第48話 基準
「……いや、おかしいでしょ」
カレンが真顔で言った。
目の前。
訓練場。
「せーの!」
村人たちが、一斉に武器を振るう。
ヒュンッ。
空気が切れる音。
「……」
「……今の、見ました?」
リリアが静かに言う。
「見たわよ」
「どう思いますか?」
「……強い」
短く、答える。
「普通に強いわ」
それが問題だった。
「でも、あれ」
カレンが指差す。
「元農民よね?」
「はい」
「こっちは?」
「元商人です」
「……」
カレンが額を押さえる。
「なんであんな動きできるのよ」
「装備と環境の影響ですね」
リリアが分析する。
「武器が補正し」
「身体の負担が減り」
「動きが最適化される」
「……理屈は分かる」
「でも限度があるでしょ」
「その限度が、上がっています」
「……」
その時。
「見てくれ!」
元冒険者の男が声を上げる。
「これでいける気がする!」
構える。
そして――
踏み込む。
ズンッ。
地面が軽く沈む。
「……」
「……今の、地面凹んだわよね?」
「はい」
「人間の動きじゃないわよね?」
「はい」
「……」
「でも本人は普通です」
「それが一番怖いのよ」
ミアが手を振る。
「みんなすごいです!」
「ミア基準やめなさい」
「えー?」
その頃。
外から来た冒険者。
「……なんだここ」
訓練を見て、固まる。
「おい」
仲間に声をかける。
「あれ、一般人か?」
「……いや、違うだろ」
「動きがおかしい」
「装備も……」
「……やばくね?」
沈黙。
「……ここ、仕事あるのか?」
「いや」
「あるとしても」
小さく呟く。
「俺たち、いらなくね?」
――視点、戻る。
「……聞こえた?」
カレンが言う。
「はい」
リリアも頷く。
「“冒険者いらず”」
「……笑えないわね」
「ですが、事実に近いです」
「……」
訓練場を見る。
村人たちが、普通に動いている。
だが、その“普通”が、外では通用しない。
「……基準が壊れてる」
カレンが呟く。
「ええ」
「ここでは、これが普通です」
レインは、少し離れて見ている。
「いい感じですね」
「よくないのよ、それが」
カレンはため息をついた。




