……そうか。付いてこい」
男は歩き出した。
崖の上に——小ぎれいな屋敷と、複数の小屋が並んでいた。
一行は男の後について、屋敷に飲み込まれていった。
屋敷のエントランス。
小さなホールになっている。
銅像が並んでいた。
真ん中は——顔が破壊されている男の像。
左右には——若い男と、精霊を肩に乗せた魔法使いの像。
……右の若い男。どこかで見たことあるような。
左の魔法使いの精霊——ザウルにそっくりだ。
ザウルが——静かに、強く揺れた。
「……」
何も言わなかった。
でも——何かを、感じていた。
見入っていると、二階から声がした。
「到着されましたか、ご一行」
かなり高齢のジェントルマンが、トントたちを見下ろしていた。
「……あのおじいちゃん、銅像の左の人やんな」テルメがトントに囁いた。
「あぁ、多分な」
「自分の家に、自分の銅像置く人っているんやな。
自意識過剰なんかな。
いや、ここは博物館で、管理してるおじいちゃん——かな」
テルメよ。その発想力、感心するよ。
ザウルが小声で言った。
「テルメさん——それ本人の前で言わない方がいいっすよ」
「言うてへんやんか!!」
「声、大きいっすよ」
「……っ!!」
トントは改めて頭を下げた。
「初めまして。アルカナ魔法学校からきました。
トントです。ダッフル校長先生から紹介を受けて訪問しております」
「ふぉふぉふぉ。
ダッフルが教育者になり、このような若いお嬢さんたちを送り込んでくるとは。
互いに年齢を重ねました」
老人は微笑んだ。
「まずは、色々と話をしましょう。
魔法使いの皆さん——いや、世界を救う皆さん。どうぞ」
二階の応接間に通された。
魔導書が所狭しと並んでいた。
「さて。どこから話しましょうか。
その前に——私の名前は、トゥーリ・オペッタと申します」
「……オペッタ」トントは繰り返した。
トゥーリ——風。オペッタ——先生。
風の先生。
「トゥーリ・オペッタ先生!
……風の、先生、先生?ですか?先生という意味の名前の先生?」
「ふぉふぉふぉふぉふぉ。
面白いことを言うね、トントさん。その通り、私は先生の先生ですよ」
「ギャグか、それはギャグなんか!?ネタなんか!?
仕込みなんやろ、これ!?なあ、トントはん!」
テルメが肘でトントを突いた。
「テルメ——うるさいよ。真面目にやってます」
ザウルが言った。
「トントさん——その名前、三回言ったら呪文っすよ」
「言うな」
「言いたい!!トゥーリ・オペッタ先生!!」テルメが叫んだ。
「テルメさん、一回でやめといた方がいいっすよ」
「ふぉふぉふぉ」先生は楽しそうだった。
「ダッフルから——連絡が来ていましたよ」
先生が静かに言った。
「『いい生徒を送る』と」
「……校長から?」
「ダッフルとこの入江は——百年前からの縁があります」
ウルホが腕を組んだ。
「ダッフルのじじいには——世話になってる。何かあれば先生を通じて連絡が来る」
「え!!知り合いやったん!!」テルメが叫んだ。
ザウルが言った。
「テルメさん——なんか繋がってる気はしてたっすよ」
「そうか?」
「ダッフル校長って——百年前の旅の仲間がいるじゃないっすか。
その繋がりで、色んな人と知り合いなんっすよ、きっと」
ウルホが静かに言った。
「この入江は——ストレッシが狙っている」
全員が——静まった。
「なぜですか」
「風の精霊の源地だからだ。
ここは——ザウルのような精霊が生まれる場所だ。
ストレッシはそれを知っている。何度か——偵察に来た」
「……今まで、どうやって守ってきたんですか」
ウルホが——拳を握った。
「力だ」
「ただそれだけか」
「それだけだ」
ザウルが小声で言った。
「……シンプルっすね」
ウルホが——ザウルを見た。
「お前は——うるさい精霊だな」
「テルメさんの事、何も言えなくなりますね......。」
「……ザウル。悪くないぞ」
「強くなりたいのですね。なぜですか」
先生が静かに言った。
「はい——」
「ダッフルに言われたから来た。と?」
「……違います」
トントが——止まった。
俺は——なぜ強くなりたいのか。
翔太のためか。仲間のためか。
それとも——
ザウルが小声で言った。
「……トントさん、答えられないっすよね」
「……そうだな」
「俺も——なんで強くなりたいのか、わからないっすよ」
「……お前も?」
「俺——精霊っすよ。
強くなるのが当然っすけど
——なんで強くなりたいのか、本当の理由がわからないっすよ」
「……そうか」
ザウルが先生を見た。
「先生——俺たち、理由がわからないんっすよ」
先生が——微笑んだ。
「ふぉふぉふぉ。正直だ」
「理由は——修行の中で見つかります。まず——体を動かしなさい」
ウルホが——ニヤッと笑った。
……嫌な予感がする。
ウルホが村を案内してくれた。
屋敷がある崖には宿舎となる小屋、そして——燻製小屋があった。
トントは興味を持って、燻製小屋を覗き込んだ。
……これ、スモークサウナと構造がほぼ同じだ。
サーモンが吊り下げてある。こっちは鰹か?
「何してるんだ!!」
「うわっ!!」
トントは驚いて尻もちをついた。
ウルホがその背後に立っていた。
ザウルが言った。
「トントさん——顔が青いっすよ」
「うるさい」
「俺も——少し青いっすよ」
「お前も怖いのか」
「風の精霊っすから——密閉空間、苦手っすよ」
「……それは初耳だ」
「今日初めて気づいたっすよ」
ウルホが言った。
「ここで——なんでもするんだよ。
締めたり、捌いたり、吊るしたり。燻すんだよ、煙でな」
言い方の癖!!
トントは心の中で、霜降り明星の粗品のように突っ込んだ....。
「そうですか、調理場なんですかね〜」とトントが外に出ようとすると——
ダンッ!
野太い腕で出口がふさがれた。
「トントちゃん。一発——喰らっていきなよ」
ザウル「捌かれるっすよ、トントさん」
トント「縁起でもないことを言うな」
でも——「半日後に、再び来い」と言われ、解放された。
部屋で寛いでいたテルメ・リリ・レンに、今あったことを話すと——
「そんなん、大丈夫やろ。お魚燻製屋さんちゃうか。
干物作ってるとか、鰹節かな。
米あったら干物焼いて味噌汁飲みたいわ〜。
だし巻き卵も食べたいし。
ああ、あの食堂行きたいわ〜。梅田駅の近くの。
何ちゃんやったかな、松ちゃんやったかな。
ちゃうなぁ、梅ちゃん?
いや、それは阪神タイガースの梅ちゃんやしな……」
トントは心の中でつぶやいた。
……こいつが一番先に捌かれればいい。
ザウルが小声で言った。
「トントさん——今、すごく悪い顔してるっすよ」
「……見るな」
レンが魔導書から顔を上げた。
「ねぇトント。この村の精霊について書かれているところがあるの。
風の入り江には——ルウルという精霊がいるそうよ。
百年前、戦いに敗れた旅の一行の中の魔法使いが、この入り江に漂着した、と」
「……そうか。あの銅像——先生に確認しないと」
ザウルが——静かに、強く輝いた。
「……トントさん」
「なに」
「……俺、なんか感じるっすよ」
「何を」
「……ここに——俺の記憶がある気がするっすよ」
その時。
ドンッドンッ——扉が壊されるかのようなノック。
ウルホだった。ニヤッと顔を出した。
燻製小屋に連れていかれた。
小屋の中に入ると——
「あれ。これ——スモークサウナだ!!」
ラップーランドで作ったものとは一味違う。
本場の奴だ。
そして——この木材。
「ケロ!!ケロか!!」
パインの木が二百年以上前に立ち枯れし、
百年以上、雨風に耐えたシルバーに輝く幻の木材。
異世界にケロ材が存在するとは。
ザウルが言った。
「トントさん——今、目がキラキラしてるっすよ」
「うるさい」
「サウナの話になると——別人っすよ、毎回」
「……そうかもしれない」
トントが解説を始めた。
「ケロ材は——通常の木材より遥かに高い蓄熱性がある。
熱が逃げない。蒸気が重くて濃い。肺の奥まで届く。
さらに——長年の乾燥で松脂が凝縮されている。
入った瞬間に森の深い香りが包む。その香りが——副交感神経を刺激する」
テルメ「全くわからんかったわ」
ザウル「俺もっすよ」
トント「……要するに、世界最高のサウナ材だ」
テルメ「最初からそれ言うて!!」
「この小屋——何年前に建てたんっすか?」
ウルホが答えた。
「二百年以上前だ。俺の先祖が建てた」
「……先祖も、バイキングっすか」
「当然だ」
ザウル「すごいっすね。二百年間——ここで整い続けてるっすね」
ウルホが——静かに、でも確かに頷いた。
「この小屋は——ストレッシに何度狙われても、消えなかった」
「……なぜですか」
「守ったからだ」
「……力で?」
「力で」
ザウルが小声で言った。
「……やっぱりシンプルっすね」
「うるさい」
でも——ウルホの口元が、緩んでいた。
「なんか、ええにおいしますな〜!!はよロウリュしてえや!!」テルメが叫んだ。
「おう!!」
思わず女の子らしからぬ反応でロウリュを準備していると——
ウルホがバイキングのハットをかぶって乱入してきた!!
「ぎゃああああ!捌かれる!!」
「何言ってるんだ、オマエ。魚しか捌かない、ここでは」
ウルホは白樺の枝をまとめたものを手に持っていた。
「神主さんか?祓いたまえ〜清めたまえ〜って!」テルメが叫んだ。
「ヴィヒタだ!!」
ザウルが言った。
「ウルホさん——ハット似合ってるっすよ」
「だろ!!」
白樺でできたヴィヒタをアロマ水に浸し、皆の体を叩いていく。
アロマロウリュと白樺の香り。
包み込まれるような蒸気。
「ああああ——これは!!
本場フィンランドで受けたあのヴィヒタ!!
まさかここで——!!たまらん。たまらんぞ!!」
トントは学生時代の放浪旅で訪れたフィンランドサウナを思い出した。
ウルホはラドルでストーンにアロマ水をかけまくる。
ジュワ〜ジュワ〜!!
「アッチアチやないかぁ〜!!」テルメが悶絶した。
「オマエラ、どうだ!!これがバイキングロウリュだ!!
我慢しろ!!まだまだいける!!限界を超えるんだ!!
熱いと思うな!!これは儀式だ!!熱と一つになれ!!」
「May the HEAT be with you!!」
「それ——ダッフル校長のセリフやんか!!」テルメが叫んだ。
「ダッフルに教わった言葉だ。百年前——あいつがここに来た時に言っていた」
「……百年前にダッフル校長がここに来た?」トントが止まった。
「そうだ。あの時——オペッタと、もう一人と、この入江でサウナに入った」
「……もう一人?」
ウルホが——止まった。
「……その話は、夜に先生から聞け」
全員が——固まった。
ザウルが小声で言った。
「……気になるっすよ」
「うるさい。今は——整え」
「整えながら気になるっすよ」
限界まで我慢して——海まで走った。
ザッバーン!!
「冷たっ——!!」「ぐあああ!!」「さっむ!!!!」
でも——誰も出なかった。
トントが海の中で静かに言った。
「アヴァントの医学的効果は絶大だ。
熱刺激の直後に冷水に入ると——血管が急激に収縮する。
ノルアドレナリンが急上昇する。
βエンドルフィンが分泌される。脳が——完全にリセットされる」
テルメ「全くわからんかったわ」
ザウル「俺もっすよ——でも今は、それどころじゃないっすよ」
「なぜ」
「……なんか、体が震えてるっすよ。寒さじゃないっすよ」
「……どういうことだ」
「……わからないっすけど——来るっすよ。何かが」
トント「……要するに、体の中から生まれ変わる」
テルメ「最初からそれ言うて!!でも——これや!!これが生きてるってことや!!」
ザウルが——静かに輝いた。
夜ごはんは——海の幸だった。
焼きたてのサーモン。燻製のマグロ。スモークサウナで作った干物。
「うまっ!!」テルメが叫んだ。
「サウナで作った食事は格別だ」トントは言った。
「熱と煙が——素材の旨味を閉じ込める。
整った体で食べると——胃腸への血流が増加して、消化吸収率が上がる。
さらに美味しく感じる」
テルメ「全くわからんかったわ」
ザウル「俺もっすよ」
トント「……要するに、サウナ後の飯は——世界一うまい」
テルメ「最初からそれ言うて!!でも——ほんまにうまいわ!!」
テルメが唸った。
「寿司食べたい。白飯も。日本酒も飲みたいわ〜!!」
ザウルが言った。
「テルメさん——この入江にそれはないっすよ」
「わかってる!!でも言いたいねん!!」
「……なんだ、この入江。最高じゃないか」
トントは静かに言った。
本当にそう思った。
夜。
オペッタ先生の応接間に全員が集まった。
砂浜にルウルが——降り立っていた。
翼が広がった。カモメのような白い羽。でも胴体はどっしりとしていた。
大きな目が——トントを見た。
でも——ザウルを見た瞬間。
ルウルが——鳴いた。
ザウルが——震えた。
「……トントさん」
「なに」
「……この鳥、俺のこと知ってるっすよ」
「どういうことだ」
「……記憶っすよ。俺の中に——ルウルとの記憶がある気がするっすよ」
ルウルが——ザウルの周りを、ゆっくりと回った。
まるで——懐かしい友に、会いに来たように。
ザウルが静かに言った。
「……久しぶりっすね」
ルウルが——また、鳴いた。
「……そうっすよ。俺——サウルの生まれ変わりっすよ」
「……やっと、来れたっすよ」
全員が——黙って、その光景を見ていた。
先生が静かに言った。
「銅像の話を聞かせてください。真ん中の——顔が破壊されたものです」
「……よく気づきましたね」先生は少し間を置いた。
「百年前の——勇者です」
「百年前、私はダッフルと、もう一人の仲間と——三人で旅をしていました。
魔王を倒すために」
「三人目は——無属性だった」トントは静かに言った。
先生が目を丸くした。「……知っていましたか」
「図書館で読みました。無属性の転生者が——魔王を倒した話」
「ふぉふぉふぉ。やはり、あなたは特別だ」
先生は微笑んだ。
「名はヴァンハ・テラ。
転生前は——明治初期の日本の侍だったようです。
自らの肉体を供物として封印し、オーユバーラの中でロウリュをし続けています。
その蒸気の魔力が——オーユバーラを空中に浮かせている」
「百年間——一人で」
「そうです。あなたたちが来るのを——待ちながら」
ザウルが——静かに言った。
「……サウルって」
「なに」
「……百年前に消えた——俺の前の俺、っすよね」
「そうです。サウルの欠片から——ザウルは生まれた」
「……そうっすか」
「サウルは——ヴァンハ・テラと共にオーユバーラの封印の中に入った。
あなたたちが来るのを——待ちながら」
ザウルが——輝いた。
「……会いに行きたいっすよ。ヴァンハ・テラさんに」
「……俺も会いに行く」
テルメが静かに言った。
「……ウチも行く。百年間一人でロウリュし続けてる人——放っておけへんわ」
全員が——頷いた。
「さあ、修行の仕上げです。皆で、サウナに入りましょう」
オペッタ先生が立ち上がった。
夜明け前の静寂の中——
薪がゆっくりと燃えていた。
ケロ材の香りが満ちていた。
シルバーに輝く壁。古い木の温もり。
全員が——静かに入った。
誰も喋らなかった。
ウルホが——静かにロウリュをした。
今度は叫ばなかった。
蒸気が——ゆっくりと広がった。
……百年間。ヴァンハ・テラは一人で、これをし続けていた。
同じ転生者として。無属性として。魔力ゼロとして。
俺と——同じ存在として。
ザウルが——静かに光った。
「……トントさん」
「なに」
「……サウルのこと、思い出してきたっすよ」
「どんな記憶だ」
「……この入江で、風を感じてた記憶っすよ。百年前——ヴァンハ・テラと一緒に」
「……そうか」
「……もう一度——ここで、風になりたいっすよ」
「出ましょう」先生が静かに言った。
入り江が——目の前にあった。
全員が——入り江に飛び込んだ。
「つめたっ——!!」「ぐあああ!!」「さっむ!!!!」
その瞬間。
右手の崖の向こうから——朝日が登った。
金色の光が——入り江の水面を照らした。
水が——輝いた。
風が——吹いた。
……これだ。
生きている。
俺は——今、生きている。
翔太。お前が見たかった朝日を——俺が、今、見ている。
一緒に見たかった。
でも——今は。
一緒に見ている仲間がいる。
ザウルが——トントの体の中で、爆発した。
光ではなかった。音ではなかった。
ただ——風が。
入り江全体を包む、圧倒的な風が——吹いた。
波が高くなった。
ルウルが空に舞い上がった。
二つの精霊が——共鳴した。
風と波と空が——一つになった。
「……覚醒したぞ!!」ウルホが目を丸くした。
オペッタ先生が——静かに微笑んだ。
「ふぉふぉふぉ。やりましたね、ザウル」
ザウルが——静かに言った。
「……久しぶりっすよ。この感じ」
「サウルの記憶か」
「……たぶん、っすよ。でも——」
「でも?」
「……嬉しいっすよ」
朝食は——さすがバイキングの村。 海の幸が並んでいる。
「うまっ!!」テルメが叫んだ。
ウルホが腕を組んで言った。
「トント。お前——覚醒したな」
「……おかげさまで」
「また来い。次は俺に、ヴィヒタしてくれ」
「……喜んで」
オペッタ先生が言った。
「トントさん。一つだけ、覚えておいてください」
「なんですか」
「風は——押すものではない。感じるものです」
「ザウルが覚醒したのは——技を磨いたからではない」
「生きている実感を——取り戻したからです」
……そうだ。これが修行の本質だった。
強くなる理由を探していた。
でも——理由は、技の中にはなかった。
生きている実感の中に——あった。
別れ際。
ウルホが——ザウルを見た。
「……お前は、サウルに似てるな」
ザウルが——止まった。
「……そうっすか」
「……悪くない」
ザウルが——静かに輝いた。
ウルホがトントを見た。
「トント——ダッフルのじじいによろしく伝えてくれ」
「……そんなに仲がいいんですか」
「世話になった。それだけだ」
ザウルが小声で言った。
「……ウルホさん、照れてるっすよ」
「うるさい!!」
「かわいい!!!!」テルメが叫んだ。
ウルホが——真っ赤になった。
馬車が——走り出した。
入り江の風が——追いかけてきた。
まるで——ザウルが、古里に別れを告げているようだった。
ザウル「トントさん」
「なに」
「……強くなる理由——わかったっすよ」
「なんだ」
「……生きてるから、っすよ」
「……そうだな」
「それだけで——十分っすよ」
「……そうだな」
「トントさん——同じこと二回言ったっすよ」
「……うるさい」
「照れてるっすよ」
「……うるさい」
テルメが叫んだ。
「二人とも——かわいいわ!!」
ザウルが風を巻いた。
サウナ馬車の煙突から——白い蒸気が、風に乗って広がっていった。
入り江の風が——最後に一度だけ、強く吹いた。
行ってらっしゃい、と言うように。
第34話 了
◆次話予告
凍てつくラップーランドで——レンが、自分の弱さと向き合う。
「感情が制御できない。でも——それが、私の力だ」
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
ケロサウナ。作りたいです! 皆さんで楽しめる場所。欲しいですね!
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夢想の最大のモチベーションになります!
次回もぜひお楽しみに。




