第29話 歪み
夜。
ギルドの喧騒も、少し落ち着いた時間。
ガルドは一人、席に座っていた。
手元には、あの報告書。
何度も見返した紙。
もう内容は覚えている。
それでも――
目を逸らせなかった。
「……」
指が、紙の端をなぞる。
書かれている実績。
討伐数。
成功率。
すべてが、現実。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
「なんだよ、これ」
ありえない。
でも、ありえている。
「あいつが……」
ぽつりと呟く。
レイン。
あの、気の抜けた顔。
何を考えているのか分からない態度。
「……全部、分かってたのか?」
自然と、そんな言葉が出る。
思い返す。
戦闘。
配置。
指示。
いや――
“指示なんてなかった”。
なのに、なぜかうまくいっていた。
「……」
沈黙。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「……俺たち」
喉が、少しだけ詰まる。
それでも、言葉は出る。
「利用されてたんじゃないか……?」
その一言で、何かが歪んだ。
「……そうだ」
自分で、頷く。
「そう考えれば……全部説明つく」
「俺たちが前に出て」
「俺たちが戦って」
「あいつは後ろで調整して」
「……全部、あいつのために」
拳が、震える。
悔しさか、怒りか、それとも――
分からない。
「……最初から」
目が、ゆっくりと細くなる。
「分かってたんだろ」
「自分が強いってことも」
「俺たちが頼ってるってことも」
「だから、あえて――」
言葉を選ぶように、続ける。
「目立たない位置にいた」
「……ふざけんなよ」
低く吐き捨てる。
本当は違う。
だが、もうそこには辿り着かない。
「じゃあ、俺たちは何だったんだよ」
声が、わずかに揺れる。
「ただの……」
少しだけ間を置く。
「踏み台か?」
その言葉が、静かに落ちる。
「……」
誰もいない。
返事もない。
だが――
その考えだけが、頭の中で増幅していく。
「……っ」
歯を食いしばる。
目を閉じる。
悔しい。
認めたくない。
でも――
認めてしまった。
「……負けてたのか」
ぽつりと、零れる。
戦ってもいない。
比べてもいない。
それでも。
「最初から、全部……」
勝負になっていなかった。
「……はは」
また笑う。
今度は、少しだけ壊れた音だった。
「なんだよ、それ……」
拳を、強く握る。
「……戻ってこさせる」
小さく呟く。
「利用されてたなら……今度は逆だ」
歪んだ結論。
「俺たちが、あいつを使う」
目に、執着が宿る。
「そうすれば……」
言葉が、少しだけ途切れる。
「……取り返せる」
何を、とは言わない。
だが――
もう、正常な思考ではなかった。




