第87話 差
「――こちらが、現状の戦力です」
広げられた地図。
王城、戦略室。
机を囲む者たちの顔は、硬い。
「……」
赤い駒。
大量。
「……多いわね」
カレンが低く呟く。
「ええ」
リリアが頷く。
「隣国の主力です」
「主力?」
「はい」
「つまり……」
カレンが目を細める。
「本気で来てるってことね」
「その通りです」
「……」
沈黙。
重い。
「こちらの戦力は?」
「……」
別の地図。
青い駒。
少ない。
明らかに。
「……」
ミアが、小さく言う。
「少ないです……」
「ええ」
リリアは否定しない。
「数だけで見れば」
「大きく劣ります」
「……」
カレンが舌打ちする。
「どれくらい差があるのよ」
「単純比較で」
「三倍以上」
「……」
空気が凍る。
「……は?」
「三倍?」
「はい」
「しかも」
リリアが続ける。
「精鋭部隊が中心です」
「……」
カレンが笑う。
乾いた笑い。
「終わってるじゃない」
「普通なら、ですね」
「普通ならね」
ミアが震える。
「勝てないんですか……?」
「……」
リリアは一瞬だけ考え――
正直に言う。
「正面から戦えば」
「敗北の可能性が高いです」
「……」
沈黙。
重い。
「……」
その時。
一人の騎士が言う。
「防衛線を敷けば、時間は稼げます」
「ですが」
「長期戦になれば、消耗で押し切られるかと」
「……」
別の者が続ける。
「援軍の見込みは?」
「ありません」
「……」
完全に、詰みの形。
「……」
カレンが小さく呟く。
「典型的な負けパターンね」
「ええ」
リリアも頷く。
「内乱で弱体化したところを叩かれる」
「教科書通りです」
「……」
ミアが、ぎゅっと拳を握る。
「どうするんですか……?」
「……」
誰も、すぐには答えない。
その中で。
「そうなんですね」
場違いな声。
「軽いのよ!!」
カレンが即ツッコミ。
「この状況分かってる!?」
「はい」
「勝てないのよ普通は!」
「普通なら、ですよね」
「……」
一瞬、止まる。
「……そうだけど」
「じゃあ大丈夫ですね」
「何でそうなるのよ」
「なんとかなります」
「根拠は!?」
「なんとなくです」
「一番ダメなやつなのよそれ!!」
「……」
リリアは、静かに見ていた。
そして。
小さく、息を吐く。
「……ですが」
「事実です」
「……」
カレンがちらりと見る。
「……何がよ」
「この状況でも」
「“なんとかなる”と思える理由がある」
「……」
視線が、レインへ向く。
「……」
騎士たちも、気づく。
先ほどの戦闘。
あの一瞬。
「……」
空気が、わずかに変わる。
絶望の中に。
異物が混じる。
「……」
ミアが、小さく言う。
「きっと大丈夫です!」
「……」
誰も否定できない。
できるはずがない。




