第24話:五不快、来襲! 絶望のデシベル
番外編。
いかがでしたか?
これからも、番外編、書いていきます。
では!
整い椅子が、気持ちよかった。
修学旅行の全てが——体の中に溶け込んでいく。
ラップーランドの白樺の香り。
ラハティの聖水の冷たさ。
トゥリ王国のカルデラの熱。
全部が——今の自分を作っている。
「……帰ってきたな」
トントが空を見上げた。
学園の空が——静かだった。
ザウルが言った。
「俺、喋れるようになったっすよ。あの旅で」
「そうだな」
「……トントさんのおかげっすよ」
「ラドルを手に取っただけだ」
「それが——全部っすよ」
温かい沈黙が——流れた。
テルメが目を細めた。
「……ウチら、ええチームやな」
誰も答えなかった。
でも——全員が、そう思っていた。
その時。
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キィィィィィィィン!!
全員が——跳び上がった。
鼓膜を直接針で刺すような。
超高周波の不快音が——学園を包んだ。
整い椅子が吹き飛んだ。
全員が地面に伏せた。
「何だ!!」
見上げた空。
学園を数百年にわたって守り続けてきた——黄金の結界が。
薄い氷が割れるように。
粉々に——砕け散った。
「なっ——学園の結界が、一瞬で!!」
レンが驚愕に目を見開いた。
崩落した校門の瓦礫の上に——
歪な影が、立っていた。
陽気な笑みを浮かべた男が——右手の指をゆっくりと鳴らした。
パチン。
その小さな音が——空間を歪ませる衝撃波へと変換された。
周囲の窓ガラスが——一斉に爆砕した。
生徒たちが耳を押さえてのたうち回る。
「自分の声が……自分を殺す……!!」
男は——不気味なほど無機質な笑みのまま、言った。
「……私の名はストレピタ」
「静寂など——魂の壊死に過ぎない」
「絶叫と不協和音の中でこそ——生命は輝く」
ザウルが言った。
「タイミング悪いっすね」
「そうだな」
「でも——整った直後っすよ。最高のコンディションっすよ」
テルメが叫んだ。
「サウナから立ち上がって、すぐバトルとか——ウチら、どんな学校におんのや!!」
トントが——サウル・ハカロを握った。
「……全員、立て」
「これは単なる騒音じゃない」
トントが冷静に言った。
周囲では——生徒たちが悲鳴を上げている。
その悲鳴が——さらに悲鳴を呼んでいる。
「音波が——脳の視床下部を直接刺激している。
視床下部はストレスホルモンの司令塔だ。
コルチゾールとアドレナリンが同時に暴走する。
心拍数が急上昇する。血圧が跳ね上がる。最終的に——脳血管が破裂する」
テルメ「全くわからんかったわ」
ザウル「俺もっすよ」
トント「……要するに、音で脳を物理的に壊している」
テルメ「最初からそれ言うて!!でもヤバすぎるやん!!」
その時——
「そうじゃないんですよね〜」
タイカ先生が、校舎の影から現れた。
サングラスを外していた。
「耳を塞ぐだけでは——意味がないんですよ。わかります?」
「先生……」
「音は空気の振動です。空気がある限り——どこまでも届く。だから——」
タイカが静かに言った。
「音を、別の力で打ち消すしかない」
ザウルが言った。
「先生、今回は——合ってますよ」
タイカが——少し、口元を緩めた。
ストレピタが——両手を広げた。
地面そのものが共鳴し始めた。
学園全体が——巨大な楽器となって、不気味な音を奏で始めた。
「……うるさくしないと——存在できないんだ!!」
その叫び声が——空間を裂いた。
トントは——その言葉に、何かを感じた。
……うるさくしないと、存在できない。
前世で——そういう患者を見たことがある。
孤独が恐怖になった時——人は叫び続ける。
静かになると——自分が消えると思っているから。
だから——ずっと、叫び続けている。
「テルメ」
「なんやの、急に」
「賭けだ」
テルメが——トントを見た。
「……修学旅行で、お前の魔力パスが広がった。
ラハティの聖泉で——ヴァロの増幅能力が上がっている」
「あ、そういえばそんな感じしてた!!」
「俺の魔力経路とリンクする。音を使わずに——意志だけで通信する」
「できるん?」
「ラハティでレンが聖水を出したように——お前の中にある力を引き出す。
修学旅行の——成果を見せてやろう」
テルメが——トントの手を、握った。
震えていた。
でも——しっかりと、握った。
「……やったるわ」
ザウルが静かに言った。
「二人とも——かっこいいっすよ」
無音。
トントの耳が——外の音を、遮断した。
魔力を耳元に集中させて——炸裂させた。
完全なる、無音の世界。
その中で——テルメの意識が、黄金の光となって流れ込んでくる。
……テルメ、聴こえるか
聴こえるで!!てかトント、声おんなじやん!
……当たり前だ。意志で通信している
じゃあ聴こえる!!なんかすごいやん!!これ!!
集中しろ。音を『視る』んだ
音を視る??
不規則なノイズの中に——必ずストレピタが操る、基軸周波数がある。そこだけを狙う
……視える。あの真っ黒な渦の中心や!!
トントの脳内で——音波の構造が、立体的に見えた。
「音波には——逆位相がある」
声は出していない。でも——考えが言葉になる。
「同じ振幅・同じ周波数で——位相が180度ずれた波をぶつけると、
完全に相殺される。ノイズキャンセリングだ」
テルメの脳内に——声が届いた。
全くわからんかったわ
……要するに、音を音で消す
最初からそれ言うて!!でも天才やん!!
ヴァロが——眩しく輝いた。
逆位相の波形に——変質した。
ストレピタのドス黒い音波が——パズルのように、相殺されていく。
「馬鹿な!!私のカオスが——!!」
「……整えていくぞ」
トントは——無音の世界を突っ切った。
「ストレピタ」
トントが、真正面から言った。
「お前には——この静寂が、耐えられないはずだ」
「静寂など——死だ!!」
「違う」
「嘘だ!!静かになると——俺は消える!!誰にも気づかれない!!」
トントが——止まった。
「……気づいてる」
「何?」
「俺が——今、お前の声を聞いている」
ストレピタが——動きを止めた。
「うるさくしないと——誰も振り向かなかった。ずっと、そうだったんだろ」
「……」
「静かにしても——消えない」
トントは静かに続けた。
「ここに——いていい」
タイカ先生が前に出た。
「……そうじゃないんですよね〜」
低い声だった。
「存在するために——叫ばなくていいんですよ」
「わかります?」
ストレピタが——初めて、動きを止めた。
その瞳に——何かが、揺れた。
トントはサウル・ハカロを構えた。
「サウナ術式——静寂のロウリュ」
ラドルに——魔力を全て込めた。
サウナ室の極限状態でしか生み出せない——超高密度の蒸気が、凝縮された。
叩きつける!!!
ジュワァァァァァァッ!!!
轟音が——白い霧に変わっていく。
ストレピタの体が——蒸気に包まれた。
暴れる。抵抗する。
でも——蒸気は、止まらない。
「……あ」
ストレピタの体から——力が抜けた。
「静かだ……」
「そうだ」
「……こんなに、世界は——静かだったのか」
「サウナの中では——みんな静かになる」
トントは静かに言った。
「でも——消えない。ちゃんと——いる」
ストレピタが——初めて、笑った。
うるさくない笑い方で。
静かな、穏やかな笑みで。
「……整い、か」
白い霧になって——消えていった。
静寂が——戻った。
本物の静寂が。
誰かが泣いていた。
テルメだった。
「……なんで泣いてるんっすか」ザウルが言った。
「うるさい!!感動したら泣くのは当然やろ!!」
「整い椅子から立ち上がって、すぐバトルして、すぐ泣いてますよ」
「何が悪いんや!!」
リリが言った。
「……かっこよかったです、トント」
「……そうかな」
「かっこよかったっすよ」ザウルが言った。
「……うるさい」
「本当のことっすよ」
トントが——膝をついた。
全身が、重かった。
魔力が——ほぼ残っていなかった。
「……大丈夫ですか」エーアイが静かに言った。
「……わかってる」
「大丈夫じゃないですよ」
「……わかってる」
テルメが壁にもたれた。
「……ウチも、ナビゲーターがふらふらや」
ヴァロが——テルメの肩で、弱く揺れていた。
タイカ先生が——静かに前に出た。
「……そうじゃないんですよね〜」
「……何がですか、先生」
「五不快というのは——それぞれ、違う弱点があるんですよ。わかります?」
全員がタイカを見た。
「先生——知ってたんですか」
「……少しだけ」
「もっと早く言ってくださいよ!!」テルメが叫んだ。
「……タイミングというものがあるんですよね〜」
ザウルが言った。
「それ、言い訳っすよ」
「……鋭いですね〜」
その時。
リリが——空を見上げた。
「……トント」
「ああ」
「……あれ」
頭上に——四つの影が浮かんでいた。
動かない。
喋らない。
ただ——見下ろしている。
ストレピタを遥かに凌駕する、禍々しい魔素が——学園を覆っていた。
「……一人、摘出した」
トントは静かに言った。
でも——まだ四つの腫瘍が残っている。
脳外科医の仕事は——まだ終わらない。
四つの影が——ゆっくりと、降りてくる。
闇が——深くなっていく。
最初に動いたのは——
赤い髪の女だった。
炎を纏っている。
その目が——怒りで、燃えていた。
トントは立ち上がった。
膝が震えていた。
でも——サウル・ハカロを、握り直した。
「全員」
トントは言った。
「整えろ」
「次が——来る」
第24話 了
◆次話予告/第25話「怒りは悲しみの仮面——慈しみの涙」
赤い髪の女が——炎を振り下ろした。
怒りの化身・イラ。
その炎の中に——深い悲しみが、隠れていた。
立ち向かうのは——レンとキックル。
「その怒り——」
キックルが静かに言った。
「——本当は、悲しかっただけだろ」
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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次回もぜひお楽しみに。




