第103話 否定
「――失礼する」
低く、落ち着いた声。
扉が開く。
現れたのは――
一人の男。
白い外套。
分厚い資料。
鋭い目。
「……誰?」
ミアが小声で聞く。
「学者よ」
カレンが答える。
「しかも、相当上の」
「ええ」
リリアが頷く。
「王国直属の研究者」
「……」
男は、ゆっくりと一礼する。
「私は、アルヴェルト」
「王国の現象研究を担当している」
「……」
空気が、引き締まる。
「本日は」
「現在発生している異常について」
「確認と報告のために来た」
「……」
カレンが腕を組む。
「で?」
「結論は?」
「……」
アルヴェルトは、一瞬だけ沈黙する。
そして。
「自然現象ではない」
「……」
即断。
迷いなし。
「ですよねー」
カレンが即答。
「でも、それだけ?」
「いいや」
アルヴェルトは首を振る。
「問題は、その“ズレ方”だ」
「……」
資料を広げる。
地図。
時間記録。
魔物出現ログ。
「見てほしい」
「……」
リリアが目を通す。
すぐに。
表情が変わる。
「……これは」
「気づいたか」
「はい」
カレンが覗き込む。
「何これ」
「……規則的です」
「は?」
「ランダムではありません」
リリアが指を走らせる。
「魔物の出現」
「天候の変化」
「時間のズレ」
「すべてに、共通の周期がある」
「……」
ミアが、ぽつりと。
「……決まってるんですか?」
「そうだ」
アルヴェルトが答える。
「これは“乱れ”ではない」
「……」
一拍。
そして。
「“書き換え”だ」
「……」
空気が、凍る。
「……書き換え?」
カレンが低く聞き返す。
「何をよ」
「……世界の挙動だ」
「……」
ミアが、固まる。
「世界って……」
「そのままの意味だ」
アルヴェルトの声は、冷静だった。
「時間の流れ」
「自然の変化」
「生物の出現」
「すべてが」
「本来の法則から逸脱している」
「……」
リリアが、小さく呟く。
「……つまり」
「“誰か”が関与している」
「その通りだ」
即答。
「……」
沈黙。
重い。
「……誰よ」
カレンが言う。
「そんなこと出来るやつ」
「……」
アルヴェルトは、少しだけ視線を落とす。
そして。
「分からない」
「は?」
「だが一つ言える」
顔を上げる。
その目は、確信に満ちていた。
「これは」
「“自然では絶対に起こらない現象”だ」
「……」
断定。
完全な。
「……」
ミアが、小さく震える。
「じゃあ……」
「誰かが……」
「はい」
リリアが静かに言う。
「意図的に」
「世界を、いじっている」
「……」
空気が、さらに重くなる。
「……最悪ね」
カレンが吐き捨てる。
「規模がデカすぎるわ」
「……」
その時。
「そうなんですね」
いつもの声。
「軽いのよ」
カレンが即ツッコミ。
「話聞いてた?」
「世界が変になってるんですよね」
「それよ!!」
「じゃあ直せばいいですね」
「だからそれが出来るやつが問題なのよ!!」
「……」
レインは、資料をちらりと見る。
そして。
少しだけ考える。
「……」
ぽつりと。
「触れば分かりそうですね」
「何を!?」
「原因です」
「軽いのよ!!」
だが。
アルヴェルトだけは。
反応が違った。
「……」
じっと、レインを見る。
「……君」
「何者だ?」
「一般人です」
「嘘だろ」
初めて。
学者が、動揺した。




