第112話 バグ
「……“魔王”と呼んでいるが」
アルヴェルトが、静かに言う。
「正確には」
一拍。
「それは名称に過ぎない」
「……?」
カレンが眉をひそめる。
「どういうことよ」
「……」
アルヴェルトは、資料を閉じる。
そして。
ゆっくりと。
言葉を選ぶ。
「これは」
「“存在”ではない」
「……」
沈黙。
「いやさっきも聞いたわよそれ」
カレンが突っ込む。
「生物じゃないって話でしょ?」
「違う」
即否定。
「……もっと根本的な話だ」
「……」
ミアが、小さく聞く。
「根本……?」
「そうだ」
アルヴェルトの声が、低くなる。
「これは」
「生まれたわけでも」
「存在しているわけでもない」
「……?」
理解が、追いつかない。
「……」
リリアが、静かに呟く。
「……“異常そのもの”」
「……!」
アルヴェルトが頷く。
「その通りだ」
「……」
空気が、変わる。
「……じゃあ何よそれ」
カレンが言う。
「敵ですらないってこと?」
「敵ではある」
「だが」
一拍。
「“現象に意思が宿ったもの”だ」
「……」
ミアが、固まる。
「現象に……意思……?」
「……」
アルヴェルトは、はっきりと言う。
「例えるなら」
「“世界のバグ”だ」
「……」
沈黙。
完全な。
「……は?」
カレンが、素で聞き返す。
「バグ?」
「そうだ」
「本来あるべき挙動から外れた」
「“エラー”」
「……」
リリアが、小さく言う。
「だから……」
「繰り返す」
「ズレる」
「崩れる」
「はい」
アルヴェルトが頷く。
「すべて説明がつく」
「……」
ミアが、ぽつりと。
「じゃあ……魔王って」
「壊れてるってことですか?」
「正確には」
アルヴェルトは言い直す。
「“壊れた状態そのものが存在している”」
「……」
理解不能。
だが。
妙に納得してしまう。
「……最悪ね」
カレンが呟く。
「殴れば倒せる相手じゃないじゃない」
「その通りだ」
「……」
アルヴェルトが続ける。
「攻撃は意味を持たない可能性が高い」
「なぜなら」
「相手は“物質ではない”」
「……」
ミアが、不安そうに言う。
「じゃあ……どうやって……」
「……」
全員の視線が。
自然と。
一人に集まる。
「……?」
レイン。
「何ですか?」
「いやあんたよ」
カレンが即答。
「今の話聞いてどう思う?」
「……」
レインは、少しだけ考える。
そして。
「直せばいいですね」
「それしか言わないの!?」
「……」
レインは、普通に続ける。
「バグなら」
「修正すればいいと思います」
「……」
沈黙。
あまりにも。
シンプル。
だが。
「……」
リリアが、静かに言う。
「……正解です」
「は?」
カレンが振り向く。
「本気?」
「はい」
リリアは頷く。
「相手が“現象”である以上」
「“修正”が唯一の対処です」
「……」
アルヴェルトも、ゆっくりと言う。
「……理論上は」
「それしかない」
「……」
カレンが、頭を抱える。
「つまり」
「世界のバグ修正役ってわけ?」
「そうなりますね」
「……」
ミアが、少しだけ笑う。
「ゲームみたいです!」
「規模がゲームじゃないのよ」
「……」
レインは、特に気にせず。
「じゃあ」
「バグ、見に行きますか」
「軽いのよ!!」
だが。
その言葉は。
確実に。
核心を突いていた。




