第10話「サウナ三昧な日々と、忍び寄る影」
皆様。
ベシさんです。
いつもありがとうございます。
サウナ三昧。。。
あああ。私も三昧したいです。。
とりあえず、サウナ行ってこよ。
では!
体育祭が終わって、三日が経った。
落ちこぼれ寮のサウナ室は、今日も満員だった。
「次の方どうぞ——! お待たせしました!」
テルメが整理券を配りながら、仕切っている。その動きは、もはやプロの受付係だ。
「テルメ、今日の利用者数は」
「今のところ三十二人。昨日より五人増えてる」
「そうか」
「このペースやと、来週には落ちこぼれ寮が学院で一番人気のスポットになるで」
「なればいい」
トントは設計図を広げた。小さなサウナでは、キャパが足りなくなってきた。増設を考える時期だ。
「エーアイさん」
「はい」とエーアイが静かに返事をした。
「増設の設計図、見てくれるか。生成できそうか確認したい」
エーアイは設計図を受け取った。食い入るように見る。
「……できます。ただ、ベンチの段数が増えると、上段と下段の温度差が大きくなります。設計図、少し修正した方がいいかもしれません」
「どこを?」
「ここと——ここです」
エーアイは羊皮紙に、すっと線を引いた。
……なるほど。
「よく気づいたね、天井高、ベンチの高さ、このバランス、中々難しいんだよね。そして、ストーンの位置とのバランス、これも、最高!」
「サウナに入り続けたら、なんとなくわかってきました」
「エーアイさんは、センスの塊だね!」
「……そんなぁ、トントの指示通り動いてたら、こうなったんですよ!」エーアイは少し嬉しそうだった。
―――
「テルメ、施設を作るとしたら——食事メニューは何がいい??」
トントはまるで患者に質問してカルテに書き込むように、メモをしながら話しかける。
テルメの目が輝いた。
「きた!! この話待ってた!!」
「落ち着いて答えて」
「から揚げ! 絶対から揚げ! サウナ後のから揚げって、なんであんなに美味いんやろ。それとカレー! 汗かいた後のカレー、最高やってん!」
「続けて」
「ピリ辛ラーメン! 台湾味噌とんこつ! あのスープが濃くて辛くて、汗と一緒に全部出てく感じ! 最高やろ! 山賊焼きも! 豚肩ロースの厚切りを、にんにくとしょうがでがっつり焼いたやつ! あれ食べたら元気出るで!
それと——台湾カツ丼! 肉みそともやし炒めが乗ってるやつ! 卵とじされたカツに、肉味噌がオンされてんねん!
あれは罪なやつやわ~!
太陽より罪なやつやで〜!!!」
「ドリンクは?」
「絶対ビール! キンキンに冷えたやつ! あと、サウナ後の牛乳も外せへん!」
トントはメモを見た。
……これは。
「テルメ」
「なに?」
「これ、全部ガッツリ男飯だな」
テルメは止まった。「……あ」
「前世の整い飯だね。サウナで流れ出た、水分、ミネラルを補いすぎるレベルの食事だ」
「……確かに」
「ウチの女性陣に聞いてみよう。」
トントも、テルメも女性なのだが.......。
―――
レン、フリギア、リリ、エーアイ——四人を集めた。
フリギアは、はっきりと言わないが、この学校が気に入り、
数日滞在を、延長しているようだ。
「サウナ施設を作るとして、食事メニューに何を入れてほしいか、意見を聞きたいんだけど」
レンが眉を上げた。「……施設を作るの?」
「将来的な話だ。参考にしたい」
レンは少し考えて、言った。「品のあるものがいいわ。野菜のスープ。それと、サラダ。デザートも欲しい。サウナで汗をかいた後は、甘いものが食べたくなるから」
「なるほど」トントはメモした。
フリギアが続いた。
「……辛いものは苦手。さっぱりしたものがいい。
冷たいスープとか、あっさりしたもの。
あと、小さいおにぎりとか。重くないもの」
「冷製スープと小さいおにぎり、わかった」
リリが手を上げた。「フルーツ! 絶対フルーツ! サウナの後って、なんかフルーツ食べたくなるんだよね! あとパンケーキ! ふわふわのやつ! メープルシロップたっぷりで!」
「……糖分の補給にはなるな、フルーツたっぷりパンケーキと。」
エーアイが静かに言った。
「……豆腐料理が好きです。冷奴とか、湯豆腐とか。
あと、少し甘いものも。杏仁豆腐も好き。」
「いいね、なんか、落ち着いてる」
とリリが言った。
「好きなんです、豆腐って、何だか心満たされないですか?」
とエーアイが答え、トントとテルメに、同意を求めるように視線を投げる。
トント「医学的にもそれは証明されているよね!イソフラボンで、エストロゲンが活発になり、冷え、のぼせ、イライラを和らげる...。」
テルメ「そうなん?冷奴に生姜と、鰹節かけて、醤油ドバドバにかけて瓶ビールのあてにすんねん!」
最後にテルメが腕を組んだ。「ウチはやっぱり男飯でええわ。から揚げとビールがあれば生きていける」
「テルメだけ完全に別路線だね」とリリが言った。
「ええやん! テルメはテルメや!」
トントはメモを見た。
【男飯ライン(テルメ監修)】
から揚げ・カレー・ピリ辛ラーメン(台湾味噌とんこつ)・山賊焼き(豚肩ロース厚切り・にんにく+しょうが)・台湾カツ丼(肉みそもやし炒め乗せ)・ビール・牛乳
【女性ライン(レン・フリギア・リリ・エーアイ監修)】
野菜スープ・サラダ・冷製スープ・小さいおにぎり・フルーツ盛り合わせ・パンケーキ・豆腐料理・甘味(羊羹・杏仁豆腐)
*……これは、かなりいいメニューだ。*
「テルメ」
「なに?」
「支配人候補として、合格だ」
テルメがぱっと顔を輝かせた。
「ほんまに!?」
「メニューの発想力と、客の動向把握。ナビゲーターと組み合わせれば、施設運営に向いている」
「えへへへへ!! やったぁ!!」テルメは飛び上がった。
レンが冷静に言った。
「……私のデザートメニューは採用するのかしら」
「全部採用する」
レンの口元が、わずかに緩んだ。
フリギアが小声で言った。
「……冷製スープも?」
「もちろんだ」
フリギアは鼻を鳴らした。でも。満足そうだった。
エーアイが静かに言った。
「……杏仁豆腐も、ですか」
「杏仁も入れる」
「……ありがとうございます」エーアイは少し嬉しそうだった。
リリが言った。「パンケーキのメープルシロップ、たっぷりめでね!」
「わかった」
「約束だよ!」
「約束だ」
「メープルシロップには63種類以上のポリフェノールが含まれている。活性酸素の除去や老化防止、動脈硬化予防などの抗酸化作用が期待できる。これにより、肝臓保護や全身の健康維持にも寄与する。
リボフラビン、ナイアシン、ビタミンB6などのビタミンB群も含まれ、肌のターンオーバーを整え、肌荒れやシミ、シワの予防・改善に役立つ。内側からの美肌サポートとしても最適だ。」
「なんだか、急に詳しい説明。。。どうしたのトント???」
トントはメモを畳みながら。
「体が自然に欲する物、それこそが、体に一番良いもの。なのかもしれない。
リリ、ナチュラルバイアス的で良い提案ありがとう。」
「う、うん。なんか、ただ食べたい物言っただけだから!」
*いつか、必ず作る。皆で、整える場所を*
おっさんの魂が、静かに、また燃え始めた。
―――
その夕方。
レンは番号札を持って、こっそり落ちこぼれ寮に来た。
「……フリギアはもう帰った?」とキックルに確認した。
「さっき入ったばかりだと思います」
「……じゃあ、待つ」
「でも、次の番号はレン様ですよ」
「じゃあ、入る」
レンはサウナ室の扉を開けた。——そこに、フリギアがいた。
「…………」
「…………」
二人の目が、合った。空気が、凍った。
フリギアが先に口を開いた。「……先に入っていたのは私よ」
「私には関係ない。番号が来たから入ったまでよ」
「……出ていって」
「嫌よ」
二人は黙って、それぞれのベンチに座った。上段にフリギア。下段にレン。
どちらも、出ていかない。どちらも、負けを認めない。
一分が経った。「……暑いわね」レンが言った。
「普通よ」フリギアが答えた。
二分が経った。「……まだいるの」レンが言った。
「あなたこそ」フリギアが答えた。
三分。四分。五分。
通常なら、そろそろ出る頃だ。でも——二人とも、出ない。
六分。「……へ、平気よ」レンの額から、汗が滝のように流れている。
「……私も」フリギアの顔が、真っ赤を通り越している.....。
七分。八分。
扉の外で、トントが腕を組んで言った。「テルメ、中の二人の様子は」
「ナビゲーターで確認したら——二人とも、ふらふらしてる。なんか意地になってる雰囲気」
「わかった」
トントは扉を開けた。「二人とも、出ろ」
「「まだ平気——!」」
「出ろ!!!」
「「…………はい」」
二人は、ふらふらしながらサウナ室を出た。そして——同時に、水風呂の桶に飛び込んだ。
「「つめたっ——!!!!」」
声が、ハモった。二人は顔を見合わせた。そして——どちらからともなく、笑った。
「ふっ……」
「……ふふ」
初めて見る、フリギアの笑顔だった。
その瞬間。どこからか、声が聞こえた。
*サウナは、我慢大会ではありません。*
*時間を気にせず、一番気持ちの良い時間で入りましょう。*
*自分の体の声を聞くことが、本当の「整い」への第一歩です。*
テルメが周囲を見渡した。「……今の声、誰?」
「私ではありません」とエーアイが言った。
全員が、トントを見た。トントは何も言わなかった。
ただ——空を見上げていた。
まあ、誰でもいい。正しいことだ。
外気浴で並んで壁にもたれながら、レンとフリギアは黙っていた。
三分後。フリギアが言った。
「……あなた、強くなったわね」
「……あなたこそ」
「次は負けない」
「私もよ」
また、沈黙。でも——今度の沈黙は、張り詰めていなかった。
キックルとイグニスが、隣で並んで外気浴をしていた。
「気持ちいいですね」とキックルが言った。
イグニスは岩のような腕を組んだまま、ぼそりと言った。「……ふん」
それだけだった。でも——その溶岩質の無骨な顔が、ほんの少しだけ緩んでいた。
水の妖精と炎の妖精が、仲良く空を見上げていた。
―――
トントは設計図の隅に、もう一つメモを書き加えた。
「キックル」
「はい」とキックルが近づいてきた。
「お前のスキル——世界を繋ぐことができるのか」
キックルはおずおずと答えた。
「……現世と異世界の意識を、少しだけ繋げることができます。映像みたいなものが見えることがあります。ただ、長くは続かないし、場所も指定できなくて——」
テルメが飛び起きた。「え?! どういうこと?!」
「見せて!! お願い!!」
「わ、わかりました、やってみます——」
キックルは目を閉じた。両手に、淡い青い光が集まる。
しばらく——静寂。そして。
ふわり、と。光の中に、映像が浮かんだ。
ぼんやりとした、現世の映像。
都会の夜。ネオンの光。コンクリートの建物。暖簾。湯気。
「……あ」テルメの目が、みるみる潤んだ。
「……あの暖簾や……梅田の近くの……」声が、震えていた。
「……ほんまや……好きやったサウナや……」
涙が、ぽろぽろと落ちた。
「ウチ……また行きたかってん……あの水風呂の感触、忘れてへんのよ!! あの温度!! あの深さ!!」
「テルメさん!?」リリが慌てた。
エーアイが静かにタオルを差し出した。
テルメはそれで顔を拭いながら、まだぐすぐすしていた。
トントは映像の中を見ていた。
コンクリートの建物。暖簾の向こうの、暖かい光。
*……俺も、行きたかったな。*
その思いを、口には出さなかった。
でも——キックルには、伝わったのかもしれない。
淡い青い光の中に、もう一つの映像が浮かんだ。
病院の近くの、小さなサウナ。深夜営業の看板。手術室帰りの、あの静けさ。
「……先生」キックルが小さく言った。
「なんだ」
「現世に、帰りたいですか」
トントは少し考えた。
「……今は、まだやることがある」
「そうですか」
「ただ——」
トントは映像を見ながら、静かに言った。
「……会いたい人が、いる」
キックルの目が——一瞬、揺れた。光が、消えた。
テルメがまだぐすぐすしながら言った。
「……ウチ、絶対いつか施設作るわ。
森の中に。サウナ飯もビールも昼寝部屋も全部つきの」
「それはいいね、楽しみだ」
「支配人はウチやで」
「それでいいよ」
「トントは——顧問みたいな感じで」
「顧問でいい」
テルメはようやく笑った。
「……なんか、二人で夢語ってもうたな」
「悪くない」
「……ウチ、異世界来てよかったかもしれへん」
「そうか」
「好きやったサウナにはもういけへんけど——ここには、ここのサウナがあるから」
「そうだな」
「……ウチ。こっちの世界で、最高のサウナ作りたいわ。」
「ふふ。すっかり、整い癖がついたね」
テルメはにっこり笑った。
―――
その夜。全校集会が、急遽招集された。
演壇に立ったのは——ダッフル校長だった。その隣に、ボーゲル先生が立っている。
普段の地味な眼鏡姿だ。だが今日の目は、少し違った。鋭い。
ダッフルが口を開いた。「皆さん、夜分に集めてすみません。大事なお話があります。ボーゲル先生、お願いします」
ボーゲルは一歩前に出た。咳払いを一つ。
「……魔王軍について、説明します」
広間が、静まり返った。
―――
「魔王軍——正式名称『ストレッシ軍』。魔王ストレッシが率いる、この大陸最大の脅威です」
ボーゲルは黒板に図を描き始めた。その手つきは——理科教師のものではなく、戦略家のものだった。
「彼らの目的は、世界を『不快』で満たすこと。人々のストレスを増幅させ、不眠を広め、孤独を植え付け、怒りを煽り、燃え尽きさせる——それが、五不快です」
ボーゲルは黒板に書いた。
『第一不快 ノイズ——不快な環境・騒音・乱れ』
『第二不快 グルーム——ネガティブオーラ・どんより感』
『第三不快 ラース——怒り・衝動・暴力衝動』
『第四不快 ソリテュード——孤独・断絶・疎外感』
『第五不快 バーンアウト——燃え尽き・無気力・虚無』
「これらを人々の心に植え付けることで、魔王軍は世界の活力を奪っていきます」
生徒たちがざわめく。「なんで、そんなことを……?」
「活力を失った人間は、抵抗できない。支配が容易になるからです」
テルメが小声で言った。「……なんか、ブラック企業みたいやな」
「まさに。だな。。」とトントが静かに返した。
*ストレス。不眠。疲労。孤独。燃え尽き。*
*手術室で倒れた夜——俺は全部、抱えていた。*
*……だからサウナが、必要だった。*
「では——なぜ今、このお話をするのか」ボーゲルは生徒たちを見渡した。
「体育祭の期間中、魔王軍の斥候が、この学院に潜入していた可能性があります」
広間が、どよめいた。
「え……」「スパイ?」「誰が……?」
「確証はありません。ただ——体育祭中に、数名の生徒が原因不明の強い不快感を訴えていました。これは五不快の初期症状と一致します」
「……先生、スパイはまだ学院にいるんですか」誰かが質問した。
ボーゲルは少し間を置いた。「……わかりません。引き続き、注意してください」
広間が、重い空気に包まれた。
―――
集会が終わった後。トントはボーゲル先生に近づいた。
「先生」
ボーゲルは振り返った。眼鏡の奥の目が——鋭い。
「……何か」
「魔王軍のスパイは——五不快のどれを、この学院に仕掛けようとしていたんですか」
ボーゲルは少し黙った。「……なぜそう思う」
「仕掛けようとして、できなかった。そういう雰囲気だったからです」
ボーゲルはトントを見た。「……鋭いな、君は」
「それで?」
「……第一不快。ノイズだ。不快な環境を作り、生徒たちの集中力を奪おうとしていた」
「でも、できなかった」
「そうだ」
「なぜですか」
ボーゲルは少し考えた。そして——口元を微かに緩めた。
「……サウナのせいかもしれんな」
「整った人間には——ノイズが効きにくい。心が静かだから」
「……君が作ったものが——図らずも、盾になっていたかもしれない」
ボーゲルはそれだけ言って、廊下を歩き始めた。
トントはその背中を見た。
*ダッフル校長の古くからの仲間。昔は一緒に冒険していた。*
*この二人は——何を知っているのか。*
―――
その夜、学院の外。木々の影に——一つの人影があった。
黒いローブ。顔は見えない。手元のデバイスに、何かを記録している。
「……サウナが、障壁になるとは思わなかった」低い声が、闇に溶けた。
「ノイズは失敗した。では——次は、グルームを仕掛ける」
人影は動いた。でも——その前に、一瞬だけ足を止めた。
風に乗って、かすかな匂いが漂ってきた。木の香り。熱の残り香。
「……不快じゃない、な」人影は小さく呟いた。
それがどういう意味か——自分でもわからないまま、闇の中に消えていった。
―――
【次話予告】 第11話「夏休みのラウハ村。イライラの正体」
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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皆様の応援が、異世界サウナ夢想の最大のモチベーションになります!
次回もぜひお楽しみに。




