第106話 歪点
「……ここです」
リリアが足を止める。
森の奥。
問題の地点。
「……普通じゃないわね」
カレンが周囲を見渡す。
静かすぎる。
風もない。
音もない。
「……」
ミアが、そっと呟く。
「なんだか……息がしにくいです」
「……圧があるな」
アルヴェルトも、眉をひそめる。
「空間そのものが……おかしい」
「……」
一見すれば。
ただの森。
木々。
地面。
何も変わらない。
だが――
「……」
レインが、少しだけ首を傾げる。
「ありますね」
「何がよ」
カレンが聞く。
「……」
レインは、前方を指す。
「そこ」
「……?」
全員が、見る。
何もない。
はずだった。
「……」
だが。
よく見ると。
「……あれ?」
ミアが、小さく声を上げる。
「……空気が」
「……歪んでる?」
そこ。
何もないはずの空間が。
わずかに。
揺れている。
「……」
熱気のような。
だが違う。
光が。
ズレている。
「……」
背景が、微妙にズレる。
木の位置が。
揺らぐ。
「……何あれ」
カレンが、低く呟く。
「……」
アルヴェルトが、息を呑む。
「……これが」
「……歪みか」
「はい」
リリアが頷く。
「おそらく」
「“発生源の一つ”です」
「……」
沈黙。
目の前にある。
“世界の異常”。
「……」
ミアが、震える声で言う。
「近づいても……大丈夫ですか?」
「分からない」
アルヴェルトが即答。
「だからこそ危険だ」
「……」
カレンが剣に手をかける。
「触ったらどうなるか」
「全く予測できないってわけね」
「そういうことだ」
「……」
一歩。
近づく。
すると。
「……っ」
空気が、歪む。
視界が、ぶれる。
「……!?」
ミアが目を見開く。
「遠くなった……?」
距離感が、狂う。
目の前の木が。
急に遠く感じる。
次の瞬間。
近い。
「なにこれ……」
「……空間認識が崩れている」
リリアが冷静に分析する。
「距離が固定されていません」
「……」
カレンが、舌打ちする。
「最悪ね」
「戦いにくすぎるでしょこれ」
「……」
アルヴェルトが、低く言う。
「これが“ルールの崩壊”だ」
「……」
「距離は一定である」
「位置は固定される」
「そういった前提が」
「ここでは、成立していない」
「……」
ミアが、小さく呟く。
「世界が……バラバラになってるみたいです」
「……」
誰も、否定しない。
できない。
「……」
その時。
レインが、一歩前に出る。
「ちょっと」
「やめなさい」
カレンが止める。
「何が起きるか分かんないのよ」
「大丈夫ですよ」
「その根拠が怖いのよ!!」
「……」
レインは、そのまま。
歪みに近づく。
そして。
手を、伸ばす。
「――」
空間が、波打つ。
「レイン!!」
ミアが叫ぶ。
だが。
「……」
触れる。
何もないはずの場所に。
確かに。
「……やっぱり」
「触れますね」
「……」
全員が、固まる。
「……は?」
カレンが、引いた声を出す。
「何で触れるのよ」
「なんとなくです」
「もういいわそれ!!」
「……」
だが。
レインの手の先。
歪みが、揺れる。
反応している。
まるで。
“存在している”かのように。
「……」
アルヴェルトが、震える声で呟く。
「……本当に」
「干渉できるのか……?」
「……」
世界の歪み。
それに触れる存在。
ありえないはずの現実が。
目の前にあった。




