第22話「水と緑のラハティ、絆と新風の物語」
皆様。
どーも、ベシさんです。
いつもありがとうございます。
さて。
レンの国。
雪原と、キレイな湖。
あぁ、行ってみたい....。
では!
馬車が丘を越えた瞬間——
眼下に広がった。
白い。
一面、白かった。
凍ったヤルヴィ湖が——冬の光を受けて、静かに輝いていた。
湖面に——小さな人影が動いていた。
クロスカントリースキーで滑る人たちだった。
凍った湖の上を、まるで水の上を歩くように——軽やかに、自由に。
「……湖の上を滑ってる」リリが目を丸くした。
「凍った湖の上をクロスカントリースキーで移動する。ラハティの冬の文化だ」
「湖が凍るのか」
「この時期は全面凍結する。でも——春になれば、また水に戻る」
「この閉鎖的な地形が生む微細な気圧変化、
そして厚い氷の下を流れる『生きた水』が発する超低周波の振動……。
医学的に見れば、ここは国全体が巨大な『高気圧酸素療法』の施設そのものだ。
細胞一つひとつの酸素代謝効率が、通常の1.5倍は跳ね上がっている」
「トントさん、また始まったっすよ。感動の方向が完全に『生体データ』なんっすもん」
ザウルが苦笑いしながら、空を鋭く切り裂く巨大なタワーを指差した。
「それより見てくださいよ。あの空に向かって真っすぐに伸びるスキージャンプ台!
あそこから、人間が鳥になるんっすよ」
「人間が飛ぶ!? 正気か! 前頭葉のネジが外れとるわ!」
テルメが叫ぶが、トントはそのタワーを仰ぎ見て、感嘆の溜息を漏らした。
「ネジではない。高度な恐怖抑制機能と、
重力という絶対的な縛りから解き放たれたいという、
人類の根源的な意志の結晶だ。……素晴らしい。
あの傾斜設計、まさに死と隣り合わせの機能美だな」
ザウルが言った。
「トントさん、テンション上がってますよ」
「……否定しない」
湖の向こうに——城が見えた。
ザウルが静かに言った。
「……レン様、顔が変わってますよ」
レンが——窓の外を見ていた。
湖を見ていた。
タワーを見ていた。
森を見ていた。
「……帰ってきた」
小さな声だった。
キックルだけが、静かに光った。
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王都の門が近づいてきた。
城の天辺から——透明な薄膜が、王国全体を覆っていた。
「……あれが、水の結界よ」レンが言った。
「悪しき心を持つ者は——通れない。良き心の者が近づくと、水が自ら道を開く」
全員が結界に近づいた。
キックルが青白く輝いた。
結界が——ゆっくりと、道を開いた。
トントが通った。
エーアイが通った。
リリが通った。
レンが通った——当然だった。
テルメが通った瞬間。
パシャッ。
テルメだけ、少し濡れた。
「え!!なんでウチだけ濡れてんの!!」
ザウルが言った。
「テルメさん、何か心当たりありますか?」
「ないわ!!絶対ない!!」
「本当に?」
リリが静かに言った。
「テルメさん——私のマッカラ食べましたよね」
テルメが固まった。
「え!!」
ザウル「やっぱりあったっすね。」
テルメ「マッカラ1本でこんなに濡れる!?」
ザウル「結界、正直っすよ」
トント「……断ってから食べろよ」
テルメ「だって、お腹すいてたんやもん!!」
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全体が水色に輝く城に到着した。
レンの父王そして、
レンの姉たち、ラハティ王国の三王女が出迎えた。
「レン、よく無事で。……そして皆さんの事は、トントの手紙とキックルの思念で聞かされています。
早速だけど、我が国の聖なる源泉を案内させてちょうだい。
そこであなた方に、ラハティの真の力を知ってほしいの」
案内されたのは、王宮の奥深く、
三方を分厚い岩盤に囲まれ、地中に半分埋まった「半地下」の聖域。
こんこんと湧き出る水は、ラハティの魔法の源泉である『聖泉』だった。
それにしても、レンと、姉達は仲良さげだ。
再開を楽しみにしていた事が伝わってくる。
その光景を——トントは、少し離れた場所から静かに見ていた。
家族、か。
一人で倒れた夜——俺には、誰もいなかった。
取り戻せないものがある。
でも——
「……トントはん。」
テルメが隣に来た。
「なんだ」
「何一人で、心の隔離室に閉じこもっとるん」
「別に」
「嘘ついてもバレてんで!」
テルメは腕を組んだ。
「ウチな——あんたのことを家族やと思っとるよ。
血の繋がりなんて関係ない。最高の戦友や」
トントは何も言わなかった。
でも——胸の奥で、何かが溶けた気がした。
凍りついたストーンが、熱を浴びる様に。
ザウルが静かに言った。
「……俺もっすよ」
テルメが叫んだ。
「ザウルまで!!泣かせにくるな!!」
ザウル「テルメさん、もう泣いてますね」
テルメ「うるさい!!目に雪が入っただけや!!」
ザウル「屋内っすよ」
テルメ「……うるさい!!」
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だが、その平穏は一瞬で地獄へと変貌した。
突如として聖泉の底から、墨汁をぶちまけたような漆黒の魔素が暴発した。
「なっ、何事だ!?」
周囲を警備していたラハティの精鋭戦士たちが駆け寄るが、
黒い霧に触れた瞬間、彼らの叫びは獣のような咆哮へと変わった。
「ぐああああっ! 脳が、脳が焦げる……!」
戦士たちの肌がどす黒く変色し、その瞳からは理性が消え、紫色の狂気が宿る。
魔素に乗っ取られた彼らは、ガラスの破片のような「黒い水の刃」を生成し、
トントたちへ襲いかかった。
「不快指数の急上昇を確認。戦士たちのドーパミン受容体が魔素によって強制ジャックされています」
エーアイが冷静に報告するが、状況は絶望的だ。
攻撃すれば、仲間の戦士たちを傷つけることになる。
「……三方を岩盤に囲まれた半地下。そして底から湧き出る熱源を孕んだ源泉……」
トントの眼光が、かつてない鋭さで地形を射抜いた。
「エーアイ、作れるか!? この地形、半地下サウナのそれだ!
ここを『人類最古のサウナ』へと作り変えるぞ!」
「了解。生成魔法、展開します」
エーアイの指先から、眩い魔導の幾何学模様が空間に描かれる。
「生成魔法:超断熱セラミック・パーテーション、および魔導蓄熱ストーン・ヘカトンケイル!」
瞬時に、聖泉の唯一開いた出口を塞ぐように、エーアイが生成した透明な断熱壁が立ち上がる。
同時に、戦士たちが踏む床下には、魔導によって急激に熱せられた漆黒の蓄熱石が敷き詰められた。
「レン、キックル! 怒りを捨てろ!
お前たちの体内の聖水を、この石に叩きつけろ!
この戦士たちを、そしてこの汚染された空間を、丸ごと『整わせる』んだ!」
トントの咆哮に、レンが頷く。
「キックル……! 私たちの水の記憶を、すべて蒸気に変えて!」
「はい、レン様! シンクロ率、最大値突破!!」
レンとキックルの魔力が完全に一つに溶け合う。
レンの瞳が聖なる蒼に染まり、彼女が振りかざした腕から、
純度100%の聖水が赤熱したストーンへと降り注いだ。
ジュワァァァァァァァァァァァァッ!!!
かつてないほど濃密な、黄金の光を孕んだ蒸気が半地下の空間を埋め尽くした。
「ととのええええええ!!」
ヴァロがその熱量を数倍に増幅させ、
不快指数の塊だった魔物と化した戦士たちの体内に、蒸気が分子レベルで浸透していく。
「……あ、あたたかい……」
刃を振り上げていた戦士たちの動きが止まる。
彼らの肌から、黒い魔素が「汗」となって噴き出し、蒸気と共に消散していく。
狂気に染まった瞳がゆっくりと閉じられ、彼らは恍惚とした表情でその場に座り込んだ。
「ストレス魔素の完全蒸発を確認。対象者の心拍数、安定期へ移行しました」
エーアイの報告と共に、トントは静かにラドルを下ろした。
「……終わったな」
数分後。浄化され、本来の透明度を取り戻した聖泉。
そこには、魔素から解放され、深い「ととのい」の中にいる戦士たちと、
共に汗を流したトント一行がいた。
「トントさん……これ、すごすぎるっすよ。戦いの中で、こんなに気持ちよくなれるなんて」
ザウルが、エーアイが生成したヴィヒタを握りながら呟く。
「さて。聖泉が真の姿を取り戻した今、ここからは俺たちの番だ」
トントは全員を見渡した。
「全員、そのまま水風呂(泉)へダイブしろ。
これがラハティの、いや、オーユバーラへの旅の『本番』だ」
一行は、浄化された聖泉へと身を投げた。
「はぁぁぁ…………宇宙が見える……」
テルメが水面で大の字になる。
レンは隣で、キックルを頭に乗せながら、故郷の水の冷たさに涙を流していた。
「……ありがとう、トント。私、この景色を一生忘れない」
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夜が来た。
ラハティ城の大広間に——灯りが満ちた。
石造りの天井から下がる水晶の燭台が、揺れる炎を水面のように反射している。
王がテーブルの上座に座り、レンの姉たちが両脇を囲んだ。
「今宵は——我が国を救ってくれた客人たちを、精一杯もてなしたい」
カルマル王が、静かに言った。
「粗末なものしかないが——」
「粗末じゃないっすよ、絶対」
ザウルが言った。
テルメが叫んだ。
「ザウルの言う通りや!!」
レンが——少し恥ずかしそうに姉たちの隣に座った。
「……トント、これがうちの家族よ」
「いい家族だな」
「……うるさい」
でも——口元が、緩んでいた。
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まず——コイヴメフが注がれた。
白樺の樹液を静かに発酵させた、ラハティの伝統飲料。
透明に近い、淡い金色の液体。
グラスを傾けると——ほのかな甘みと、森の香りが広がった。
「これは」トントが一口飲んだ。
「聖泉のミネラルを多く含んだ土壌で育った白樺の樹液です」
レンの姉が静かに説明した。
「サウナの後に飲む——ラハティの習慣です」
トントの医学的解説が始まった。
「白樺の樹液には——17種類のアミノ酸が含まれている。
カリウム・カルシウム・マグネシウム——整いで失われた電解質を補う。
さらにシリンガレジノールという配糖体が——ストレスと疲労を和らげる。
腸内環境を改善して、利尿作用で老廃物を排出する。
要するに——これはデトックス水だ」
テルメが固まった。
「……シリンガ……レジノール? 全くわからんかったわ」
ザウルが言った。
「俺もっすよ。でも——なんかすごいっすよね」
テルメ「それだけわかった!!」
ザウル「脳外科医の解説、難しいっすよね毎回」
トント「……要するに、体の中のゴミを全部流してくれる」
テルメ「最初からそれ言うて!!」
カルマル王が——静かに笑っていた。
「……賑やかな客人たちだ」
「ご迷惑をおかけしています」
「いや——久しぶりに、この広間が笑い声で満たされた」
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次に——大きな塩の塊が、テーブルに運ばれてきた。
白く、丸い。
「……なんですか、これは」リリが目を丸くした。
「塩釜焼きだ」
王が静かに言った。
「聖泉の水で作った塩で——ノースサーモンを包んだ。
サウナストーンの遠赤外線で、二時間かけて芯まで焼き上げる。
ラハティの宴の、最高の一品だ」
木槌が運ばれてきた。
「割る役を——お客人に」
王がトントを見た。
トントは木槌を手に取った。
一息ついて——
叩きつけた。
パン!!
塩の殻が、割れた。
その瞬間。
芳醇な香りが——大広間に広がった。
ハーブと塩と脂の、信じられないほど複雑な香り。
「……っ」
全員が、止まった。
テルメが——目を見開いた。
「……なんや、この匂い」
トントが静かに言った。
「サウナストーンの遠赤外線は——魚の深部まで均一に熱を届ける。
塩釜の中で水分が蒸発しないから——旨味が全て閉じ込められる。
さらに——聖泉の塩のミネラルが表面に染み込んで——」
テルメ「むずかしいわ、全く」
ザウル「俺もっすよ」
トント「……要するに、最高の焼き方だ」
テルメ「それだけ言うて!!」
一口食べた瞬間——
全員が黙った。
ほぐれた身が——口の中でとろけた。
塩の旨味が、深く、じんわりと広がった。
「……うまい」
トントが——静かに言った。
「前世で食べたどの魚より——うまい」
ザウルが静かに言った。
「トントさん、素直っすよ」
「……うるさい」
「かわいいやん!!」テルメが叫んだ。
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デザートに——ヴェシモッコが並んだ。
ラハティの清水で作られた、透き通った水菓子。
葛のように透明な外皮の中に——北方ベリーのジャムが、宝石のように閉じ込められていた。
炎の灯りに透かすと——赤と青のベリーが、水の中で揺れていた。
「……きれい」エーアイが呟いた。
トントが一口食べた。
止まった。
「……トントさん、また前世の顔してるっすよ」ザウルが言った。
「……なんでわかる」
「ずっと見てたっすから」
……水まんじゅうだ。
岐阜の大垣の老舗。
手術が続いた夏。一人で旅行に行き——一人で食べた。
あれだけが——その夏の、唯一の休憩だった。
あの時は一人だった。
今は——
テルメが叫んでいた。
「なんやこれ!!口の中でとろけた!!
聖水の甘みと、ベリーの酸っぱさが——全部、口の中で整ってる!!」
ザウルが言った。
「整ってるって表現、テルメさんだけっすよ」
「流行らせるねん!!」
レンの姉が——テルメを見て、声を出して笑った。
その笑い声が、広間に広がった。
レンが——姉たちの笑顔を見て、静かに目を細めた。
カルマル王が、トントに静かに言った。
「……トント殿」
「はい」
「この国に——聖泉サウナが生まれた。民も整った。あなたに感謝する」
「サウナに入れば——みんな平等です。王も、民も、精霊も」
王が——少し間を置いた。
「……その言葉、気に入った」
……大湯原の封印が解ける日が来るかもしれない。
この者が——その鍵を持つ者か。
王は何も言わなかった。
でも——その目が、遠くを見ていた。
ザウルが静かに言った。
「前世の一人で食べた水まんじゅうより——美味いっすよね」
トントが——少し間を置いた。
「……そうかもしれない」
テルメが——また、泣いていた。
「なんで泣いてるんっすか」
「うるさい!!いい話やったら泣くのは当然やろ!!」
焚き火が——高く燃えた。
ラハティの夜が、温かく、深く更けていった。
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翌朝。
馬車が動き出した。
「次は——トゥリ王国だ。フリギアの国」
レンが腕を組んだ。
「……あの子、また張り合ってくるわよ」
「それでいい」
ザウル「トントさん、楽しみにしてますよね?」
トント「……否定しない」
テルメ「素直!!かわいいやん!!」
トント「……うるさい」
……次の聖地へ。
整え続ける限り——オーユバーラは、近づいてくる。
ザウルが風を吹かせた。
馬車が——南へ、加速した。
――つづく――
◆次話予告
第23話「トゥリ国の誘惑、黄金の龍とととのわぬ嫉妬」
情熱の南国・トゥリ。そこでトントを待っていたのは、美青年トゥリボリ公子からの「愛の告白」!?
「よせ! 俺の中身は46歳のオッサンだ!!」
さらに、ズマルアの影が放った「黄金の龍」が、カルデラ全体を焼き尽くす!
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
この作品を「面白い」「続きが気になる」と思ってくださった方は、
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皆様の応援が、異世界サウナ夢想の最大のモチベーションになります!
次回もぜひお楽しみに。




