第117話 不整合
「……」
立っている。
はずだった。
「……あれ?」
ミアが、呟く。
足元。
地面が――
ない。
「……」
だが。
落ちない。
浮いている。
いや。
“立っている”。
どちらが正しいのか。
分からない。
「……」
カレンが、一歩踏み出す。
踏んだ。
感覚はある。
だが。
そこに地面はない。
「……気持ち悪いわね」
「……」
視界が、揺れる。
いや。
揺れているのは。
“位置”そのもの。
「……」
遠くに見えていた“魔王”。
次の瞬間。
近い。
「……っ!?」
ミアが後ずさる。
だが。
距離は変わらない。
「……?」
後ろに下がったはずなのに。
位置が、固定されていない。
「……」
アルヴェルトが、低く言う。
「……距離の定義が消えている」
「……」
リリアが、続ける。
「“近い”“遠い”が成立していません」
「……」
カレンが、舌打ちする。
「戦いようがないわねこれ」
「……」
その時。
「……」
レインが、手を動かす。
ゆっくりと。
だが。
その動きは――
途中で止まる。
「……?」
いや。
止まっていない。
“遅れている”。
次の瞬間。
一気に動く。
「……なにそれ」
カレンが、引いた声を出す。
「……」
ミアが、震える。
「時間……ズレてます……」
「……」
アルヴェルトが、頷く。
「流れが一定ではない」
「場所ごとに違う」
「……」
レインの動き。
一部だけ速い。
一部だけ遅い。
同じ動作なのに。
時間が統一されていない。
「……」
リリアが、静かに言う。
「過去と未来が」
「混在しています」
「……は?」
カレンが固まる。
「今それ言う?」
「事実です」
「……」
ミアが、小さく言う。
「怖いです……」
「……」
その時。
音がする。
「……?」
遅れて。
響く。
さっきの声が。
今、聞こえる。
「……」
逆に。
これから出るはずの声が。
先に聞こえる。
「……!」
ミアが口を押さえる。
「……声が……」
「先に聞こえた……」
「……」
アルヴェルトが、震える。
「……因果すら崩れている」
「……」
カレンが、頭を押さえる。
「無理無理無理」
「理解するの無理」
「……」
空間が、歪む。
色が、崩れる。
形が、ほどける。
「……」
“魔王”が、揺れる。
存在している。
だが。
確定しない。
「……」
レインが、それを見る。
じっと。
「……」
そして。
一歩。
踏み出す。
「やめなさい!!」
カレンが叫ぶ。
「何が起きるか分かんないのよ!?」
「大丈夫ですよ」
「だからその根拠!!」
「……」
レインは、止まらない。
歪みの中心へ。
進む。
だが。
その動きだけが。
「……」
“正常”。
時間にズレがない。
距離に迷いがない。
上下も。
狂わない。
「……」
アルヴェルトが、呟く。
「……なぜだ」
「……」
リリアが、静かに答える。
「彼が」
「基準だからです」
「……」
意味が分からない。
だが。
それしか、説明がない。
「……」
レインは、“魔王”の前に立つ。
歪みの中心。
すべての崩壊の核。
「……」
そして。
一言。
「ぐちゃぐちゃですね」
「見れば分かるわよ!!」
だが。
その言葉には。
恐れがなかった。




