第31話 残された場所
「……ここですか?」
ミアが小さく呟いた。
目の前に広がるのは――村。
だった場所。
崩れかけた家屋。
手入れされていない畑。
乾いた井戸。
人の気配は、ほとんどない。
「依頼書の通りですね」
リリアが静かに言う。
「“魔物被害により放棄された村”」
「典型的なパターンね」
カレンが周囲を見渡す。
剣にはすでに手がかかっている。
「人がいなくなった場所に、魔物が住み着く」
「そして、完全に捨てられる」
淡々とした説明。
珍しい話ではない。
「……なんか、さみしいですね」
ミアがぽつりと漏らす。
さっきまでの明るさが、少しだけ消えている。
「そうですね」
リリアも小さく頷く。
「元々は、人が生活していた場所ですから」
「とりあえず、依頼は魔物の排除だったな」
カレンが確認する。
「全部掃除すれば完了」
「はい」
レインが頷く。
「じゃあ、やりましょうか」
いつも通りの軽い調子。
だが、その視線は少しだけ周囲を見ていた。
「いますね」
ぽつりと呟く。
次の瞬間。
物陰から、魔物が現れた。
数体。
だが、群れとしては小規模。
「来るわよ」
カレンが前に出る。
「いつも通りでいい?」
「はい」
リリアが支援の構えを取る。
ミアも少し遅れて構える。
戦闘は、あっさり終わった。
カレンが前を抑え、
リリアが補助し、
ミアが一体仕留める。
そして――
最後は、レイン。
気づけば、すべて片付いていた。
「……こんなものね」
カレンが剣を収める。
「予想より弱かったわ」
「放置されてた割には、ですね」
リリアも周囲を見回す。
「規模も小さい」
「もう終わりですか?」
ミアがきょろきょろする。
「もっといっぱい出てくるかと思ってました」
「そのはずだったんだけどな」
カレンが眉をひそめる。
「依頼書だと、もっと厄介な群れのはずよ」
「もういないと思いますよ」
レインが軽く言う。
「一応、全部見ましたけど」
「……全部?」
カレンが振り向く。
「いつの間に」
「さっきです」
本当にさっきのように言う。
「……まあいいわ」
カレンはそれ以上追及しない。
どうせいつものことだ。
「これで依頼完了ですね」
リリアがまとめる。
「はい」
レインが頷く。
だが――
その場を動かない。
「……どうかしました?」
リリアが気づく。
「いえ」
レインは少しだけ周囲を見る。
崩れた家。
空いた土地。
使われていない井戸。
「ここ、もったいないですね」
ぽつりと、言った。
「……は?」
カレンが思わず聞き返す。
「もったいない?」
「はい」
レインは普通に答える。
「場所も悪くないですし」
「水もありますし」
「直せば、普通に使えそうです」
「……いやいや」
カレンが呆れたように言う。
「ここ、捨てられた場所よ?」
「魔物も出るし、住むには――」
「もういませんよ」
レインがあっさり言う。
「……」
一瞬、言葉が止まる。
「……確かに、今はそうだけど」
カレンが言い直す。
「また来る可能性もあるでしょ」
「来ないと思います」
即答だった。
「なんで言い切れるのよ」
「さっき、ちょっと調整したので」
「……何を?」
「色々です」
「……」
理解を諦める顔。
「でも」
ミアが小さく手を挙げる。
「ちょっと分かるかもです」
「は?」
カレンが振り向く。
「なんか……ここ」
ミアは周囲を見る。
「落ち着く感じがします」
「さっきまでと違って、怖くないです」
リリアも、静かに目を閉じる。
「……確かに」
「魔力の流れが安定しています」
「不自然なくらいに」
「……」
カレンが黙る。
(またか)
そう思うしかない。
「まあ、今すぐどうこうする話じゃないけど」
カレンがため息をつく。
「依頼は終わったんだし、戻るわよ」
「そうですね」
リリアも頷く。
「報告もしないといけませんし」
「はい!」
ミアが元気に答える。
だが、歩き出す前に――
ちらっと振り返る。
「……いい場所なのに」
小さく呟く。
レインも、同じ方向を見ていた。




