第115話 接触
「――その者を呼べ」
王の一声。
そして。
「失礼します」
扉が開く。
現れたのは――
「……この男が?」
ざわめき。
王城の空気が、わずかに揺れる。
「ただの……青年ではないか」
「……」
レインは、特に気にする様子もなく。
「どうも」
軽く頭を下げる。
「軽いのよ」
小声でカレンが呟く。
「……」
王が、静かに問う。
「そなたが」
「“歪み”に干渉できる者か」
「はい」
即答。
「……」
再び、ざわめき。
「……」
王は続ける。
「現在、我が国は」
「いかなる手段でも対処できぬ問題に直面している」
「……」
「剣も魔法も通じぬ」
「軍も意味を持たぬ」
「……」
「それでもなお」
「対処可能だと、言えるか?」
「はい」
また即答。
「……」
場の空気が、止まる。
「……理由を聞こう」
王の声は、重い。
「……」
レインは、少しだけ考える。
そして。
「触れればいいんじゃないですか?」
「……」
沈黙。
完全な。
「……は?」
貴族の一人が、素で声を漏らす。
「今……何と?」
「触れれば」
レインは、普通に繰り返す。
「直せると思います」
「……」
静寂。
誰も、理解できない。
「……」
騎士団長が、低く言う。
「……触れる、だと?」
「はい」
「相手は“現象”だぞ?」
「そうですね」
「……」
会話が、成立していない。
「……」
貴族が声を荒げる。
「馬鹿にしているのか!?」
「国家の危機だぞ!」
「……?」
レインは、首を傾げる。
「いや」
「だから触れば」
「直ると思いますけど」
「説明になっておらん!!」
「……」
カレンが、頭を押さえる。
「ごめんなさいね」
「こいつ、ずっとこんな感じなのよ」
「……」
ミアが、小さくフォローする。
「でも……」
「本当に直してるんです」
「……」
アルヴェルトが、静かに言う。
「事実です」
「彼は既に」
「歪みの一部を修正しています」
「……」
ざわめき。
今度は、質が違う。
疑いではなく。
困惑。
「……」
王が、じっとレインを見る。
長い沈黙。
そして。
「……そなたには」
「それが見えるのか」
「はい」
「……」
「触れるのか」
「はい」
「……」
「直せるのか」
「はい」
「……」
三度の即答。
揺るぎない。
根拠不明の確信。
「……」
王が、静かに息を吐く。
「……理解はできぬ」
「だが」
「結果は出ているのだな」
「はい」
「……」
再び、沈黙。
そして。
「……任せる」
「……」
決断。
「我が国の命運」
「すべてを」
「そなたに託す」
「……」
重い言葉。
国家そのもの。
そのすべて。
「……」
レインは。
特に気負うこともなく。
「分かりました」
軽く頷く。
「じゃあ」
「触ってきますね」
「軽いのよ!!」
だが。
その一言が。
唯一の。
“解決策”だった。




