第118話 適応
「……ぐちゃぐちゃですね」
「見れば分かるわよ!!」
カレンのツッコミが響く。
だが。
その声すら――
遅れて、重なって聞こえる。
「……」
空間は、崩れている。
時間も。
距離も。
意味を持たない。
「……」
そんな中で。
ミアは、ぎゅっと手を握る。
「……」
怖い。
立っているのかも分からない。
自分の声すら、信じられない。
それでも。
「……」
前を見る。
レインの背中。
いつも通り。
変わらない。
「……」
その姿に。
少しだけ、安心する。
「……」
ミアは、小さく息を吸う。
「……私も」
「やります」
「……?」
カレンが振り向く。
「何をよ」
「……」
ミアは、手を前に出す。
震えている。
だが。
止めない。
「……」
魔力を、練る。
だが。
「……っ」
乱れる。
形にならない。
「……」
時間がズレる。
詠唱の順序が崩れる。
魔力の流れが、途切れる。
「……くっ」
カレンが、歯を食いしばる。
「無理よ」
「ここじゃ魔法も安定しない」
「……」
アルヴェルトも、低く言う。
「理論が成立しない」
「発動条件が崩れている」
「……」
だが。
ミアは、やめない。
「……」
もう一度。
集中する。
「……」
周囲は、バラバラ。
なら。
「……一つだけ」
「……?」
リリアが、目を細める。
「……基準」
ミアが、ぽつりと呟く。
「……」
視線が。
一人に向く。
レイン。
「……」
変わらない存在。
ズレない動き。
乱れない時間。
「……」
ミアは、目を閉じる。
感じる。
“そこ”を。
「……」
魔力を、合わせる。
世界ではなく。
レインに。
「……」
その瞬間。
ふっと。
安定する。
「……!」
「……いけます」
「……は?」
カレンが驚く。
「何したのよ」
「……」
ミアは、ゆっくりと言う。
「レインさんに合わせました」
「意味分かんないのよ」
「……」
だが。
魔法陣が、浮かぶ。
崩れない。
ズレない。
安定している。
「……」
アルヴェルトが、息を呑む。
「……成立している……?」
「……」
ミアは、詠唱する。
今度は。
ズレない。
「――固定」
小さな光。
広がる。
「……」
その範囲だけ。
空間が、安定する。
距離が、戻る。
時間が、揃う。
「……!」
カレンが目を見開く。
「今の……」
「……一部ですが」
リリアが確認する。
「確実に“安定領域”が形成されています」
「……」
ミアが、少しだけ笑う。
「できました……」
「……」
カレンが、ぽつりと。
「やるじゃない」
「……!」
ミアが、嬉しそうに顔を上げる。
「はい!」
「……」
アルヴェルトが、呟く。
「……まさか」
「人間が、この領域に適応するとは……」
「……」
リリアが、静かに言う。
「完全ではありません」
「ですが」
「意味は大きい」
「……」
レインが、少しだけ振り返る。
「助かります」
「……!」
ミアの顔が、明るくなる。
「はい!」
「……」
その小さな光。
だが。
確かに。
この崩壊した世界の中で。
“意味を持つ力”だった。




