第107話 内部
「……入りますね」
「待ちなさい!!」
カレンの制止。
だが。
止まらない。
「……」
レインが、そのまま一歩。
歪みの中へ。
「――」
空間が、揺れる。
「レイン!!」
ミアの声。
その瞬間。
「……」
音が、消える。
色が、変わる。
世界が――
ズレる。
「……」
一歩。
踏み込む。
「……?」
違和感。
いや。
異常。
「……軽い?」
足元。
地面がある。
だが。
感覚が違う。
踏み込んでも。
重さが、返ってこない。
「……」
試しに、少し跳ぶ。
ふわり。
「……」
浮く。
ゆっくりと。
落ちる。
「……重力、弱いですね」
「軽い感想なのよ!!」
後ろから声。
カレンたちも、入ってきていた。
「……っ」
ミアが、ふらつく。
「体が……軽すぎます」
「……制御しにくいわね」
カレンがバランスを取る。
「……」
リリアは、すぐに周囲を見る。
「……重力が一定ではありません」
「は?」
「場所によって、強さが変わっています」
「……」
アルヴェルトが、息を呑む。
「……ありえない」
「……」
空間。
歪んでいる。
場所ごとに。
法則が、違う。
「……」
レインが、手を動かす。
その動き。
わずかに、遅れる。
「……?」
違和感。
「……今の」
ミアが目を見開く。
「手……ちょっと遅れて動きませんでした?」
「……」
レインも、確認するように動かす。
今度は。
正常。
「……」
次の瞬間。
ズレる。
「……」
カレンが、低く言う。
「時間もか」
「はい」
リリアが頷く。
「流れが一定ではありません」
「速い場所」
「遅い場所」
「混在しています」
「……」
アルヴェルトが、震える声で言う。
「時間と重力が……同時に乱れている……?」
「……」
誰も、軽く受け止められない。
ここは。
もはや。
“世界ではない”。
「……」
ミアが、小さく言う。
「なんだか……怖いです」
「……」
カレンも、真剣な顔になる。
「これ、長くいたら危ないわね」
「同意します」
リリアも頷く。
「存在そのものが影響を受ける可能性があります」
「……」
その時。
「大丈夫ですよ」
「どこがよ!!」
即ツッコミ。
「普通に危険って話してるのよ!?」
「でも」
レインは、周囲を見る。
ゆっくりと。
「……触れますし」
「基準も分かります」
「意味分かんないのよ!!」
「……」
レインが、一歩進む。
歪んだ空間の中を。
迷いなく。
「……」
その動き。
一切、乱れない。
重力も。
時間も。
影響していないかのように。
「……」
アルヴェルトが、呟く。
「……なぜだ」
「……」
レインは、振り返る。
そして。
一言。
「ズレてるだけなので」
「合わせればいいですよ」
「……」
沈黙。
誰も、理解できない。
だが。
それが。
唯一。
この異常空間で。
“普通に動いている存在”の答えだった。




