第40話 鍛冶
カン、と乾いた音が響いた。
拠点の入口付近。
一人の男が、腰に下げたハンマーを軽く叩いている。
「……ここか」
低い声。
視線は鋭い。
「ご用件でしょうか」
リリアが前に出る。
「鍛冶師だ」
男は短く言った。
「腕はある」
それだけ。
「……随分と簡潔ですね」
リリアが小さく言う。
「余計なことは言わねぇ」
男は肩をすくめる。
「ここ、最近妙な噂が流れてる」
「妙な、ですか」
「ありえねぇ素材が出る」
「ありえねぇ拠点がある」
ちらりと周囲を見る。
「……見た感じ、後者は当たりだな」
「否定はしません」
リリアは淡々と答える。
「で?」
カレンが腕を組んで前に出る。
「何しに来たの」
「仕事だ」
男は即答する。
「素材があるなら、叩く」
「報酬次第だがな」
「……実力は?」
「見りゃ分かる」
その目に、迷いはない。
「……いいわ」
カレンが頷く。
「試す」
「構わねぇ」
「リリア、素材」
「はい」
倉庫から、いくつかの素材が運ばれる。
男が、それを見る。
「……は?」
一瞬、言葉が止まった。
「……なんだこれ」
手に取る。
重さを確かめる。
光を当てる。
「おい」
声が低くなる。
「こんな素材どこで手に入れた」
「この周辺で採取したものです」
リリアが答える。
「……嘘だろ」
男の目が、完全に変わる。
「純度が違う」
「密度もおかしい」
「こんな状態のまま存在してるはずがねぇ」
「……そうなんですか?」
ミアが首を傾げる。
「“そうなんですか?”じゃねぇ」
「これ、普通の鍛冶場に持ち込んだら騒ぎになるぞ」
「そうなんですね」
レインが普通に言う。
「……お前か」
男がレインを見る。
「何かしました?」
「……」
少しだけ、考えて。
「……いい」
男は小さく息を吐いた。
「理由はどうでもいい」
「叩かせろ」
その一言に、熱がこもる。
「……本気ね」
カレンが呟く。
「こんな素材、二度と触れねぇかもしれねぇ」
「なら、全力でやる」
「……分かった」
カレンが頷く。
「場所は用意する」
「助かる」
――しばらく後。
簡易鍛冶場。
火が入り、鉄が熱される。
男が、ハンマーを振るう。
カン。
音が、違う。
「……っ!」
一撃で、形が変わる。
「おいおい……」
男の顔に、驚きが浮かぶ。
「なんだこの素材……」
「力が通りすぎる」
「でも、崩れねぇ」
「……ありえねぇ」
さらに叩く。
カン、カン、カン。
仕上がる。
一振りの剣。
「……試せ」
男が差し出す。
カレンが受け取る。
軽く振る。
「……」
空気が、切れる。
「……何これ」
「軽いのに、重い」
「意味わかんないわよ」
「強いです」
リリアが静かに言う。
「明らかに、通常の装備を超えています」
「すごいです!」
ミアが目を輝かせる。
男は、静かに笑った。
「……決めた」
「ここでやる」
「こんな素材がある場所、他にねぇ」
「……正式に?」
カレンが確認する。
「ああ」
「鍛冶師として、ここに居る」
その言葉で、決まった。




