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第21話「凍てつく魂、ととのう時」

皆様。

どーも、ベシさんです。

いつも、読んでいただき本当にありがとうございます。


ところで、皆さんサウナ好きですか?

もう、私はサウナに入る為に生きている。

と、言っても過言ではありません。


サウナ・アタオカ。としてこれからも楽しみます!


では!



漆黒のスモークサウナから——真っ白な蒸気が、冬の空へと立ち昇っていた。


百年ぶりの煙。


百年ぶりの熱。


丘の下から見上げる村人たちが、その煙を——信じられないものを見るような目で、じっと見ていた。


老婆が——空を見上げたまま、動けなかった。


子供が——老婆の手を、そっと握った。




翌朝。


スモークサウナの扉の前に——女の子と町長が立っていた。


二人とも、緊張した顔をしていた。


でも——目が、輝いていた。


「入り方を説明する」


トントが言った。


「壁を触ると真っ黒になる。だから——サウナマットを敷いて、その上に座るんだ」


「テルメ!!」


「はいっ!!」


「サウナマット、配ってくれ」


「任せとき!!」


テルメが走り出した。


村人たちが——その様子を、遠巻きに見ていた。


「トントさん!!」

ザウルが声をかけてきた。


「なに」


「顔!!まだ黒いですよ!!」


トントが——自分の顔を触った。


煤だらけだった。


昨夜の作業の煤が、まだ残っていた。


ザウルが言った。


「洗ったっすか?」


「……整いに集中してた」


「それ言い訳っすよ」


「うるさい」


「いや、村人に説明する前に洗った方がいいっすよ絶対」


テルメが叫んだ。


「ザウル、正しいわ!!」


「……後で洗う」


女の子が——トントの煤だらけの顔を見た。


それから——くすっと笑った。


小さな笑いだった。


でも——確かに、笑った。


トントは何も言わなかった。


……この子が笑った。


百年ぶりに——この村の子供が、笑った。


それだけで——全部、報われた気がした。




「入るぞ」


扉を開けた瞬間。


燻製のような芳醇な香りが、二人を包んだ。


「……あったかい」


女の子が、呟いた。


それだけだった。


でも——その一言が、全てだった。


トントはサウナ室の外でつぶやき始める。

「スモークサウナは現代のサウナより温度が低い。

 でも——遠赤外線が体の芯まで届く。

 黒く燻された壁が全方向から体を包む。

 筋肉の奥まで温まる。血行が促進される。殺菌効果もある——」


ザウルが言った。

「トントさん、一人で喋ってますよ」


「……解説してるんだ」


「誰に?」


「……自分に」


「それ、独り言っすよ」

テルメが言った。

「ウチはちゃんと聞いてたで!!」


ザウルが静かに言った。


「テルメさんだけっすね」


「もう、ウチだけで十分や!!」


7分が経った。


トントが扉を叩いた。


「どうだ?」


「もう少し——」


「無理するなよ。」


扉が開いた。


町長と女の子が、真っ赤な顔で飛び出してきた。


「次——湖だ」


「湖!!」


レンが湖を指差した。


「用意できてる」


キックルが水面に手をかざしていた。


湖の冷たい水が、底まで透き通って見えた。


「……あの中に入るのか?」


町長が青ざめた。


「入る」


「し、死ぬ!!」


「死なない。医者が言ってる」


トントは静かに説明した。


「スモークサウナで体の芯まで温まった状態で冷水に入る——これが最高の交互浴だ。

 冷水に入った瞬間、皮膚の冷感受容体が一斉に刺激される。

 アドレナリンとノルアドレナリンが急激に分泌される。

 心拍数が上がる。血管が収縮する。

 でも——出た瞬間、副交感神経が優位になる。

 この切り替えが——血管を若返らせる。百年分の澱みを、一気に洗い流す」


ザウルが言った。

「トントさん、説明長くないっすか」


「……医者だから仕方ない」


「町長、待ってますよ」


テルメが叫んだ。

「早よ飛び込み!!!」


町長が——湖の縁に立った。


震えていた。

でも——


「……えいっ!!」


飛び込んだ。

「ふぎゃあああああ!!」

町長の叫び声が、極寒の大地に響いた。


村人たちが——どっと笑った。

女の子が——町長を見て、笑った。

それから——自分も飛び込んだ。


「つめたっ——!!でも——!!」


テルメが飛び込んだ。

「冷ティeeeeeeeee!!」


ザウルが言った。

「テルメさん、元気っすね」


「当然や!!まだまだ現役バリバリやで!!」


「そりゃそうですよ。ピチピチのギャルみたいですもんね。見た目。」

ザウルは、全部分かってます。といった顔で言った。



湖から上がった瞬間。


体から——湯気が立ち昇った。


その瞳に——光が宿った。



硬く結ばれていた唇が——最高に幸せそうに、緩んでいった。

全員が——整い椅子に倒れ込んだ。


ラップーランドの空が——信じられないくらい、広かった。


「ととのeeeeeeeeeee!!」


テルメが雪の上に大の字に倒れた。


ザウルが言った。

「雪の上で寝ないでくださいよ」


「外気浴や!!」


「ラップーランドの外気浴は命に関わるっすよ」


トントが静かに言った。

「……ザウルの言う通りだ」


「二人して!!」

テルメが叫んだ。


ただ——空を見上げていた。


「体の中で今——βエンドルフィンが分泌されている」

トントが静かに言った。

「脳内麻薬とも呼ばれる物質だ。

 幸福感、多幸感——これが『ととのい』の正体だ。

 セロトニンも同時に分泌されている。気持ちが安定する。

 全てが——いい意味で、どうでもよくなる」


ザウルが言った。

「トントさん、自分も整ってるのに解説してるっすよ」


「……習慣だ」


「医者の習慣、抜けないっすね」


テルメが言った。

「それがトントはんのええとこやん!!」


ザウルが静かに言った。

「……まあ、そうっすよね」


「ザウル!!今、トントはんのこと褒めた!!」


「……否定はしないっすよ」


町長が——涙をぬぐいながら言った。


「……なんじゃ、これは」

「……百年の重荷が、汗と一緒に消えてしもうた」

「……整った~~。」


テルメが横で静かに泣いていた。


「テルメ」


「なんや」


「お前も泣くのか」


「うるさいわ!!感動したら泣くのは当然やろ!!」


ザウルが——静かに言った。


「……俺も、ちょっと泣きそうっすよ」


「え!!ザウルも!!」


「……風の精霊も泣くんっすよ」


全員が——笑いながら、泣いていた。



その光景を——村人たちが、遠巻きに見ていた。


町長の笑顔を見た瞬間。


堰を切ったように——村人たちがサウナへと押し寄せた。


「私も入りたい!!」

「俺もだ!!」



「順番に!!」

テルメが飛び起きた。


「ウチの出番や!!テルメナビゲート開始!!整理券配るで!!」


ザウルが言った。

「また整理券っすか」


「サウナは段取りが命やねん!!」


「文化祭でも言ってましたよね、それ」


「ウチの名言やねん!!」


「名言かどうかは……まあいいっすよ」


整理券が配られた。

村人たちが——順番に、スモークサウナへ入っていった。

出てくるたびに——顔が変わった。

死んだような目が——生き返った。

重かった肩が——下がった。

硬かった口元が——緩んだ。

一人が笑うと——隣も笑った。

笑いが——伝播した。

死んでいたように静かだった村が——声で満ちていった。



リリが呟いた。

「……サウナが、村を救ってる」


「救ってるのは、整いだ」


トントが言った。

「サウナは道具に過ぎない。でも——最高の道具だ」


エーアイが静かに言った。

「……百年間、整えられなかった人たちが、一度に整っています」


「ああ」


「……世界が、オーユバーラを必要としている理由が——少しわかった気がします」

シルヴァが、エーアイの肩で静かに揺れた。


ザウルが——静かに言った。

「……整いって、人を人に戻すんっすよ」


全員が、ザウルを見た。

「あ、なんかいいこと言いましたかね」


テルメが叫んだ。

「言った!!ザウル、今日一番いいこと言った!!」


「照れるっすよ」

トントが静かに言った。


「……その通りだ」


ザウルが——少しだけ、眩しく輝いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜が来た。

村の広場に——焚き火が灯った。

今夜は——昨夜とは違う。

村人総出の、本格的な宴だった。

老婆たちが——腕を振るった。

「リリさん、一緒に作りましょう!!」

「はい!!やります!!」

リリとファビラが——村の老婆と並んで、料理を始めた。


まず——カレリアパイ(ピーラッカ)が並んだ。

薄いライ麦の生地に、米を詰めた伝統のパイ。

上にはバターと茹で卵を混ぜたムナヴォイが添えられている。


「……これは」

トントが一口食べた。


「……ドリア風だ。でも——もっと素朴で、深い」


「ライ麦のほのかな酸味と——米の優しい甘みが合わさってます」

とエーアイが静かに言った。


「日本のおにぎりに近い温かみがある」


ザウルが言った。

「トントさん、解説してないっすよ」


「……美味いから、言葉が出ない」


「それが一番の解説っすよ」


テルメが叫んだ。

「美味い!!なんでこんなに美味いん!!」



次に——リリ特製・濃厚ミートボール「meetトトノイ」が登場した。


ファビラの均一な熱で、外はカリッと、中はジューシーに。


北国のハーブをたっぷり使った濃厚なソース。


「……meetトトノイって名前、誰がつけたっすか」

ザウルが聞いた。


「私です!!」リリが胸を張った。


「センスあるっすよ」


「本当ですか!!」


「整いと出会い——両方かかってるっすよね」


「そうです!!わかってくれました!!」


ザウルがトントに言った。


「トントさん、リリさんの命名センス、どうっすか」


「……最高だ」


リリが——ファビラと一緒に、ぽっと輝いた。



そして——白樺の樹液ドリンク(コイヴ・メフ)が注がれた。

「これは」

トントが一口飲んだ。


「白樺の樹液には——抗炎症成分が含まれている。

 利尿効果もある。老廃物の排出を促進する。

 整いで開いた血管に——最高の栄養が届く」


ザウルが言った。


「飲みながら解説しなくていいっすよ」


「……習慣だ」


「さっきも言ってましたよ」


テルメが言った。

「もう、食べてや!!」


トントがカレリアパイをもう一口食べた。

「……美味い」


ザウルが静かに言った。


「素直っすね」


テルメが言った。

「かわいいやん!!」


「……うるさい」


村人たちが——爆笑した。


宴の真ん中で。


老婆が——古い歌を歌い始めた。


百年以上前から伝わる、ラップーランドの歌。


低くて、温かくて、遠くの山に溶けていくような歌だった。


一人が歌うと——隣も歌った。

また一人が歌うと——さらに隣も歌った。

歌が——村に広がった。


女の子が——トントの隣で、小さく歌っていた。


「……知ってるのか、その歌」


「……お母さんが、よく歌ってた」


「そうか」


「……お母さん、どこに行ったかわからない。でも——この歌は、覚えてる」


トントは黙っていた。


「……そうか」


「……歌ってると——お母さんが、隣にいる気がする」


トントは空を見上げた。


……翔太。


お前も——俺の隣にいるか。

俺が整え続ける限り——お前は、どこかで生きているか。

ザウルが——静かに風を吹かせた。

温かい風だった。


焚き火が——高く燃えた。


歌が——村全体に広がっていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その光景を——遠くの山影から見ていた。


黒いローブの影が、一つ。


「……報告せねば」


低い声で呟いて、踵を返した。


でも——その前に、一瞬だけ足を止めた。


丘の上から漂ってくる、燻製のような香り。


温かい歌声。


笑い声。


「……不快じゃない、な」


影は小さく呟いた。


それがどういう意味か——自分でもわからないまま、闇の中に消えていった。




その報告が——ストレッシのもとに届いた。


暗闇の中で——ストレッシが立っていた。


「……百年間、停滞させてきた村が」


声が——震えていた。


「……一夜で、整えられた」


許せない。


でも——


拳が、震えていた。


恐ろしい。


ストレッシは——初めて、恐怖を感じていた。


五不快が整えられ始めている。


三姉妹が整わされた。


ラップーランドが整えられた。


「このままでは——世界が、整い始める」


トゥスカが——静かに現れた。


「……お呼びですか」


「トゥスカ。あの転生者を——」


「はい」


「急げ。急がなければ——取り返しがつかなくなる」


トゥスカが微笑んだ。


でも——その目は、死んでいた。


「……楽しみですね」


ストレッシは——闇の中で、独り言を言った。


……整いなど、この世界に必要ない。


必要ない——はずだ。

なぜ——俺は、今、震えている。

なぜ——あの煙の香りが、どこか——


その思考を、強引に断ち切った。


闇が——また、静まり返った。

でも今度は——前より、浅かった。



翌朝。


一行は惜しまれながら、ラップーランドを後にした。


女の子が——丘の上から、手を振っていた。


「……また来てね、トント!!」


「ああ」


「絶対だよ!!」


「約束だ」


馬車が動き出した。


テルメが窓から顔を出して叫んだ。

「またサウナ入りにくるで!!整理券とっといてな!!」


村人たちが、笑いながら手を振った。


ザウルが言った。

「テルメさん、それ毎回言いますよね」


「ウチの持ちネタやねん!!」


「いいっすね、持ちネタ。私も考えよ。」


「一緒に考えよか??」


「結構です。」

トントはきっぱりと言った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


馬車の中。


「次はどこへ行くの、トント?」


レンが尋ねた。


「決まってる——お前の国だ、レン。湖の国ラハティへ向かう」


レンが——一瞬、目を細めた。


「……水温2度の湖が、あるわよ」


「素晴らしい」


「素晴らしい?」


「最高のアヴァントが——最初から用意されてるじゃないか」


ザウルが言った。

「トントさん、それ普通の人は嫌がる反応っすよ」


テルメが言った。

「ほんまやで!!」


レンは——呆れたように、でも口元を緩めながら言った。

「……あなたって、本当に変わってるわね」


「そうか」


「……悪い意味じゃないわ」


ザウルが言った。


「トントさん、照れてますよ」


「……照れてない」


「照れてますって」


「絶対照れてるわ!!」テルメが叫んだ。


「……うるさい」


全員が——笑った。

馬車が——加速した。


窓の外。


ラップーランドの空が——青かった。

百年ぶりに——空が、青かった。


……次の聖地へ。

整え続ける限り——オーユバーラは、近づいてくる。


ザウルが、風を吹かせた。


その風が——馬車を、前へと押し出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



第21話 了

◆次話予告/第22話「水と緑のラハティ、絆と新風の物語」

レンの故郷、水魔法の聖地ラハティ。

そこでトントを待っていたのは——


「……水温2度?素晴らしい。最高のアヴァントがあるじゃないか」




最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


この作品を「面白い」「続きが気になる」と思ってくださった方は、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】をクリックして評価をいただけると嬉しいです。


皆様の応援が、異世界サウナ夢想の最大のモチベーションになります!

次回もぜひお楽しみに。

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