第108話 調整
「……ズレてるだけなので」
レインの一言。
「合わせればいいですよ」
「だからその意味が分かんないのよ!!」
カレンのツッコミが響く。
「重力も時間もバラバラなのよ!?」
「はい」
レインは、普通に頷く。
「だから、揃えます」
「どうやってよ!!」
「……」
レインは、少しだけ周囲を見る。
歪んだ空間。
近いのに遠い木。
軽くなった体。
遅れたり、速くなったりする動き。
「……」
そして。
手を伸ばす。
「……」
何もない空間。
だが。
そこには確かに。
“ズレ”がある。
「……」
軽く。
掴むように。
「……?」
ミアが、息を呑む。
「何か……掴んでます?」
「はい」
「見えないですけど!?」
「ありますよ」
「もうそれ怖いんですけど!?」
「……」
レインは、そのまま。
ゆっくりと――
「――」
引く。
「……」
空間が、揺れる。
ぐにゃり、と。
「……っ!?」
カレンが目を見開く。
「今、歪み動いた!?」
「はい」
「はいじゃないのよ!!」
「……」
レインは、さらに。
少しだけ位置を変える。
押す。
引く。
整える。
まるで。
歪んだ布を、伸ばすように。
「……」
その瞬間。
ふっと。
違和感が消える。
「……あれ?」
ミアが、目を瞬かせる。
「体が……普通です」
「……」
カレンも、足を踏み込む。
重い。
しっかりと。
地面を踏む感覚。
「……戻ってる?」
「一部ですが」
リリアが確認する。
「重力が安定しています」
「……」
アルヴェルトが、震える。
「……ありえない」
「……」
レインは、軽く手を払う。
「とりあえず、こんな感じで」
「とりあえずでやることじゃないのよ!!」
「……」
だが。
変化は、明確だった。
さっきまでの異常。
それが。
“普通”に戻っている。
一部だけだが。
確実に。
「……」
ミアが、小さく言う。
「直ってます……」
「ええ」
リリアも頷く。
「完全ではありませんが」
「“回復”しています」
「……」
カレンが、深くため息をつく。
「……ほんと、何なのよあんた」
「一般人です」
「その一般人おかしいのよ」
「……」
アルヴェルトが、ゆっくりと言う。
「……君は」
「“歪み”を」
「操作しているのか?」
「操作というか」
レインは少し考える。
そして。
「整えてるだけです」
「……」
言葉が、出ない。
「……」
その時。
わずかに。
再び、空間が揺れる。
「……!」
リリアが反応する。
「まだ……不安定です」
「はい」
レインも頷く。
「全部は直ってないので」
「……」
つまり。
この規模の歪みが。
まだ、どこかにある。
「……」
カレンが、低く言う。
「根っこ、叩かないとダメってわけね」
「そうなりますね」
「……」
ミアが、少しだけ明るく言う。
「でも、直せるって分かりました!」
「……」
その一言で。
空気が、少しだけ軽くなる。
絶望ではない。
“対処可能”。
それが分かったから。
「……」
アルヴェルトが、小さく呟く。
「……まさか」
「世界の歪みが」
「修正可能だとは……」
「……」
レインは、特に気にせず。
「次、行きますか」
「軽いのよ!!」
だが。
その背中は。
確実に。
“世界を直す側”に立っていた。




