第30話 差
――森の奥。
「こっち、三体来てます!」
ミアの声が弾む。
以前なら焦っていた状況。
だが今は違う。
「任せてください」
リリアが即座に反応する。
支援魔法が展開される。
動きが滑らかに繋がる。
「前は任せなさい」
カレンが一歩踏み出す。
剣が走る。
一体、斬る。
流れるような動き。
無駄がない。
「残り、どうします?」
レインが軽く聞く。
「一体もらいます!」
ミアが手を挙げる。
「いいですよ」
即答。
「いきます!」
火球が放たれる。
安定している。
狙いも正確。
魔物に命中。
「やった!」
「最後、お願いします」
リリアが視線を向ける。
「はい」
レインが軽く手を動かす。
――それだけで、終わる。
最後の一体が、音もなく消える。
「……相変わらずですね」
カレンが呟く。
「まあ、このくらいなら」
レインは普通に答える。
「すごいです!」
ミアがぱっと笑う。
「今の連携、完璧でした!」
「いい流れでしたね」
リリアも頷く。
空気は軽い。
無理がない。
自然に回る。
「次、どうします?」
レインが聞く。
「このまま進みましょう」
カレンが即答する。
「問題ないわ」
笑い声が混じる。
会話が続く。
足取りも軽い。
――その頃。
「……くそっ!」
ガルドの怒声が響く。
剣を振るう。
だが、手応えが悪い。
「遅い!」
仲間の声が飛ぶ。
「そっちカバーしろ!」
「無理だって言ってるだろ!」
返ってくるのは苛立ち。
魔物は一体。
たった一体。
それなのに――
「なんで倒せねぇんだよ!」
ガルドが叫ぶ。
攻撃が空を切る。
タイミングが合わない。
「回復!」
「もうない!」
「はあ!?」
連携は崩壊している。
誰も、誰も見ていない。
自分のことで精一杯。
「くそっ……!」
無理やり押し切る。
時間をかけて、ようやく倒す。
「……はぁ……はぁ……」
息が荒い。
たった一体で、この消耗。
「……ありえねぇだろ」
誰かが呟く。
沈黙。
誰も反論しない。
「……前は」
ぽつりと声が落ちる。
「こんなの、一瞬だった」
「……」
ガルドは何も言わない。
言えない。
「……なあ」
別の声。
「俺たち、弱くなったのか?」
その問いは、重かった。
「……違う」
ガルドが絞り出す。
「俺たちは……」
言葉が続かない。
違うと否定したい。
だが、現実がある。
「……」
誰も助けない。
誰も補わない。
ただ、崩れている。
「……戻るぞ」
ガルドが言う。
「今日はもう無理だ」
誰も反対しない。
重い足取りで引き返す。
成果はない。
得るものもない。
――一方。
「これで依頼完了ですね」
リリアが確認する。
「早かったですね」
レインが言う。
「まだ余裕ありますし、もう一つ行きます?」
「いいですね!」
ミアが元気よく答える。
「もっとやりたいです!」
「……元気ね」
カレンが小さく笑う。
だが、その表情は柔らかい。
「じゃあ、次行きましょうか」
レインが歩き出す。
その背中を、三人が自然に追う。
迷いなく。
違和感なく。
――そして。
夕暮れ。
ギルド前。
片方は、笑いながら帰ってくる。
「お疲れ様です」
「いい感じでしたね」
「次はもっと上行けそうです!」
明るい声。
自然な会話。
もう片方は、無言で戻る。
目を合わせない。
言葉もない。
すれ違う。
一瞬だけ、視線が交わる。
「……」
ガルドの足が止まる。
レインは、気づかない。
そのまま通り過ぎる。
「……」
何も言えない。
何もできない。
ただ、理解する。
「……違いすぎるだろ」
小さく、呟く。




