第28話 事実
「……なあ」
重い沈黙の中で、誰かが口を開いた。
集まっているのは、元のパーティの残り。
数は減った。
空気も、軽くはない。
「これ、見ろよ」
一枚の紙がテーブルに置かれる。
ギルドの報告書。
最近話題になっている“あのパーティ”の記録。
「……またそれか」
ガルドが低く言う。
「もういいだろ」
見たくない。
そう言っているのが分かる声。
「よくねぇよ」
即座に返される。
「逃げてどうすんだ」
紙を指で叩く。
「ちゃんと見ろ」
ガルドはしばらく動かない。
だが、やがて――
「……ちっ」
舌打ちして、紙を手に取る。
内容を目で追う。
討伐記録。
素材納品。
評価ランク。
どれも――
異常。
「……なんだこれ」
思わず漏れる。
「単独で上級討伐?」
「複数同時処理?」
「成功率……ほぼ100%?」
ありえない数字。
だが。
「全部、実績として通ってる」
横から声が入る。
「盛られてるわけじゃねぇ」
「……」
ガルドは黙る。
ページをめくる手が、わずかに止まる。
そこに書かれている名前。
見慣れたもの。
「……レイン」
小さく、口に出す。
沈黙。
誰も否定しない。
「他のメンバーも強い」
一人が言う。
「女騎士に、魔法使いに、支援役」
「でも」
少し間を置いて。
「中心は、あいつだ」
断言だった。
「……そんなわけねぇだろ」
ガルドが反射的に言う。
「たった一人で全部やるとか――」
「やってるからこうなってるんだろ」
即座に潰される。
「……」
言葉が続かない。
「思い出してみろよ」
静かな声が響く。
「前の戦い」
「俺たち、何してた?」
「……普通に戦ってた」
ガルドが答える。
「連携して、倒して――」
「本当にそうか?」
遮られる。
「……何が言いたい」
睨む。
「気づいてなかっただけじゃねぇのか?」
その一言で、空気が変わる。
「回復のタイミング、やけに良かっただろ」
「敵の動き、妙に読みやすかった」
「危ない場面、なぜか回避できてた」
一つずつ、並べられる。
記憶が呼び起こされる。
「……」
ガルドの顔が固まる。
「全部、偶然か?」
問われる。
答えは、もう分かっている。
「……あいつが」
誰かが、ぽつりと呟く。
「調整してたんじゃねぇのか?」
「……っ」
ガルドの呼吸が乱れる。
頭の中で、過去が繋がっていく。
違和感。
不自然な“余裕”。
説明できなかった部分。
「……あいつが全部やってたのか……?」
震える声で、言う。
それが――
結論だった。
誰も否定しない。
できない。
「だから、今は崩れてる」
「支えてたやつがいなくなったから」
淡々とした分析。
だが、それが現実。
「……ふざけんなよ」
ガルドが絞り出す。
「なんで言わなかった」
「なんで黙ってた」
怒りの矛先が、ようやく定まる。
「知らねぇよ」
返答は冷たい。
「そもそも、お前らが気づかなかっただけだろ」
「……っ」
言い返せない。
完全に、詰み。
「……どうする」
誰かが聞く。
静かに。
「決まってるだろ」
別の誰かが答える。
「取り戻すしかねぇ」
「……戻ってきてもらう、か」
その言葉に、全員が少しだけ顔を上げる。
ガルドは、しばらく黙っていた。
拳を握る。
歯を食いしばる。
そして。
「……呼び戻す」
低く言った。
「何としてでも」
その目には、焦りと――
わずかな焦燥が混じっていた。




