第7話
「ほらイリス、あれがリュウセイ種だよ。」
「リュウセイ種、イリスが……。リュウセイ種?」
あれだけ表情豊かで、特務官にはかなり人懐っこいがその反面で軍用として調教されているはずのリュウセイ種がイリスを視界に捉えた途端、4匹とも立ち上がって直ぐに近寄ってくる。
思わず全員が身構えるが……その心配や警戒は無用だったらしい。
むしろ、リュウセイ種の方がイリスの何かを感じ取ったのか、酷く心配した様子で。慰めるようにして顔を擦り寄せたりするも……そのイリスは少し複雑そうだ。
イリス先輩……?
「どう、したんだろ……。こんな事、なかったのに。」
「とりあえず……イリス嬢、降ろしても大丈夫そうなんか?」
「……うん。大丈夫。」
「……ほんなら降ろすで。」
そっとしゃがみ、降ろされるイリス。いつものように、ぺたんと床に座り込むようにして着地して酷く大人しい。それでもリュウセイ種はそんなイリスを心配し続けている様子で、その頃にはイリスの雰囲気も少し柔らかくなったように見える。
……そういえばイリス先輩、降ろしてもらった時絶対座り込んでるよな。
元々起立性調節障害で朝が異常に弱いイリスの事だ、もしかすると三半規管が突出して弱いなんて事もありえる。それをイリスに問うのは……まだ、出来ないが。
そのイリスは……現に、異変が起きた。
イリスを酷く心配するリュウセイ種の顔がふと、イリスを支えるように懐へと入り込む。イリス自身も特に抵抗はせず、そのまま身を委ねて体を起こさない。
え、
「イリス先輩……!?」
「い、イリス!?」
「……眠っとる、か?」
「みたい……ね。まぁ……ほら。普段のイリスに比べたらかなりテンション高いし……体力消費、激しかったのかも。」
「それは……確かに。じゃあ、普通に疲れちゃった?」
「……くぅぅん。」
「……ありがとな。俺達より先に気付いて焦ってくれてたんだろ?」
「くわう。」
「どちらにせよ、この体勢やと寝違える。リュウセイ種、奥行っとくれ。」
どうやら本当にイリスの体力的に限界なのを察知していただけらしい。トウマの指示に従い、イリスを支えているリュウセイ種以外は自分の寝床へ戻って既に丸くなったり、丸くなっている1匹の傍に待機して残りの2匹が待っている。
そこへ優しくお姫様抱っこされ、静かに休んでいる様子のイリスがトウマによって運ばれ。その後をつい先程までイリスを支えていたリュウセイ種が着いていく。
やがて、リュウセイ種用のベッドで大人しく寛ぎつつもイリスの受け入れ態勢を整えていたリュウセイ種の懐へ身が預けられ、体の大半をリュウセイ種の毛並みに埋めながらも体重は傍に寄せられたリュウセイ種の顔に預けて眠るイリス。
顔色は……良さそうだからいっか。
「……良かった。安心してるみたい。」
「熱もなさそうやな。……少しはこれで色々安定してくれるとええが。」
「でも、やっぱり記憶がなくてもイリスはイリスだったね。」
「まぁせやなぁ。」
「イリスは元々そういう奴だろ。……まぁ、俺も多少は安心したけど。」
「……記憶が戻ってほしい反面、戻るという事は……。……あの経験を今一度認識する事になるんだな、って思うと酷く胸が苦しいね。」
ノア達がこの《黎閃》に搭乗して航海している理由だった、イリスが誘拐された話やその先のラグナレイズ帝国での出来事。そして何より、そのイリスにとって母親代わりだったエスメラルダの死に関する事実。……どれも、あまりにも惨い。
これを本当にイリスに教えるのか、そしてこれを本当にイリスが思い出してしまうのか。どれもこれもイリスの心を傷付けるには十分過ぎる出来事ばかりだろう。
「……。」
「……ただいま。ん……? あぁ、寝てんのか。」
「ヴィクトル。アルドリックは……? ヴィクトル、どうした? あんまり……元気がなさそうに見えるけど。」
「色々驚き疲れただけだ、気にすんな。」
「……大丈夫?」
「問題ない。それはそうとお前ら、ちょっと寄り道するぞ。」
「寄り道……? しかもヴィクトルがそれを言い出すなんて珍しい。どういう吹き回しだ?」
「……別に。こういう時にしか寄れねぇ場所だから連れていってやろうと思っただけだ。興味ねぇなら船で待ってろ。」
「い、行く、行きたい! お前が寄り道するって言い出すのが珍しいだけで、そんなレアな光景見逃すとか普通に惜し過ぎるだろ!」




