第49話 視察
「……ここか」
男が立ち止まる。
外部の街から派遣された視察員。
整った服装。
冷静な目。
「記録上は、廃村のはずだが」
「そのはずです」
同行の部下が地図を確認する。
「ですが、現在は――」
言葉が止まる。
目の前に広がる光景。
「……何だ、これは」
門がある。
道がある。
人がいる。
そして――
「……整いすぎている」
「はい」
「……村、か?」
誰も答えない。
「とりあえず、入るぞ」
門をくぐる。
「いらっしゃいませ!」
ミアが元気に声をかける。
「……ああ」
少し戸惑いながら頷く。
「視察の方ですね?」
リリアが落ち着いて対応する。
「案内いたします」
「頼む」
歩き出す。
まず目に入るのは――
「……道」
「はい」
「排水が考えられている」
「幅も均一」
「劣化が見えない」
「最近整備されたものです」
「最近……?」
「はい」
「……何日だ」
「数日程度です」
「……」
言葉が出ない。
次。
「水場です」
井戸。
「……水量が安定しているな」
「枯れる気配もない」
「検査していいか?」
「どうぞ」
一口、飲む。
「……」
「……なんだこの水は」
「問題ありませんか?」
「問題しかない」
「良すぎる」
「……」
さらに進む。
「鍛冶場です」
カン、カン、と音が響く。
「……あれは」
「製造中の装備です」
「見せてくれ」
完成品を受け取る。
「……軽い」
振る。
「……」
空気が裂ける。
「……これは」
「どうされました?」
「……軍用級だ」
ぽつりと漏れる。
「しかも、量産されている」
「はい」
「……」
「次に、訓練場です」
「……まだあるのか」
歩く。
そして――
止まる。
「……」
無言。
「……あれは、何だ」
「訓練中の住民です」
「……住民?」
「はい」
再び、無言。
「……おい」
部下に小声で言う。
「どう見える」
「……上級冒険者です」
「だよな」
「それが」
視線を戻す。
「……一般人?」
「はい」
「……」
頭を押さえる。
「……ここ、本当に村か?」
ようやく出た言葉。
「はい」
リリアは静かに答える。
「現時点では」
「……現時点では?」
「今後は分かりません」
「……」
完全に沈黙する視察員。
その様子を、少し離れて見ているカレン。
「……いい反応ね」
「そうですね」
「分かりやすく壊れてるわ」
レインは、いつも通りだった。
「普通だと思いますけど」
「普通じゃないのよ」
カレンは即答した。




