第104話 歪み
「……“書き換え”だと?」
カレンが眉をひそめる。
「世界が?」
「そうだ」
アルヴェルトは頷く。
「だが正確には」
一拍。
「“崩れている”と言った方がいい」
「……」
空気が、わずかに変わる。
「何が違うのよ」
「意図的な改変ではなく」
「維持されていたものが、破綻している」
「……?」
ミアが首を傾げる。
「維持って……誰がですか?」
「……それは分からない」
アルヴェルトは正直に言う。
「だが一つだけ」
資料を指で叩く。
「この現象は“偶発的”ではない」
「必ず、原因がある」
「……」
リリアが、静かに目を細める。
「……“点”ですね」
「その通りだ」
アルヴェルトが頷く。
「すべての異常には、発生源がある」
「そしてそれは」
「“広がっている”」
「……」
カレンが腕を組む。
「感染みたいなもん?」
「近いな」
「……」
ミアが、小さく呟く。
「……じゃあ」
「その中心を止めれば……」
「理論上はな」
アルヴェルトが答える。
「だが問題は」
顔を上げる。
「これは“物理現象ではない”」
「……」
静かに。
だが、重く。
「物理じゃない?」
カレンが聞き返す。
「じゃあ何よ」
「……“法則”だ」
「……?」
「世界の動きは」
「一定のルールに従っている」
「時間が流れ」
「天候が変わり」
「生物が生まれる」
「……」
リリアが、静かに頷く。
「はい」
「それが“世界”です」
「だが今は違う」
アルヴェルトの声が、低くなる。
「そのルール自体が、壊れている」
「……」
沈黙。
理解が、追いつかない。
「……つまり?」
カレンが、端的に聞く。
アルヴェルトは、ゆっくりと言う。
「“世界の歪み”だ」
「……」
その言葉。
初めての定義。
「歪み……」
ミアが繰り返す。
「はい」
リリアも、静かに呟く。
「現象ではなく」
「“状態”」
「その通りだ」
「……」
アルヴェルトが続ける。
「時間のズレ」
「天候の急変」
「魔物の反復出現」
「これらはすべて」
「歪みの“結果”に過ぎない」
「……」
カレンが、顔をしかめる。
「めんどくさいわね」
「原因に直接触れないと」
「意味がないってことでしょ」
「その通りだ」
「……」
ミアが、不安げに言う。
「でも……それって」
「どうやって触るんですか?」
「……」
アルヴェルトが、言葉を詰まらせる。
そして。
「分からない」
「でしょーね」
カレンが即答。
「そんなの分かってたら苦労しないわ」
「……」
重い空気。
誰も、答えを持たない。
その中で。
「触れますよ」
「……は?」
カレンが振り向く。
「今なんて?」
「歪み」
「触れます」
「軽いのよ!!」
「……」
レインは、普通に言う。
「さっきの感じなら」
「多分、形ありますよね」
「ないわよ普通!!」
「いや、あると思います」
「何を根拠に!?」
「なんとなくです」
「最悪の答えきたわね」
「……」
だが。
アルヴェルトだけは。
再び、レインを見る。
「……」
そして。
小さく、呟く。
「……もし」
「本当に触れられるなら」
「……」
その先は、言わない。
だが。
全員、分かっている。
「……」
リリアが、静かに言う。
「それが出来るなら」
「この問題は」
「解決可能です」
「……」
沈黙。
重い。
だが。
その中心で。
「じゃあ行きますか」
軽い声。
「軽いのよ!!」
だが。
止める者は、いなかった。




