第116話 深部
「じゃあ、行きますね」
「……本当に行くのね」
カレンが呟く。
「中心」
“魔王”。
“世界のバグ”。
その場所へ。
「はい」
レインは、いつも通り頷く。
「……」
ミアが、不安そうに手を握る。
「気をつけてください……」
「大丈夫ですよ」
「その根拠が怖いんです……」
「……」
リリアが、静かに言う。
「座標は特定済みです」
「歪みの収束点」
「そこが“中心”」
「はい」
レインは、前を見る。
何もない空間。
だが。
「……ありますね」
「……」
空気が、変わる。
重く。
深く。
沈むような感覚。
「……」
アルヴェルトが、低く言う。
「今までとは……密度が違う」
「……」
目の前の空間。
歪みが。
濃い。
ねじれている。
折り重なっている。
「……」
まるで。
“穴”。
世界に開いた。
異質な裂け目。
「……」
レインが、一歩進む。
「……」
その瞬間。
視界が――
反転する。
「――っ」
ミアが息を呑む。
「何……これ……」
「……」
そこは。
もはや。
“空間”ではなかった。
上下がない。
地面も、空もない。
「……」
浮いている。
だが。
落ちない。
「……」
色が、歪む。
黒。
白。
混ざる。
ほどける。
「……」
遠く。
何かがある。
だが。
距離の概念がない。
近いのか。
遠いのか。
分からない。
「……ここが」
カレンが、低く言う。
「中心……?」
「……」
リリアが、静かに頷く。
「間違いありません」
「……」
アルヴェルトが、震える声で言う。
「……これは」
「空間ではない」
「……」
「“法則の集合”だ」
「……?」
理解できない。
だが。
直感で分かる。
ここは。
世界の“裏側”。
「……」
ミアが、小さく言う。
「怖いです……」
「……」
カレンも、珍しく無言。
冗談を言う余裕がない。
「……」
その時。
レインが、前を見る。
「……」
何か。
いる。
「……あれ」
指差す。
全員が、見る。
「……」
そこにあったのは。
形を持たない何か。
揺れている。
崩れている。
繰り返している。
「……」
輪郭が、定まらない。
存在しているのに。
存在していない。
「……」
アルヴェルトが、かすれた声で言う。
「……あれが」
「……中心……」
「……」
リリアが、静かに告げる。
「“魔王”です」
「……」
沈黙。
それは。
敵の姿ではない。
怪物でもない。
ただの――
「……バグ……」
ミアが、呟く。
「……」
その瞬間。
ぐにゃり、と。
空間が歪む。
「……!」
カレンが構える。
だが。
何も起きない。
いや。
起きている。
「……」
レインの体が。
一瞬。
ズレる。
「……?」
すぐに戻る。
だが。
明らかに。
影響を受けた。
「……」
アルヴェルトが、息を呑む。
「……接触している」
「……」
“魔王”が。
こちらを。
認識した。
「……」
空間が、軋む。
法則が、揺れる。
「……」
世界そのものが。
拒絶している。
「……」
レインは。
その中心を見て。
一言。
「……歪んでますね」
「当たり前でしょ!!」
だが。
その声には。
わずかな――
“確信”があった。




