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第26話「存在しない影。孤独という名の不快」

僕はここにいます!!


(悲)


静寂が——戻った。


イラが消えた後の、本物の静寂が。


でも——トントは、油断しなかった。


……まだ三つ、残っている。


「どこだ」


トントは校庭を見渡した。


何もいない。


風もない。音もない。


「……どこ?」レンが剣を構えた。


「気配がない」エーアイが静かに目を細めた。


「……います」


「どこだ」


「……そこに」


エーアイが指差した先——


校庭の隅。


壁に溶け込むように——一つの影があった。


背が低い。


痩せている。


俯いている。


こちらを見ていない。


ただ——そこにいる。


……存在感がない。


完全に、空気に溶けている。


もし、エーアイが気づかなかったら——俺も見落としていた。


タイカ先生が——静かに言った。


「……そうじゃないんですよね〜。

 存在感がないということは——それ自体が、能力なんですよ。わかります?」


「先生——気づいてたんですか」


「……少しだけ」


ザウルが言った。

「もっと早く言ってくださいよ」


「……タイミングというものがあるんですよね〜」




「……五不快、第三波」


トントは静かに言った。


「ソリス」


影が——微かに、震えた。


「……気づかれた」


消え入りそうな声だった。


「……また、気づかれてしまった。

 いつも、こうだ。見つかると——消えなければならない」


「……俺は、ここにいない方がいい」


トントは——その言葉に、胸が痛くなった。


……前世で何度か、聞いた言葉だ。


深夜の病院で、一人でいる患者が——呟く言葉だ。


「これは単なる不快じゃない」


トントが静かに言った。


「社会的孤立が長期化すると——脳の前帯状皮質が萎縮する。

 痛みを処理する領域と——同じ場所だ。

 孤独は文字通り、痛いんだ。物理的な痛みと——全く同じ神経回路を使う」


テルメ「全くわからんかったわ」


ザウル「俺もっすよ」


トント「……要するに、孤独は病気だ。治療が必要だ」


テルメ「最初からそれ言うて!!でも——なんか、胸が痛いな」


「……そうだろ」


「……そういうことか」


テルメが——珍しく、静かな顔をしていた。




ソリスが——顔を上げた。


笑っていた。


虚ろな笑いだった。


「……生成魔法使い」


ソリスの目が——エーアイを見た。


「お前も、孤独だろう」


エーアイの足が——止まった。


「……知っているぞ。お前の過去を。

 ズレた物しか作れない魔法使い。周囲に笑われ続けた子供。親にさえ——見放された娘」


校庭の空気が、変わった。


重くなった。冷たくなった。


「エーアイ!!」


黒い霧が——エーアイの周囲に立ち込めた。


仲間の声が——聞こえなくなった。


ソリスの能力——絶対孤立、ソリテュード・フィールド。


対象を完全な孤独空間に封じ込める。


内側から——精神を侵食する。


「……どうだ。懐かしいだろう。この感覚」


ソリスの声だけが、霧の中に響いた。


「誰もいない。誰も来ない。誰も——お前を必要としない」




霧の中で——エーアイの視界が歪んだ。


幻覚だった。


でも——リアルだった。


魔法学校の教室。


小さなエーアイが、魔法の練習をしている。


呪文を唱える。魔力を込める。


生成されたのは——歪んだ椅子だった。


足が五本あった。座面が斜めだった。


クラスメートが笑った。


「また失敗した」


「エーアイって、本当に使えない」


「あの子の頭の中はどうなっているの」


「あんな簡単な生成魔法も使えない子とは遊ばない」




幼いエーアイは——俯いた。


場面が変わった。


夜の屋敷。


父親が成績表を見ながら言った。


「お前は我が家の恥だ。

 エリート魔法使いの家系に、なぜこんな娘が生まれたのか」


「私の立場。という物もある。このような子がいると、非常に困った事

 になるのだ。」


母親は黙っていた。

黙って——目を逸らした。


「助けてもらえない。」

「……わかってる」


幼いエーアイは、小さく呟いた。


「わかってる。私は——ズレてる。おかしい。使えない」


ソリスの声が、霧の中に響いた。


「そうだ。お前は1人だ。昔も。今も。

 仲間だと思っているあいつらも——本当はお前を必要としていない」


「いつか、裏切られる。間違いない。お前を利用しようとしている。」


「都合の良い時に、生成させる。必要なくなったら、捨てられる。」


エーアイの膝が——微かに、震えた。


……違う。


でも——声が出なかった。


違う。私は——


「認めろ。お前は——孤独だ」


その時。


霧の中に——光が見えた。


小さな光だった。


シルヴァだった。


エーアイの肩の上で——森の女神が、静かに光っていた。


霧の中でも、消えなかった。


ソリスの孤立空間の中でも——シルヴァだけは、そこにいた。


「……シルヴァ」


エーアイは呟いた。


シルヴァが——微笑んだ。




その時——霧の向こうから、声が聞こえた。


かすかだった。


でも——確かに、聞こえた。


「エーアイ!!」レンの声だった。


「エーアイ、聞こえるか!!」トントの声だった。


「エーアイちゃん!!ウチここにおるで!!」テルメの声だった。


「エーアイ!私たちはここにいる!!」リリの声だった。


「エーアイさん!!俺もいるっすよ!!」ザウルの声が聞こえた。


エーアイは——瞳を閉じた。


……聞こえる。


ちゃんと、聞こえる。


ズレた魔法しか使えなかった私を——笑わなかった人たちの声が。


私の魔法を、初めて「すごい」と言ってくれた人たちの声が。


エーアイは——目を開けた。


「ソリス」


声は——静かだった。


震えていなかった。


「私も知っている。あの孤独を」




エーアイが両手を広げた。


霧の中で——鏡が展開した。


八枚。



ソリスの周囲を——囲んだ。


「……なっ!!この霧の中で、魔法が!!?」


「私の魔法は——ズレている」


エーアイは静かに言った。


「常識から外れている。でも——だからこそ、あなたの孤立空間の中でも、発動できる」


シルヴァが——息を吸った。


地面から、根が伸びた。


温かい根が。


ソリスの足元に——静かに絡みついた。


鏡が——音を奏で始めた。


オルゴールのような音だった。


懐かしい旋律。


どこかで聴いたことのある音。


ソリスの顔が——歪んだ。


「やめろ……!その音は……!」


鏡の中に——影が映り始めた。


白髪の老女が微笑んでいる。

「……母さん」


長い髪の女性が振り返っている。

「……ミーシャ……」


小さな子供が手を伸ばしている。

「……エル……!」


ソリスが——鏡に手を伸ばした。


届かなかった。


でも——鏡の中の人たちは、温かく微笑んでいた。


「なぜ……なぜ笑っている……。あなたたちは……俺を置いて……いなくなったのに……」


シルヴァが静かに言った。


「その人たちは今も

 ——森の中にいる。木になって。風になって。

 川になって——ずっと、あなたのそばにいる」


「……嘘だ」


「嘘じゃない」


シルヴァの声は穏やかだった。


「あなたが孤独だと感じるたびに——風が吹いただろう。

 あなたが泣くたびに——雨が降っただろう。

 それは全部、あなたを1人にしたくなかった人たちが——送ってきたものだ」


ソリスの体が——震えた。




霧の外で——


テルメが叫んだ。


「ソリスはん!!聞こえてるか!!」


「テルメ——」トントが言いかけた。


「ええから!!ウチ、言いたいことあんねん!!」


テルメは——霧に向かって、真っ直ぐに叫んだ。


「ウチも孤独やったよ!!両親、早くに亡くしてな!! 寂しかったよ!!

 毎日、タクシーに乗ってくる人見ながら——ウチには誰もおらへんな、って思ってたよ!!」


「でも——」


テルメの声が——震えた。


「でも、今はみんないるし!!サウナもあるし!!

 何とかなってるで!!

 孤独やったけど——今は違う!!

 それだけは、ほんまのことや!!」


ザウルが静かに言った。

「テルメさん……」


「うるさい!!言いたかっただけやねん!!」


テルメが——鼻をすすった。


「……言えてよかったわ」


レンが静かに言った。


「ソリス——帰る場所がないなら、この魔法学校にいればいい」


「……え?」


「私の故郷には父王と姉が待っている。

 でも——帰る場所がない人間だって、ここにいていい。

 この学校は——みんなの場所だ」


タイカ先生が——静かに前に出た。


「そうじゃないんですよね〜」


低い声だった。


いつもより——少し、重かった。


「孤独な人なんて——本当は、いないんですよ」


「……どういう意味ですか」


「みんな同じです。

 みんな誰かを愛して——誰かに愛されて——それでも孤独だと感じる。

 それが人間なんですよ」


「でも——」


「でも——だから——」


タイカが、サングラスを外した。


「だから——サウナに入るんですよ」


全員が——タイカを見た。


「サウナに入れば——みんな平等です。

 孤独も、肩書も、過去も——全部、汗と一緒に流れていく。

 誰でも同じ顔で——整える。わかります?」


テルメがくやしそうに。

「そのセリフ、ウチの決め台詞やのに!」



ザウルが言った。

「テルメさん。誰が言ってもいい言葉ですから。

 先生——今日は、全部合ってます、百点満点。」


タイカが——少し照れた。


「……当然です」




八枚の鏡が——ゆっくりと、回転し始めた。


オルゴールの旋律が——大きくなった。


鏡の中の人たちが——口を動かした。


声は聞こえなかった。


でも——ソリスには、わかった。


「……帰っておいで」


「……1人にしてごめん」


「……ずっと、そばにいるよ」


ソリスの膝が——折れた。


「……俺は……ずっと……1人だったのに……」


エーアイが——静かに、前に出た。


ソリスの前に——跪いた。


「ソリス」


エーアイは、いつも通りの静かな声で言った。


「あなたが1人だったんじゃない」


ソリスが顔を上げた。


「1人だと——思い込んでいただけだ」


沈黙。


「愛する人を失った痛みが——あなたの存在を消そうとした。

 でも——あの人たちは、あなたに消えてほしくないのです。」


エーアイは——鏡を見た。


「私も、同じだった。孤独だった。

 でも——仲間が、私の魔法を必要としてくれた。それが——私を変えた」


エーアイはソリスの目を見た。


「あなたにも——必要としてくれた人たちが、いた。今も、いる」


ソリスの目から——涙が落ちた。


一粒。


二粒。


止まらなかった。

「……母さん……ミーシャ……エル……。

 俺は……ずっと……会いたかった……!」


シルヴァの根が——温かく、ソリスを包んだ。


森の温もり。大地の温もり。


愛した人たちの温もり。


ソリスの体が——光の粒子に溶け始めた。


消えていく直前——


ソリスは、初めて、笑った。


「……温かい……。こんなに、温かかったのか……。1人じゃ——なかったのか……」


オルゴールの音が——静かに、消えていった。




霧が——晴れた。


仲間の声が——戻ってきた。


「エーアイ!!」レンが駆け寄った。


テルメが——エーアイに飛びついた。


「エーアイちゃん!!よかった!!心配したんやで!!」


「……テルメさん」


「ウチ、ちゃんと聞こえてたか心配やったわ!!」


「……聞こえてました」


「ほんまに?」


「……全部」


テルメが——また、泣いた。


「よかったぁ!!」


ザウルが言った。


「テルメさん、今日——かっこよかったっすよ」


「……ほんまに?」


「ほんまっす。テルメさんにも、色々あるけど

 テルメさん、いつも元気です。元気すぎます!」


「……うるさい!!」


でも——嬉しそうだった。


トントが——エーアイの肩に手を置いた。


一秒だけ。


それだけだった。


でも——それで、十分だった。


トントが静かに言った。


「……孤独の治療法を教えておく」


「オキシトシンが分泌されると——孤独の痛みが和らぐ。

 人との繋がりを感じる時に出るホルモンだ。サウナで一緒に汗をかく——共に整うことが

 ——孤独の特効薬だ」


テルメ「なんて?全くわからんかったわ」


ザウル「俺もっすよ」


トント「……要するに、一緒にサウナに入れば——孤独は治る」


テルメ「最初からそれ言うて!!でも——それが全部やんな!!サウナ最強やんか!!」


タイカ先生が言った。


「そうじゃないんですよね〜。だから——サウナは世界を救うんですよ。わかります?」


「先生——今日は全部合ってますよ」ザウルが言った。


「……当然です」


タイカが——サングラスをかけ直した。


でも——口元が、緩んでいた。




……孤独は、喪失の痛みだった。

誰かを愛したから——孤独になった。

愛したことは——罪じゃない。

エーアイは、自分の孤独を武器にした。

それが——あいつの強さだ。


上空に——まだ、二つの影。


リリが空を見上げた。


「……トント」


「ああ」


「……あれ」


第四不快——エクサウスト。

第五不快——メラン。


「……残り二つだ」


タイカ先生が静かに言った。


「……そうじゃないんですよね〜。この二つは——今まで以上に、手強いですよ」


「なぜですか」


「エクサウストは——頑張った人間にしか現れない。

 メランは——感じる力がある人間にしか現れない」


「……つまり」


「お前たち全員が——対象になる」


全員が——空を見上げた。


トントは——サウル・ハカロを握り直した。


脳外科医の仕事は——まだ終わらない。

夜風が吹いた。

森の匂いがした。

シルヴァが——エーアイの肩で、静かに揺れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


第26話 了

◆次話予告/第27話「燃え尽きた魂に、火を灯せ」

残り二つの不快が——動き始めた。

最初に現れたのは——炎さえも飲み込む「無気力」だった。

リリの前に立ちはだかる——エクサウスト。

「……燃え尽きた炎に、意味はない」

でも——ファビラが、灰の中で光っていた。

「灰の中の——消えない火種」




皆さんのストレスが、消えていきますように。


さて、サウナ行ってきます。




皆様にお願いがあります。

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を、どこでも良いのでポチッとしてください!


皆様のポチッ。で、物語は続いてまいります!

夢想の最大のモチベーションになります!


次回もぜひお楽しみに。

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