第4話
「……おっきい海獣さん、恥ずかしがり屋さん? 今もこっち見てるのに顔出さない。」
「……俺はどうしてそこまで正確かつ全くぶれなく補足出来ているのか知りたい。」
「……俺も。ぜんっぜん見えないのに非敵性海洋生物集まりまくってめちゃくちゃこの海域一帯が安全海域っぽくなってるんだけど。何事?」
それだけ気になっているのに良い子にリビングから出ないのは……何かを感じ取っているからなのだろうか。それとも、やるとノア達が怒ると思って自重しているのだろうか。依然としてヴィルヘルムの膝元で尾をゆらゆらと楽しそうに動かしながらホログラムモニターを眺めている。
安全と見て良いのか、それとも……。
「……あ。」
「んだよ、何か気付いたのか?」
「……もしかして、イリス先輩に惹かれて何かしらの上位存在が見守ってる……とか。」
「……あり得そうなのが非常に怖いわね。」
「マジかよぉ、もぉ嫌だってぇ……!」
「……まぁ、イリス嬢に気付かれて潜ったと言う事は少なくとも向こうもイリス嬢が気付いてもうたって分かっとるんやろな。……全然浮かび上がってこんし。」
「じゃあ……とりあえず油断して大丈夫?」
「……まぁ、完全に気を抜くんは危ないけどな。」
「……駄目だ、見つけらんねぇ。」
「ん、ヴィク! ヴィク、お帰り!」
「おう、ただいま。艦橋の方ではうっすらと分かんなかったが……そっちはどうだ。」
「なかなか衝撃的な情報量になってる。」
「見せろ。」
「勿論。」
またしてもイリスに飽きが来てしまったらしい。ころん、と床に寝転がっては周りを確認しつつ、皆がホログラムモニターに釘付け担っているのがどうにも気に食わなかったらしい。
徐に、一番近い所に居るトウマの服を掴み、そのままよじ登っていくイリス。トウマもあまり気にしていないようで、何なら変に落ちないようその場にしゃがんで登り易くしたり、多少前傾体勢になっているので抵抗も殆どないんだろう。
それも相まってどんどんイリスの登頂は進み、とうとう完全におんぶ状態へ至ると両腕を後ろに回してしっかりとイリスを支えつつ、立ち上がるトウマ。
な、慣れていらっしゃる……!!
「にゃー。」
「はいはい。お姫さん、そこでええ子にしとってな。」
「これが例の謎の存在のレーダーデータ。……正直、これとイリスの証言だけ。」
「……あり得ねぇ動きしてやがる。」
「だよ、なぁ……。」
「でも、正体は分からないけど少なくともこれが居るお陰でこの海域が安全になってるのは確かだと思うよ?」
「その正体が分からないって所がとんでもなくやべぇんだよ、ちったぁ学習しやがれ。」
「……恥ずかしがり屋さん、出てこない。」
「……まぁ、イリスがこう言ってる間は大丈夫なんじゃない?」
「……まさか、記憶喪失になってもこいつに支えられる事になるたぁなぁ。」
「まぁでも、生物である限りどっかのタイミングで呼吸しに来るとは思うが……。」
「……? 来ないよ?」
「来ない?」
「イリス先輩、来ないってどういう事ですか?」
「呼吸器官ないもん、息継ぎ要らない。」
……え。ちょっと待ってくださいよ、それめちゃくちゃやばいですよ?
「……さて。イリスの一言で下に居やがるのが生物じゃないってのが分かったな。」
「……上位存在、とか。」
「イルメリナ、自分で分かってて言ってるね? 幾ら上位存在でもエリクスみたいな精霊系じゃない限りは呼吸が必要にならない生物を生物とは定義しないからね?」
「……おい、イリス。」
「んー?」
「その……恥ずかしがり屋さんとやら。敵か味方、どっちだ。」
「敵じゃないけど味方でもなーい。あ、でもね、多分帝国のなの。」
「……どの帝国だ?」
「この船の!」
「良し、ヨハン。ホログラムモニター閉じて良いぞ。」
「はぁ!!? い、いやいやいや、流石にまずいだろ……!!」
「これまでイリスの勘が外れた事は?」
「…………ない。」
「ならそれが答えだろ。」




