第140話 日常
静かだった。
あれほど揺れていた世界が。
嘘のように。
静まり返っている。
「……」
空は、青い。
雲は、流れる。
風が、吹く。
「……」
すべてが。
“普通”だった。
「……戻ってる……」
ミアが、ぽつりと呟く。
その声は。
どこか、信じられないようで。
それでも。
確かに、安心していた。
「……」
カレンが、大きく伸びをする。
「はぁ……」
「終わったわね」
「……」
その言葉に。
誰も、否定しない。
「……」
アルヴェルトが、空を見上げる。
「空間異常なし」
「時間歪曲なし」
「魔物異常発生なし」
「……」
一つずつ。
確認するように。
そして。
小さく、笑う。
「……完全に正常だ」
「……」
リリアが、静かに頷く。
「はい」
「維持機構は安定」
「歪みの再発兆候もありません」
「……」
つまり。
完全に。
終わった。
「……」
ミアが、嬉しそうに言う。
「世界……助かりましたね」
「……」
カレンが、肩をすくめる。
「ええ」
「誰かさんのおかげでね」
「……」
全員の視線が。
一人へ向く。
「……」
レイン。
「……?」
「どうかしましたか?」
「……」
沈黙。
「……」
カレンが、笑う。
「どうかしましたか、じゃないのよ」
「世界救ったのよ、あんた」
「……」
ミアも、笑う。
「すごいです!」
「本当に……!」
「……」
アルヴェルトが、軽く頭を下げる。
「感謝する」
「この世界は、君に救われた」
「……」
リリアもまた。
静かに、言う。
「あなたは」
「“世界の基準”です」
「……」
重い言葉。
だが。
「……?」
レインは、少しだけ考えて。
そして。
「そうなんですね」
「軽いのよ!!」
カレンのツッコミが響く。
「……」
だが。
それでいい。
「……」
ミアが、くすっと笑う。
「レインさんらしいです」
「……」
世界は、救われた。
だが。
彼は変わらない。
「……」
それが。
何よりも。
“安心できること”だった。
エピローグ
――数日後。
王都。
「英雄レイン!」
「世界の救世主!」
「ぜひ我が家へ!」
「褒賞を――!」
「……」
大騒ぎだった。
貴族。
騎士。
学者。
すべてが。
一人を求める。
「……」
だが。
その本人は。
「……」
宿の一室で。
のんびりと座っていた。
「平和ですね」
「誰のせいだと思ってんのよ」
カレンが、呆れる。
「……」
ミアが、お茶を置く。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「……」
リリアが、静かに言う。
「外は大変なことになっていますが」
「……」
レインは、気にしない。
「そのうち落ち着きますよ」
「適当すぎるのよ」
「……」
外では。
世界が変わったと騒がれている。
歴史が書き換わったと語られている。
神だと。
奇跡だと。
「……」
だが。
ここでは。
いつも通り。
「……」
ミアが、笑う。
「これからどうするんですか?」
「……」
レインは、少し考えて。
「特にないですね」
「でしょうね」
「……」
カレンが、笑う。
「じゃあ」
「いつも通りでいいんじゃない?」
「……」
リリアも、頷く。
「それが最も自然です」
「……」
レインは、軽く頷く。
「じゃあ」
一拍。
「そうします」
「……」
世界は救われた。
だが。
物語は、終わらない。
「……」
ただ。
少しだけ。
平和になっただけだ。
そして。
その平和の中心には。
変わらず。
一人の男がいる。
何も特別なことをしない。
ただ。
“そこにいるだけ”で。
世界を安定させる存在。
「……」
レイン。
「……平和ですね」
その一言とともに。
物語は、静かに幕を閉じた。




