第20話「薪火の咆哮、百年の沈黙を破れ!」
皆様。
どーもベシです。
いつもありがとうございます。
スモーキーなサウナで、癒されたい。いや、燻されたい。
また、どこかでご一緒できる事を楽しみにしております!
では!
夜明け前から——作業が始まっていた。
ティンペリが一番早く丘に来ていた。
昨夜書き込んだ設計図を手に、石の土台を確認していた。
トントが続いて丘に上がった。
「……早いな」
「大工は夜明けと共に動く」
ティンペリは振り返らなかった。
「じいさんも——そうだったのか」
「ああ」
短い会話だった。
でも——二人の間に、余計な言葉はいらなかった。
エーアイが静かに丘に上がってきた。
ティンペリが設計図を広げた。
「昨夜、考えた。石の配置をここにする。この角度なら——蒸気が均一に広がる」
「……完璧です」とエーアイが言った。
「違う」
「え?」
「俺の答えだ。じいさんの答えじゃない。でも——きっと、こういうことだったと思う」
エーアイは——静かに微笑んだ。
シルヴァが、葉を揺らした。
全員が集まった。
ラップーランドの夜明けは、灰色だった。
重い。淀んでいる。
でも——丘の上の空気だけが、少し違った。
昨日ティンペリが切り出した丸太の香りが漂っていた。
トントは全員を見渡した。
「いいか」
全員が、トントを見た。
「これは単なる土木作業じゃない」
静かだった。でも——その言葉に、重みがあった。
「死にかけた土地の——心肺蘇生(CPR)だ」
「心肺蘇生……?」リリが呟いた。
「一秒の遅れ、一ミリの狂いが、蘇生の成否を分けると思え。
俺は医者だ。患者を診る。
今日の患者は——この村全体だ。処方箋はスモークサウナ。オペを——開始する」
テルメが拳を握った。
「やったるで!!」
ザウルが——トントの肩で輝いた。
「張り切りましょうよ、みなさん」
村人たちが遠巻きに見ていた。
「……あの精霊、喋ってる」
「昨日から喋ってる」
「なんで今まで黙ってたんだろう」
ザウルが村人の方を向いた。
「タイミング見てたんっすよ。最高の場面で登場しようと思って」
村人たちが——顔を見合わせた。
それから、クスッと笑った。
百年ぶりの、笑いだった。
「レン、まず土台の洗浄だ」
トントが設計図を広げながら言った。
「百年の埃を魔力水で洗い流せ。
石の隙間に水を残すな。凍れば膨張して基礎が割れる。」
「わかったわ。水魔法・清浄の奔流!!」
透き通った水が、古びた石の土台を磨き上げていく。
キックルが水の流れを精密にコントロールして、隙間の水分を完全に除去した。
「次は石の選別だ。テルメ」
「任せとき!!」
テルメがナビゲーターの目を細めた。
「この辺の岩は水分を含みすぎや。
熱したら爆ぜる。
……あっちや、あの黒い火成岩。あれが最高の蓄熱石や!なんと一トン分もあるで!!」
「よくわかったな」
「ナビゲーターは、石の密度も読めるねん。わかります?」
トントが静かに言った。
「……タイカ先生みたいな言い方をするな」
「似てきた?やば」
ザウルが追い打ちをかけた。
「テルメさん、口癖だけはタイカ先生の真似してもだめですよ。」
「ザウルまで!!」
村人の子供が——声を出して笑った。
丸太の組み上げが始まった。
ティンペリの手が——信じられないほど速かった。
丸太を選び、積み、隙間を確認する。
その一連の動作に——無駄が一切なかった。
「……あなたの手、すごいわね」エーアイが静かに言った。
「慣れてるだけだ」
「どのくらい経験したんですか」
「物心ついた頃から、木を触ってた」
「……おじいさんの血ですか」
ティンペリが——少し間を置いた。
「そうかもしれない」
エーアイがシルヴァと一緒に、足りない木材を生成して補っていく。
ティンペリの手の動きを見ながら——同じリズムで動いていた。
リリがこっそりテルメに言った。
「……なんかまた、いい感じじゃない?」
「ウチも思ってた!!」
「しっ!!」
ザウルが小声で言った。
「俺も思ってたっすよ」
「アンタもかいな!!」
テルメが両手で顔を覆った。
恋って、こうやって始まるやったかいな。
テルメは遥か遠い昔を思い出していた.....。
正午を過ぎた頃。
リリの火入れの番が来た。
「リリ」
「はい!!」
「出番だよ。だが——普通に燃やすな」
リリの手が止まった。
トントが続けた。
「スモークサウナの原理を説明する。
煙突がない。
密閉された空間に大量の薪を焚いて——石を加熱する。
ここで重要なのは——煙そのものが、熱を運ぶ血液になるということだ」
「血液……」
「そうだ。薪の芯だけを狙って、炭化を遅らせながら燻し続けろ。
不完全燃焼の煙を——壁と石に吸わせるんだ。
煙が壁を黒く燻すことで——遠赤外線を放射する壁が完成する」
「遠赤外線?」
「遠赤外線は——体の芯まで届く。
皮膚の表面だけでなく、筋肉の奥まで。
普通のサウナより温度が低くても——体の芯から温まれるのは、この遠赤外線効果だ。
血行が促進される。
疲労が回復される。
冷え性が改善される。そして——深い睡眠が取れるようになる」
テルメが言った。
「……つまり、煙があるから最高のサウナになるってこと?」
「そうだ。だからスモークサウナは——サウナの王様と呼ばれる」
ザウルが言った。
「王様っすか。いい響きっすよ」
「できるか、リリ」
リリはファビラを見た。
ファビラが——ぽっと光った。
「やってみる!!」
リリが薪の山に手をかざした。
極細の炎の糸が走った。
薪の表面ではなく——芯。
内部から、水分だけを狙って飛ばしていく。
……これは——お灸だ。
ツボを刺激するように、薪の芯を刺激する。
「ピリィッ」というような音を立てて、水分が飛んだ。
そして——
ゴォォォォォ!!
百年間、誰も聞いたことのない音が丘に響いた。
薪火の咆哮だ。
「おおおおお!!」テルメが叫んだ。
レンが息を飲んだ。
エーアイが静かに目を細めた。
ティンペリが——一瞬だけ、手を止めた。
煙が——室内に充満し始めた。
壁を燻し、石を焼き、百年の冷気を物理的に追い出していく。
村人たちが振り返った。
「……あの音は」
「煙が——出てる」
「あの音、何十年ぶりに聞いた」
老婆が——目を閉じた。
「リリ、完璧だ」
「え……ほんとに?」
「ファビラの精度が——スモークサウナの火入れに完璧に合ってる」
リリは——ファビラを見た。
ファビラが、ぽっと誇らしそうに光った。
時間が経った。
二時間。三時間。
テルメが——大きなあくびをした。
「……トントはん、まだ?」
「8時間だ」
「8時間!!」
「スモークサウナは——焦ったら終わりだ。石の芯まで温まるのに、8時間かかる」
「……長すぎひん??」
ザウルが言った。
「テルメさん、手術も時間かかるじゃないっすか」
「え、なんで知ってんの!!」
「風の精霊は色々聞こえるんっすよ」
トントが静かに言った。
「……今後、独り言は慎む」
ザウルが言った。
「それは無理っすよ。突っ込みどころ満載ですもん。」
村人がまた笑った。
テルメが言った。
「ウチって、天才やと思わへん?」
トント「……思わない」
ザウル「俺の方が天才だと思いますよ」
テルメ「あんた、何を根拠に!!」
ザウル「雰囲気っすよ」
トント「お前ら、まとめて天才ではない。イライラさせる天才ではあるかもしれないが」
村人の老婆が——笑いながら言った。
「なんじゃ、仲のいい子たちじゃな」
「仲良くないっすよ」とザウルが言った。
「仲悪くもないっすけど」
テルメが言った。
「どっちやねん!!」
四時間が経った。
石が——深紅の輝きを放ち始めた。
熱が——丸太の壁全体に染み込んでいく。
「……いい色だ」ティンペリが静かに言った。
「見たことあるか」
「ない。でも——なぜかわかる。これが正しい色だって」
「じいさんの記憶か」
「……そうかもしれない」
ティンペリが手を伸ばして、石の近くに当てた。
「……熱い。でも——優しい」
「そうだ」トントが言った。
「スモークサウナの熱は——現代のサウナとは全然違う。
温度は低い。でも——芯まで届く。
遠赤外線が、筋肉の奥まで入り込むからだ。
血管が広がる。血流が増える。
百年もの間。凍えていた体が——一度で温まる」
ティンペリが——石を見た。
「……じいさんが、これを作りたかった理由が——少しわかった気がする」
六時間が経った頃。
石の山が——満を持したように、深紅に輝いた。
その時。
回りとは違う輝きを放つ石があった。
「……なんだ?」
そこには古びた、でも確かに鼓動を続ける蒼い結晶が埋まっていた。
「それは……」
いつの間にか丘に上がってきていた町長が、震える声で呟いた。
「……『サウルの心臓』……!」
「サウルの心臓?」
「かつてこの地の熱源を司っていた、風の精霊の核……。
百年の時を経て——再び鼓動を始めたというのか……!」
トントの背中で——ザウルが激しく揺れた。
蒼い結晶の鼓動と、ザウルの風が——共鳴した。
サウナ室内の煙が、龍のように躍り出した。
全員が黙っていた。
ザウルが——静かに言った。
「……古里の心臓、まだ動いてたっすよ」
一秒だけ、静かだった。
でも——その一言が、全員の胸に刺さった。
風が吹いた。
百年ぶりの、温かい風が。
八時間が経った。
トントが立ち上がった。
「……準備は整った」
「リリ、火を止めろ。熾火を全て外へ出せ。
ドアを開放して、室内の煙を逃がす」
「はいっ!!」
煙が——外に流れ出していく。
黒い煙が、針葉樹の森の上を流れていく。
「トントはん!!顔!!!」テルメが叫んだ。
「なんだ」
「真っ黒やん!!煤だらけやん!!」
ザウルが言った。
「マジで真っ黒っすよ」
「……気にするな」
「いや気にした方がいいっすよ絶対」
「うるさい。最後の仕上げのロウリュだ」
トントはラドルを手に取った。
サウル・ハカロが——手の中で温かく輝いた。
ラハティの聖水を、たっぷりと掬った。
……北国の森の香りがする。
百年前、ここの人たちが嗅いでいた匂いだ。
ストーンに——叩きつけた。 ハカロウリュ!
ジュワァァァァァァッ!!
百年の沈黙を破る蒸気の爆発。
白い蒸気が、漆黒の小屋から溢れ出した。
煙が抜けていく。
一酸化炭素が飛んでいく。
煤が落ちていく。
残ったのは——信じられないほど柔らかな熱と。
燻製のような香ばしい香りだった。
「……うわあ」テルメが呟いた。
レンが——目を細めた。
エーアイが、シルヴァをそっと胸に抱いた。
リリが——ファビラと一緒に、その香りを深く吸い込んだ。
ティンペリが——黙って、目を閉じた。
「……この香り」
トントが静かに言った。
「トウヒの木が燃えると——フィトンチッドが放出される。
植物が自己防衛のために作る天然の揮発性物質だ。
これが空気に溶け込んで——鼻から脳に直接届く」
「脳に?」
「嗅神経を通じて——大脳辺縁系の扁桃体に直接作用する。
感情の中枢だ。脳内のα波が増加する。
精神が安定する。ストレスホルモンのコルチゾールが低下する」
「……要するに」テルメが言った。
「この香りで——気持ちよくなるってこと?」
「そうだ。だが——それだけじゃない」
「なに?」
「扁桃体は——感情の記憶も司っている。
昔の香りを嗅ぐと、昔の記憶が蘇るのは——そのためだ」
トントは村人たちを見た。
老婆が——目を閉じて、深く息を吸っていた。
「……これだ。この匂いだ」
「昔の——スモークサウナの匂いか」
「ああ」老婆の目から、涙が落ちた。
「百年前に嗅いだ、あの匂いや。
わしの母ちゃんが、隣でこの匂いを嗅いどった。
笑っとった」
ザウルが静かに言った。
「……香りは、記憶を呼び起こすんっすね」
「そうだ」
「……じゃあ、スモークサウナの煙は——」
「百年前の記憶を、今この瞬間に返してくれる」
「……すごいっすよ、それ」
「サウナの王様と呼ばれる理由が——これだ」
全員が、黙って、その香りの中に立っていた。
その時。
白い煙が——空に上がっていった。
村人の一人が、最初に気づいた。
「……煙が」
老人が顔を上げた。
「煙が——出てる」
それが連鎖した。
「煙だ!!」
「丘の上に——煙が!!」
村人たちが——丘の上を見た。
漆黒のスモークサウナから。
白い煙が。
針葉樹の森の上に——真っすぐ上がっていく。
百年ぶりの煙が。
あの女の子が——空を見上げた。
「……煙が、出てる」
小さな声だった。
「出てる」とトントが言った。
女の子の目が——潤んだ。
「……お母さんが、言ってた。丘に煙が出てた頃は——みんな笑ってたって」
「そうだ」
「……また、笑えるの?」
トントは——少し考えた。
笑えるかどうかは、わからない。
でも——整えることはできる。
整えたら——自然と、笑いたくなる。
それが、サウナだ。
「入ってみればわかる」
女の子は——重厚な木の扉を、そっと押した。
中から漏れ出す、芳醇なタールの香りと、肌を優しく叩くような重厚な熱。
女の子の顔が——ほんの少しだけ、緩んだ。
町長が、トントの隣に立った。
「……百年ぶりじゃ」
震える声だった。
「煙が——また、ここに戻ってきた」
「戻ってきました」
「……わしは、もう諦めておった。でも——」
町長の目から、涙が落ちた。
「……ありがとう。外から来た子供たちよ」
トントは何も言わなかった。
ただ——夕暮れに染まる丘の上で、漆黒のスモークサウナを見上げた。
……前世の俺は、誰かを救えなかった夜に、一人で倒れた。
田中翔太を救えなかった。
でも——今日は、救えた。
この村の百年を。
ザウルが——強く、風を吹かせた。
温かい風だった。
夜が来た。
村の広場に——焚き火が灯った。
「やったーーーー!!完成パーティーや!!」
テルメが両手を広げた。
「ウチが司会するで!!村のみなさん、集まってや!!」
ザウルが言った。
「誰も頼んでないっすよ」
「うるさい!!ウチはこういうキャラやねん!!
楽しい事したいねん!!」
「キャラって自分で言いますか」
「言うわ!!」
村人たちが——焚き火の周りに集まってきた。
北国のソーセージが石窯で焼かれた。
ベリーのジュースが注がれた。
干し魚の燻製が並んだ。
そして——
村の長老が、大きな壺を持ってきた。
黄金色の液体が——壺の中でゆらゆらと揺れていた。
「……これは」
「クルタユオマじゃ」長老が言った。
「この村に古くから伝わる——整いの飲み物なんじゃ。
蜂蜜と北方のベリーと薬草を自然発酵させた、ノンアルコールの飲み物じゃ。
この村では子供から老人まで——整いの後に飲む習慣がある。
酒ではないぞ。整いの後に体が必要とする——天然の栄養なのじゃ」
「黄金色……」リリが目を輝かせた。
トントが一口飲んだ。
「……蜂蜜のミネラルが、整いで失われた電解質を補う。
ベリーのポリフェノールが、血管の炎症を抑える。
薬草の成分が、副交感神経をさらに安定させる」
テルメが——壺を傾けた。
一口。
「……」
テルメが——固まった。
それから。
「美味しeeeeeeeeeee!!!!」
村人が爆笑した。
「なんやこれ!!美味すぎる!!蜂蜜の甘さと、
ベリーの酸っぱさと、薬草の苦みが——全部、口の中で整ってる!!」
ザウルが言った。
「口の中が整ってるって表現、初めて聞いたっすよ」
「美味しいものには整いって使うねん!!」
「それテルメさんだけっすよ」
「流行らせるねん!!」
村人の子供が——テルメの真似をした。
「美味しeeeeeeee!!」
村人が——また、爆笑した。
テルメが子供の頭を撫でた。
「センスあるやん!!」
テルメが——広場の真ん中に立った。
「村のみなさん!!今日はありがとうございました!!
ウチらのこと、最初は怪しんでたやろ!!」
村人たちが笑いながら頷いた。
「でも——サウナに入ったら、みんな平等やねん!!これがトントはんの哲学や!!」
「……俺はそんなこと言ってない」とトントが言った。
「言ってたやろ!!」
「言ったか」
「言ってましたよ」とザウルが言った。
「……いつのまに。ザウル.....。」
テルメが続けた。
「ウチらの精霊——ザウルを紹介するわ!!喋る精霊や!!しかも面白い!!」
村人「おお!!」
ザウル「……どうも、どうも、ザウルでございます~」
テルメ「もっと愛想よくせんか!!」
ザウル「精霊に愛想を求めないでくださいよ」
テルメ「求めるわ!!」
村人が爆笑した。
テルメ「ザウル、なんか面白いこと言うてや!!」
ザウル「……テルメさんのボケの後は、何言っても面白く聞こえますよ。」
テルメ「褒めてんのかけなしてんのか!!」
ザウル「褒めてるっすよ」
テルメ「どこが!!」
ザウル「スベり担当として最高っすよ」
テルメ「スベり担当!!」
ザウル「そう、ド。スベリ担当です!!」
子供が笑い転げた。
ザウル、見た目は精霊なのに、めちゃくちゃ面白い!
老人が涙をぬぐいながら笑った。
ずっと俯いていた村人が——顔を上げて、声を出して笑っていた。
トントがクルタユオマを一口飲みながら言った。
「整った後に食べ物が美味しい理由を教えておく」
「今言うの??」テルメが叫んだ。
「副交感神経が優位になると——消化吸収が最大化される。
胃腸の血流が増える。消化酵素の分泌が活性化される。
同じものを食べても——整った後の方が、何倍も美味しく感じる。
これが、サウナ飯の正体だ」
ザウルが言った。
「トントさん、たまにお医者さんみたいな事言いますよね」
「……たまに、な」
「でも、聞いてる人が少ないんですよね。」
「……そう。なのか....。」
トントは、誰も聞いていない事に今気づいたのであった。
テルメがクルタユオマをもう一杯飲み干した。
「ああ、なんか。心地eeeeeeeeeee!!
村のみなさん!!今日から一緒に整いましょ!!」
村人が——拍手した。
焚き火の炎が——大きく揺れた。
まるで踊るように。
宴が静まった後。
トントは一人、丘の土台の前に立っていた。
星空が広がっていた。
ラドル座が——静かに輝いていた。
「サウル、ここに眠る。か。」
風が少し吹いている。
……翔太。
俺は今日——百年分の笑顔を、取り戻した。
お前を失った夜から、ずっと走り続けてきた。
取り戻せないと思っていた。
でも——取り戻せた。
形は違う。でも——誰かの笑顔を、戻すことができた。
これが——俺の答えでいいのか、翔太。
風が——吹き抜けていく。
温かい風が。
「……ザウル」
「なんっすか」
「今日——お前はどうだった」
ザウルが少し間を置いた。
「……古里に、煙が上がりましたよ」
「そうだな」
「サウルも、見てたと思うっすよ」
「そうかもしれない」
「でも——」
ザウルが静かに言った。
「今は——俺が、ここにいるっすよ」
トントは黙っていた。
それから——小さく頷いた。
星が、輝いていた。
ラドル座の中心で——ポラリスが、静かに光っていた。
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第20話 了
◆次話予告/第21話「凍てつく魂、ととのう時」
翌朝。
スモークサウナに——最初の入室者が来た。
あの女の子と、町長が。
「……壁を触ると真っ黒になるから——サウナマットを敷いて座ってね」
トントが丁寧に説明しながら——自分の顔がまだ煤だらけだった。
テルメ「トントはん!!まだ顔が黒い!!」
ザウル「洗ったっすか?」
トント「……整いに集中してた」
ザウル「それ、言い訳っすよ」
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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皆様の応援が、異世界サウナ夢想の最大のモチベーションになります!
次回もぜひお楽しみに。




