第110話 拡散
「――報告です!」
慌ただしい足音。
部屋の扉が、勢いよく開く。
「……どうしたの?」
カレンが振り向く。
飛び込んできた兵士は、息を切らしていた。
「別地点で……!」
「同様の異常が発生しています!」
「……は?」
空気が、止まる。
「……どこ」
リリアが、静かに聞く。
「北方森林地帯」
「加えて、西の平原でも」
「……」
一瞬の沈黙。
「……同時?」
カレンの声が低くなる。
「はい!」
「ほぼ同時刻です!」
「……」
ミアが、不安そうに言う。
「直したところじゃ……ないんですよね?」
「はい」
兵士は首を振る。
「完全に別地点です!」
「……」
アルヴェルトが、顔をしかめる。
「……広がっている」
「……」
リリアが、小さく頷く。
「ええ」
「一点ではありません」
「複数箇所で同時発生」
「……」
カレンが舌打ちする。
「最悪ね」
「潰しても潰しても湧くタイプじゃない」
「……」
ミアが、震える声で言う。
「もしかして……」
「増えてるんですか?」
「……可能性は高い」
アルヴェルトが答える。
「むしろ」
「“増殖している”と考えるべきだ」
「……」
空気が、一気に重くなる。
「……」
一箇所じゃない。
終わりが、見えない。
「……」
その時。
「じゃあ」
いつもの声。
「全部回ればいいですね」
「無理よ!!」
カレンが即ツッコミ。
「世界規模って言ってるのよ!?」
「はい」
レインは普通に頷く。
「なので」
「広がる前に整えればいいです」
「だからそれをどうやって!!」
「……」
リリアが、静かに言う。
「……理論上は」
「可能です」
「は?」
カレンが振り向く。
「本気?」
「はい」
リリアは頷く。
「レインが“歪みそのもの”に干渉できる以上」
「個別対処ではなく」
「“原因の統一”を狙えます」
「……」
アルヴェルトが、目を見開く。
「……全体構造に干渉するということか?」
「はい」
「……」
沈黙。
それは。
「……世界そのものに触るって話よね?」
カレンが呟く。
「……」
誰も、否定しない。
「……」
ミアが、小さく言う。
「レインさんなら……」
「できそうです」
「それが怖いのよ」
「……」
レインは、少しだけ考える。
そして。
「増えてるなら」
「元を見つければいいですね」
「……」
シンプルすぎる答え。
だが。
正しい。
「……」
アルヴェルトが、ゆっくりと言う。
「……中心点」
「すべての歪みの源」
「……」
リリアが、静かに続ける。
「そこを修正すれば」
「全体が安定する可能性が高い」
「……」
カレンが、深く息を吐く。
「つまり」
「ラスボス探しね」
「そうなりますね」
「……」
ミアが、少しだけ笑う。
「分かりやすいです!」
「規模が分かりやすくないのよ」
「……」
外。
遠く。
別の地点。
空が、歪む。
地面が、揺らぐ。
同じように。
何度も。
繰り返される。
「……」
世界全体で。
異常が、広がっていく。
「……」
誰も、もう理解している。
これは。
局所的な問題ではない。
「……」
レインが、一歩前に出る。
「じゃあ」
「中心、探しに行きますか」
「軽いのよ!!」
だが。
その一言で。
進む方向は、決まった。




