第23話 商機
「……すごい量ですね」
リリアが、目の前に積まれた素材を見て言った。
魔物討伐の報酬に加え、道中で回収した素材。
どれも質がいい。
「思ったより集まりましたね」
レインが軽く言う。
「軽めの依頼だったんですけど」
「軽めでこれなの……」
カレンが小さく呟く。
基準が、完全におかしい。
「全部売っちゃいます?」
ミアが覗き込む。
「それでいいと思いますよ」
リリアが頷く。
「換金して、装備や消耗品に回した方が効率的です」
「じゃあ、いつも通りで」
レインが答えた、その時だった。
「――少し、お話よろしいですか?」
背後から、落ち着いた声がかかる。
振り返ると、一人の男が立っていた。
整った服装。
穏やかな笑み。
そして、油断のない目。
「あなた方が、最近話題のパーティですね」
視線が、自然とレインに向く。
「どちら様ですか?」
リリアが一歩前に出る。
丁寧だが、警戒を含んだ声音。
「失礼」
男は軽く頭を下げた。
「私はマルク。商人をしております」
「商人……?」
ミアが小さく呟く。
「ええ」
マルクは微笑む。
「主に素材の流通を扱っていましてね」
ちらりと、積まれた素材に視線を落とす。
「……素晴らしい品質です」
その一言に、空気が少し変わる。
「興味本位で聞きますが」
マルクが続ける。
「これらは、どなたが?」
「みんなでやりました」
レインが普通に答える。
「……そうですか」
一瞬の間。
だが、その目は完全に“理解した側”だった。
(やはり、中心は彼か)
「単刀直入に申し上げます」
マルクが一歩近づく。
「その素材、私にお任せいただけませんか?」
「任せる、ですか?」
リリアが聞き返す。
「はい」
マルクは頷く。
「通常の買取よりも、高値で取引できるルートがあります」
「高値?」
ミアがぴくっと反応する。
分かりやすい。
「ただ売るだけでは、もったいない」
マルクは静かに言う。
「加工、流通、需要の調整――」
「それらを最適化すれば」
一拍置いて、
「利益になりますよ」
と、はっきり言い切った。
「……なるほど」
カレンが腕を組む。
「つまり、中抜きってこと?」
「言い方が鋭いですね」
マルクは苦笑する。
「ですが、少し違います」
「価値を“引き出す”と言っていただきたい」
その言葉には、妙な説得力があった。
「具体的には?」
リリアが冷静に聞く。
完全に交渉モードに入っている。
「例えば、この素材」
マルクが一つを手に取る。
「そのまま売れば、一定の価格です」
「ですが、適切な工房に回せば」
「倍以上の価値になることもある」
「……倍?」
ミアが目を丸くする。
「もちろん、すべてがそうとは限りません」
マルクは肩をすくめる。
「ですが、安定して利益を出す方法はあります」
そして、レインを見る。
「あなた方のように“質の高い素材”を安定して供給できるなら、なおさらです」
「どうしますか?」
リリアがレインを見る。
判断を委ねる。
カレンも、黙って様子を見ている。
ミアは――
「お金増えるならいいと思います!」
分かりやすい。
「いいと思いますよ」
レインはあっさり言った。
「特に困ることもなさそうですし」
判断が軽い。
だが――
「……即決ね」
カレンが呆れる。
「一応、条件とか聞いた方がいいんじゃない?」
「大丈夫だと思います」
根拠はない。
だが、不思議と否定できない。
「では、詳細を」
マルクの目が、わずかに鋭くなる。
「継続的なお取引として、お話させていただきます」




