第39話 守り
「防衛は、拠点の“土台”よ」
カレンが地面に線を引いた。
「ここから外が“外”、ここから内が“内”」
簡易的な地図。
だが、要点は抑えている。
「侵入経路は絞る」
「視界を通す」
「迎撃しやすい形にする」
「合理的ですね」
リリアが頷く。
「当たり前でしょ」
カレンは淡々と言う。
「強いだけじゃ守れないのよ」
その言葉は、どこか実感がこもっていた。
「ミア、杭を運んで」
「はい!」
「リリアは配置の確認」
「了解です」
的確な指示。
無駄のない動き。
(さすがだな)
レインは少し離れて見ていた。
(これなら、普通でも十分強い)
――だが。
(少しだけ)
軽く、視線を巡らせる。
地形。
風の流れ。
魔力の偏り。
(整えておくか)
何気なく、一歩踏み出す。
それだけ。
「……?」
カレンがわずかに眉をひそめた。
「どうかしましたか?」
リリアが気づく。
「いや……」
カレンは周囲を見る。
さっき立てたはずの柵。
「……なんで、こんなに安定してるの?」
「え?」
ミアが振り向く。
ぐらついていた杭が、ぴたりと止まっている。
地面に“固定された”ように。
「……さっき、こんなに深くなかったわよね?」
「そうですね」
リリアも確認する。
「設置深度が変わっています」
「……誰かやった?」
「いえ」
三人の視線が、自然と一方向へ向く。
「……何かしました?」
カレンが聞く。
「いえ、特には」
レインはいつも通り答える。
「……」
「まあいいわ」
カレンは一度、思考を切る。
「配置は問題ない」
「このまま進める」
作業再開。
罠の設置。
「ここに誘導して、ここで止める」
カレンが地面を指す。
「そこに、拘束系」
リリアが補足する。
「はい!」
ミアが元気に設置する。
――その直後。
「……え?」
ミアが声を上げる。
罠の魔法陣。
淡く光り、そして――
安定する。
「さっきより、発動早くないですか?」
「……精度も上がってる」
リリアが目を細める。
「……」
カレンは何も言わない。
(また、あいつね)
見張り台。
視界を確保するための高さ。
「これで死角は――」
言いかけて、止まる。
「……なんで、全部見えるのよ」
本来見えないはずの範囲まで、はっきりと見える。
「視界補正……?」
リリアが呟く。
「……そんなの、聞いてないわよ」
「大丈夫です」
レインが言う。
「これで外からは見えにくくて、中からは見やすいです」
「……」
「それ、防衛の理想形じゃない」
カレンが小さく言う。
作業は終盤へ。
柵、罠、見張り。
すべてが揃う。
「……一通り完成ね」
カレンが腕を組む。
本来なら、“十分”な出来。
だが。
「……何これ」
一歩外に出る。
気配が、変わる。
中は静かで、安定している。
外は、少しだけ重い。
「境界ができてる……?」
リリアが驚く。
「侵入しにくく、抜けにくい」
「……そんな設計、してないわよ」
カレンが即答する。
「でも、なってます」
「……」
ゆっくりと振り返る。
レインを見る。
「……何したの?」
「少し、整えただけです」
「だからその“少し”が――」
言いかけて、止まる。
周囲を見る。
完璧だった。
無駄がない。
穴がない。
「……はぁ」
カレンが息を吐く。
「これ、もう」
小さく笑う。
「実質、鉄壁じゃない」
「そうですね」
リリアも頷く。
「これなら、安心して人を受け入れられます」
「やったー!」
ミアが嬉しそうに跳ねる。
レインは、いつも通りだった。
「これで大丈夫そうですね」




