第27話「燃え尽きた魂に、火を灯せ」
いつもありがとうございます!
燃え尽きないように。。
では!
静寂が——また、破られた。
でも今度は——音ではなかった。
重さだった。
空気が——重くなった。
重力が増したわけじゃない。
でも——確かに、重かった。
「……疲れた」
男が——降りてきた。
猫背で。半開きの目で。
虚無を見つめながら。
「戦うのも。壊すのも。息をするのも——全部、無意味だ」
男が溜息を吐いた。
黒い霧になった。
広がった。
「……なんか」
レンが——膝をついた。
「……なんか、もう——どうでもよくなってきた」
レンの瞳から——光が消えかかった。
「レン!!」
キックルが叫んだ。
でも——キックル自身も、ふらついていた。
エーアイが——地面に手をついた。
リリが——足元が揺れるのを感じた。
「……っ」
テルメが——ナビゲーターを起動しようとした。
「……あれ。なんか、ウチも——」
「テルメ!!」ザウルが叫んだ。
「……大丈夫っすよ、俺は風の精霊なんで——でも、やばいっすよこれ!!」
トントが——奥歯を噛み締めた。
……これは単純な攻撃じゃない。
無気力を空気に溶かして——感染させている。
前世で見た光景だ。
ICUで、長期入院患者が無気力になっていく。
コルチゾールが枯渇して——ドーパミンが完全に出なくなる。
脳の前頭前野が機能停止する。
やる気を生み出す回路が——根こそぎ枯れていく。
「これは——精神のパンデミックだ」
トントが静かに言った。
「無気力を空気に溶かして——周囲に感染させている。
コルチゾールが枯渇すると——ドーパミンが出なくなる。
脳の前頭前野が機能停止する。
やる気を生み出す神経回路が——根こそぎ枯れていく」
テルメ「全くわからんかったわ」
ザウル「俺もっすよ」
トント「……要するに、生きる意欲を奪う毒だ」
テルメが——ふらつきながら言った。
「最初からそれ言うて!!でも——なんかウチは、まだ大丈夫やな。なんでやろ」
ザウルが言った。
「テルメさん、エネルギーが規格外なんっすよ」
「褒めてる?」
「……どちらとも言えないっすよ」
「どっちやねん!!」
テルメが——また元気になった。
ザウルが小声でトントに言った。
「……テルメさんの生命力、本当に規格外っすよ」
「……そうだな」
五不快・第四波——エクサウスト。
男は——全員が膝をついていくのを、虚ろな目で見ていた。
「……どうせ、全部——無駄だ」
タイカ先生が——その場に立ちながら、静かに言った。
「そうじゃないんですよね〜。
無駄というのは——可能性を見失った人間の言葉なんですよ。わかります?」
エクサウストが——タイカを見た。
「……お前は、疲れないのか」
「疲れますよ〜。でも——」
「でも?」
「……守りたいものがあるんですよね〜」
その時。
一人だけ——立っていた。
リリだった。
小さな体が——まっすぐ立っていた。
肩のファビラが——消え入りそうなほど小さく。
でも——執拗に。
赤く。
灯っていた。
「……お前、疲れないのか」
エクサウストが——リリを見た。
「その小さな火を維持するだけで
——どれほどの無駄な労力を使っているか。理解できないのか」
「……疲れます」
リリは——震える声で言った。
「でも——消せないんです」
「なぜだ」
「この火は——私だけのものじゃないから」
タイカ先生が——前に出た。
懐に——手を入れた。
取り出したのは——小さなランタン型の杖だった。
かなり古そうで、相当使い込まれている。
でも——温もりを感じる。
「……リリ」
「……先生?」
タイカが——サングラスを外した。
珍しかった。
その目に——十年分の何かが、宿っていた。
「これを——渡すタイミングを、ずっと待っていた」
リリが——杖を見た。
「……これは」
「フラムの——形見だ」
リリが——止まった。
「……お父さんの?」
「あいつが死ぬ前に——俺に預けた」
タイカの声が——少し、揺れた。
「『リリに渡してくれ』と。『娘にその時がきたら、渡してくれ』と言っていた」
リリが——杖から目が離せなかった。
「お父さんが……」
「お前がラップーランドでスモークサウナを作った日
——俺は、このタイミングだと思った。でも——まだ、もう少し待とうと思った」
「……なぜですか」
「お前が——自分の力で立てるようになるまで、待ちたかった」
タイカが——リリを見た。
「今日、お前はエクサウストの前で立った。全員が膝をついた中で——一人で立った」
「……先生」
「フラムは——お前のことをよく話していた。
娘が生まれたって。小さくて——でも火みたいに元気だって」
タイカが——リリの前に、杖を差し出した。
「フラムの火種は——お前だ、リリ」
テルメが——声を上げて泣いた。
「うわーーーん!!!」
ザウルが言った。
「テルメさん、大丈夫っすか」
「大丈夫ちゃうわ!!泣くわこんなん!!」
「俺も——ちょっと泣きそうっすよ」
「ザウルまで!!」
トントは——何も言わなかった。
……フラムが、娘に火種を残していた。
10年間——タイカが守り続けた。
渡すタイミングを——待ち続けた。
俺も——翔太に、何か残せただろうか。
あの夜、手術台の上で。
俺は——何かを残せたか。
ザウルが——トントの肩で、静かに輝いた。
……トントさん。今は——前を向いてくださいよ。
リリが——ファロスを受け取った。
その瞬間。
ファビラが——爆発的に輝いた。
金色に。
今まで見たことのない——強い金色に。
ファロスの中に——もう一つの炎が灯った。
フラムの炎が。
「……お父さん」
リリの目から——涙が落ちた。
「……ここにいたんだ」
ファビラが——フラムの炎と共鳴した。
小さな炎が——二つ、合わさった。
「リリ」
タイカが言った。
「フラムは——燃え尽きてなんかいない」
「……先生」
「あいつは俺を庇って——エクサウストの前に立った。
体が灰になる瞬間まで——魔法を使い続けた。お前に——火種を繋ぐために」
「お父さんが——」
リリの拳が、震えた。
「……私が、火種だったのか」
「そうだ」
「だから——消えちゃいけなかったのか」
「そうだ」
リリは——立ち上がった。
「……下がりません」
トントが言った。
「リリ——」
「大丈夫です」
「根拠は」
「ファビラが——輝いてるから」
ファビラが——金色に、力強く輝いた。
フラムの火種を宿したファビラが。
タイカが——サングラスをかけ直した。
でも——口元が、緩んでいた。
「……フラムの娘が、ここまで強くなったか」
「そうじゃないんですよね〜」
自分で言いながら——タイカが、苦笑いした。
「……今回は、そうなんですよね〜。わかります?」
ザウルが言った。
「先生、自分で否定しましたよ」
「……そういう日もあるんですよね〜」
エクサウストが——リリを見た。
「……無駄だ。あの男も、最後は燃え尽きた。
灰になった。お前もそうなる。全部——無駄だ」
リリが——前に出た。
剣はない。杖——ファロスを、両手で握った。
「お父さんは——燃え尽きてない」
「灰になったぞ」
「灰の中に——火種が残ってた」
リリはファロスを胸に当てた。
「ここに——いる」
ファビラが——金色に輝いた。
「お父さんに教わりました。炎は大きさじゃない、精度だって」
「校長先生に教わりました。整えることが——大事だって」
「タイカ先生に教わりました。守りたいものがあれば——疲れても立てるって」
リリは——ファロスを前に向けた。
「燃え尽きたと思っていても——火種は消えていない」
「あなたの中にも——まだ、あるはずです」
「……黙れ」
エクサウストの黒い霧が——凝集し始めた。
「お前ごときが——俺に説教するな!!」
「説教じゃないです」
リリは——静かに言った。
「癒しです」
その瞬間——
リリが動いた。
剣のような速さで。
でも——剣ではなかった。
ファロスから——
ファビラの全魔力を一点に凝縮した、髪の毛より細い、
極細の炎の糸が放出された。
エクサウストの全身に——火が走る。
「サウナ術式——灼熱経絡・お灸!!」
首筋——天柱。
肩甲骨の間——大椎。
腰の中心——命門。
「……が!!」
エクサウストの動きが——止まった。
「……熱い。でも——」
トントが静かに言った。
「全身の経絡を刺激して——副交感神経を強制リセットしている。
冷え切って固まっていた神経回路が——再起動している。
燃え尽きた魂に——リリが火を灯し直した」
テルメ「全くわからんかったわ。ケイラク?」
ザウル「俺もっすよ」
トント「……要するに、体のスイッチを入れ直した」
テルメ「最初からそれ言うて!!でも——リリちゃん、めちゃくちゃかっこいいやん!!」
エクサウストの体から——どす黒い魔素が抜けていった。
代わりに——人間らしい温もりが溢れ出した。
「……俺も——最初は」
エクサウストが——呟いた。
「誰かを守りたかったんだ。
でも——疲れて。疲れて。全部——どうでもよくなって」
「わかります」リリが言った。
「でも——」
「でも?」
「火種は——消えていない。あなたの中にも——まだ、ある」
ファビラが——エクサウストの胸に触れた。
そっと。
消えかけた炎に——火種を分けるように。
「……温かい」
エクサウストの目に——光が戻った。
「……こんなに、世界は——温かかったのか」
「ありがとう——小さな騎士様」
白い光になって——消えていった。
校庭に——静寂が戻った。
リリが——その場に座り込んだ。
子供のように——声を上げて泣いた。
レンが隣に座った。
エーアイが反対側に座った。
テルメが後ろからリリの肩を抱いた。
誰も言葉をかけなかった。
ただ——囲んだ。
テルメが——小声でリリに言った。
「……よかったな、リリちゃん」
「……うん」
「……お父さんに、届いたと思うで」
リリが——また、泣いた。
ザウルが言った。
「テルメさん——今日、一番いいこと言いましたよ」
「うるさい!!」
でも——嬉しそうだった。
タイカ先生が——リリの前に膝をついた。
「……フラムは、お前が仇を取るのを待っていたと思う。わかります?」
リリが——頷いた。
「……うん」
「……よくやった」
タイカが——珍しく、それだけ言った。
余計なことを、言わなかった。
ファビラが——リリの肩で、温かく揺れた。
トントは——空を見上げた。
まだ——一つの影が残っていた。
「……残り一つだ」
メラン。
第五不快——憂鬱の化身。
タイカ先生が静かに言った。
「そうじゃないんですよね〜。
メランは——今まで以上に、難しい相手ですよ。わかります?」
「なぜですか」
「憂鬱というのは——感じる力がある人間にしか現れない。
感受性が高い人間ほど——深く沈む」
テルメが——立ち上がった。
「ほな——ウチの出番やな!!」
「テルメさんが感受性高いっすか」ザウルが言った。
「高いわ!!毎回泣いてるやろ!!今日だけで何回泣いたと思ってんの!!」
「……それは確かっすよ」
タイカ先生が言った。
「そうじゃないんですよね〜。テルメ——あなたが、最後の鍵ですよ」
テルメが——固まった。
「……ウチが?」
「光は——憂鬱を照らす。ヴァロの力が——必要です」
テルメが——ヴァロを見た。
ヴァロが——静かに、でも確かに輝いた。
テルメが——拳を握った。
「……ウチが、やったるわ」
「テルメさん——かっこいいっすよ」ザウルが静かに言った。
「うるさい!!」
でも——顔が、少し赤かった。
……脳外科医の仕事は——まだ終わらない。
でも——今は。
この静かな夜の空気が、必要だ。
サウナの後の外気浴のように。
整えてから——次に向かう。
ファビラが——夜空に、小さく輝いていた。
フラムの炎を宿した——金色の光が。
消えずに。
燃え続けていた。
第27話 了
◆次話予告/第28話「光で照らせ——メランの闇」
最後の五不快・メランが動き始めた。
憂鬱の闇が——学園を包む。
立ち向かうのは——関西弁の光の使い手。
「ウチが——あんたを整わせたるわ!!」
テルメとヴァロの——最大の舞台が、始まる。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
燃え尽きないように!皆様。
頑張るのと、燃え尽きるのは、大きく違います!
楽しみながら、ほどほどに〜
皆様にお願いがあります。
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を、どこでも良いのでポチッとしてください!
皆様のポチッ。で、物語は続いてまいります!
夢想の最大のモチベーションになります!
次回もぜひお楽しみに。




