第130話 基準
「もうちょっとですね」
レインの、いつも通りの一言。
だが。
その“ちょっと”が。
世界にとっては、決定的だった。
「……」
“魔王”が、揺れる。
今までとは違う。
激しい不安定ではない。
むしろ。
「……止まってる……?」
ミアが、呟く。
「……」
崩れていたはずの存在。
定まらなかった輪郭。
それが。
「……固定され始めている」
リリアが、静かに言う。
「……」
カレンが、目を細める。
「さっきまでグチャグチャだったのにね」
「……」
アルヴェルトが、震える声で言う。
「……維持機構が……」
「正常化している……?」
「……」
リリアは、ゆっくりと首を振る。
「いいえ」
「違います」
「……?」
「“正常化している”のではありません」
一拍。
「“上書きされている”のです」
「……」
沈黙。
「……」
レインの周囲。
そこだけが。
“正しい状態”。
「……」
そして。
その正しさが。
広がっている。
「……」
歪みが、押し戻される。
崩壊が、止まる。
ズレが、揃う。
「……」
ミアが、息を呑む。
「世界が……」
「戻ってる……」
「……」
カレンが、ぽつりと。
「戻ってるっていうか」
「……」
「“合わせてる”わね」
「……」
その通りだった。
世界が。
レインに。
「……」
合わせている。
「……」
アルヴェルトが、呟く。
「……彼が」
「基準……」
「……」
リリアが、静かに頷く。
「はい」
「この空間において」
「彼が“正しさ”です」
「……」
もはや。
比喩ではない。
事実。
「……」
“魔王”が、揺れる。
だが。
今度は。
逃げるように。
崩れるのではなく。
「……」
“収まっていく”。
「……!」
ミアが、目を見開く。
「整ってる……!」
「……」
ぐにゃりと歪んでいた存在が。
少しずつ。
形を持つ。
定まる。
「……」
リリアが、低く言う。
「“定義”が進行しています」
「……」
アルヴェルトが、続ける。
「未定義から……」
「確定存在へ……」
「……」
カレンが、苦笑する。
「敵を強くしてるようにも見えるわね」
「その通りです」
リリアは、即答する。
「……」
「だが」
一拍。
「それが唯一の“修正手段”です」
「……」
曖昧なままでは。
直せない。
壊せない。
終わらない。
「……」
だから。
“定める”。
「……」
レインは、“魔王”に触れたまま。
ぽつりと。
「これで大体揃いましたね」
「軽いのよ!!」
「……」
その瞬間。
空間が。
止まる。
完全に。
「……!」
ミアが、息を呑む。
「時間が……!」
「……」
ズレていた流れ。
バラバラだった因果。
すべてが。
「……揃ってる……」
「……」
アルヴェルトが、呟く。
「……崩壊が……止まった……」
「……」
リリアが、静かに言う。
「“固定”されました」
「……」
世界が。
初めて。
“安定”する。
「……」
“魔王”もまた。
揺れない。
崩れない。
逃げない。
そこにある。
一つの存在として。
「……」
カレンが、低く言う。
「……ここからが本番ね」
「……」
リリアが頷く。
「はい」
「“修正”の最終段階です」
「……」
レインは、いつも通り。
「じゃあ」
「仕上げますね」
「軽いのよ!!」
だが。
それは。
“世界そのものを完成させる一手”だった。




