第129話 補正
「じゃあ」
「ここ直しますね」
レインが、そう言った瞬間。
「――――」
“魔王”が、大きく揺れる。
拒絶。
排除。
修正。
あらゆる“反応”が、同時に起きる。
「……!」
ミアの展開した安定領域が、きしむ。
「押し返されてます……!」
「……」
カレンが、構える。
「来るわよ!」
だが。
その時。
「……?」
違和感。
「……あれ?」
ミアが、目を瞬く。
崩れていたはずの空間が。
「……」
“揺れていない”。
「……?」
上下が。
戻っている。
距離が。
成立している。
時間が。
揃っている。
「……え?」
「……」
アルヴェルトが、息を呑む。
「……安定している……?」
「……」
さっきまで。
あれほど崩壊していたはずの領域。
それが。
「……」
“普通”になっている。
「……何したのよ」
カレンが、低く聞く。
「……?」
レインは、首を傾げる。
「何がですか?」
「……」
沈黙。
「……」
リリアが、ゆっくりと言う。
「……無意識……」
「……?」
「……」
リリアは、周囲を見る。
空間。
時間。
法則。
すべてが。
“整っている”。
「……」
アルヴェルトが、震える声で言う。
「……まさか……」
「……」
リリアが、静かに断言する。
「彼が」
「基準に合わせているのではなく」
「……」
一拍。
「周囲が、彼に合わせている」
「……」
沈黙。
「……は?」
カレンが固まる。
「どういうことよそれ」
「……」
リリアは、はっきりと言う。
「彼の存在そのものが」
「“正しい状態”として機能しています」
「……」
ミアが、小さく呟く。
「じゃあ……」
「レインさんの近くは……」
「……」
「勝手に直る……?」
「はい」
「……」
空気が、止まる。
「……」
カレンが、頭を押さえる。
「意味分かんないのよ」
「存在するだけで修正とか」
「……」
その時。
「――――」
“魔王”が、大きく揺れる。
今までとは違う。
「……!」
アルヴェルトが叫ぶ。
「安定が……侵食している……!」
「……」
レインの周囲。
そこだけ。
“正常”。
その領域が。
広がる。
「……」
歪みが、押し戻される。
崩壊が、整えられる。
「……」
ミアが、目を輝かせる。
「すごい……!」
「何もしてないのに……!」
「……」
レインは、本当に何もしていない。
ただ。
触れているだけ。
「……」
それなのに。
世界が。
勝手に。
「……」
“正しくなっていく”。
「……」
リリアが、静かに呟く。
「……補正……」
「……?」
「彼は」
「“世界のズレを補正する存在”です」
「……」
アルヴェルトが、かすれた声で言う。
「……それは……」
「……」
「もはや……」
言葉が、続かない。
「……」
カレンが、苦笑する。
「……神様?」
「分かりません」
リリアは、静かに答える。
「ですが」
一拍。
「それに近い」
「……」
“魔王”が、揺れる。
崩れる。
維持できない。
「……」
『――矛盾』
『――修正不能』
『――基準侵入』
「……」
ミアが、ぽつりと。
「焦ってます……」
「……」
レインは、普通に言う。
「もうちょっとですね」
「軽いのよ!!」
だが。
その言葉通り。
終わりは、近かった。




