第136話 定義体
「……」
音が、ない。
風も。
揺れも。
存在しない。
「……」
完全な。
“停止”。
「……」
アルヴェルトが、かすれた声で言う。
「……干渉……している……」
「……」
リリアが、静かに頷く。
「はい」
「ですが」
一拍。
「今までとは段階が違う」
「……?」
カレンが、眉をひそめる。
「何がよ」
「……」
リリアは、“魔王”を見る。
固定された存在。
だが。
まだ、歪みの核。
「……」
そして。
レインを見る。
「……」
静かに、言う。
「彼は今」
「“構造そのもの”に触れています」
「……」
沈黙。
「……は?」
カレンが固まる。
「それもう何段階もヤバいわよ」
「……」
リリアは続ける。
「これまでは」
「現象への干渉でした」
「空間」
「時間」
「存在」
「……」
「ですが今は違う」
一拍。
「それらを定めている“前提”に触れている」
「……」
ミアが、小さく呟く。
「前提……?」
「はい」
リリアは頷く。
「この世界は」
「自然に存在しているわけではありません」
「……」
「“ルール”によって構成されています」
「……」
空気が、変わる。
「……」
アルヴェルトが、震える声で言う。
「……法則……ではなく……?」
「はい」
リリアは、はっきりと否定する。
「“法則”ではありません」
「……」
一拍。
「“定義”です」
「……」
沈黙。
「……」
カレンが、低く言う。
「違い、あるの?」
「あります」
即答。
「法則は“従うもの”です」
「ですが」
一拍。
「定義は“決められるもの”です」
「……」
理解が。
追いつく。
「……」
ミアが、目を見開く。
「じゃあ……」
「世界って……」
「はい」
リリアは、静かに言う。
「“ルールの集合体”です」
「……」
空気が、震える。
「……」
つまり。
空間も。
時間も。
存在も。
すべて。
「……」
“決められている”。
「……」
アルヴェルトが、かすれた声で言う。
「……ならば」
「その定義を書き換えれば……」
「はい」
リリアが頷く。
「世界は変わります」
「……」
カレンが、乾いた笑いを漏らす。
「……とんでもない話ね」
「世界を“編集”できるってことでしょ」
「その通りです」
「……」
ミアが、小さく言う。
「レインさん……」
「……」
レインは。
“魔王”に触れたまま。
何も言わない。
ただ。
感じている。
「……」
構造。
定義。
ルール。
すべてが。
“分かる”。
「……」
そして。
ぽつりと。
「なるほど」
「……?」
カレンが反応する。
「何がよ」
「……」
レインは、普通に言う。
「これ」
一拍。
「並べ替えればいいだけですね」
「軽いのよ!!」
だが。
それが。
真理だった。
「……」
“魔王”が、揺れる。
今度は。
恐れるように。
「……」
『――干渉深度上昇』
『――危険』
『――排除対象』
「……」
ミアが、震える。
「嫌がってます……!」
「……」
リリアが、静かに言う。
「当然です」
「……」
一拍。
「“世界そのもの”を書き換えられるのですから」
「……」
レインは、軽く頷く。
「じゃあ」
「順番直しますね」
「だから軽いのよ!!」
だが。
その手は。
すでに。
“世界の定義”へと届いていた。




