第3話
「……?」
「イリス先輩、何処か理解が難しい所とかありましたか?」
俺に答えられる気はしないけど……。
「んーん、全然。中はね、簡単。」
「……簡単だってよ、ヴィルヘルム。」
「やっぱり俺の研究資料か……! 見覚えあったんだよ、あの魔粒子の資料……!」
「あれ、確かヴィルヘルムが2年くらい掛けてた奴じゃない?」
「そのまま時代に追い着かれた遅過ぎた研究な。」
「そ、それでも密度や深度は俺の方が上だったから……!!」
「イリスに手、貸してもらってが着く癖に。」
「偶然通りかかって、相談乗ってもらった後に“じゃあ、見せつけちゃおっか”って言われてめちゃくちゃ凄い結果になった奴な。」
「イリスとの共同研究は格別でしたッ……!」
「……噛み締めとるな。」
「……ねぇ、ヴィク?」
「ん?」
「この船の深い所、何か居るよ。……あ、もっと潜った。」
撃ち出された弾のようにヴィクトルが廊下へ消える。トウマもそれに続いて廊下に消え、艦橋のある船首方面と船尾方面へそれぞれ足音が遠ざかっていく。
ヨハンもこのリビングの半分程を覆い尽くす程、複数のホログラムモニターを展開して魔力反応を計測し始めているようだが……そこに、反応はない。イリスの観測した何かの反応だけでなく、ソナー式のそれには魚群などの影すらない。
……え。
「……あの、ヨハン先輩。これ、敵性生物以外映らない仕様ですか?」
「いや……そういう設定は出来るけど、それに擬態出来る奴も居るから外洋では……。……………………これ、か? 魔力探知には引っかからねぇけど、低周波には何か引っかかったぞ。」
「この……斜め20度から30度ぐらいの角度で急速に下がっていくこれですか?」
「斜め20度から30度……? そんな角度で潜水出来る生き物、かなり限られてると思うけど……。え、ヨハン。大きさは?」
「…………推定だけど、尾だけで帝国の一番でかい空母2隻分ぐらい?」
「……いや、それ未確認だろ。というか、そんなでかい海獣なんて出てみろ、幾ら《黎閃》でも全力防衛だぞ。」
「お、俺だって驚いてるって……。……ほら、これ。」
「……推定潜水速度が150~160km/hぐらい?」
「待って、とんでもなく速いわよそれ。現状、世界的に一番速いのが潜水艦だと約54ノット。生物だと約70ノットよ? しかも、尾だけで空母2隻分って……古代生物か何か?」
「……俺、もうしばらく上位存在とか勘弁してもらいたいんだけど。え、駄目?」
「……もう見えなくなったわね。ヨハン、観測範囲拡げられない?」
「いや、既に結構無理してあれ。」
「……海面は問題なさそうやったで。一応はな。」
「こっちでも、より深い所まで潜水するのをヨハンの探知魔法越しに確認した。……全く、何だって言うんだ。」
「他の生き物とか、どう?」
「せやな……。海鳥は増えてきた感じやな。それと、イルカとかの非敵性海洋生物は徐々に増えとる感じやった。……少なくとも俺はあんな急に非敵性海洋生物が増える所は見た事ない。」
「それ、十分異常じゃない……?」
ノア達が覗き込んでいるから気になったのか、ひょこっ、とホログラムモニターの正面に入り込むイリス。必然的にホログラムモニターからかなり近い所に顔を出す事になり、そっとヴィルヘルムが目を悪くしないように抱き寄せているのが見える。
それでもイリスの興味は尽きないようで、物珍しそうに。目をキラキラと輝かせて眺めており、ふと画面の左端。未だ何も映っていない所を指差す。
「ここ、ここで何か食べられた!」
「…………観測出来ねぇんだけど。」
「イリス……君、その状態でもその水準の探知能力を発揮出来るのかい?」
「その状態?」
「……イリス嬢の第六感にはまだ帝国の技術も及ばぬ、か。何とも底の見えんお姫さんや。」
「……?」
「凄いって、褒めてもらえてるんだよ。」
「本当っ? 私凄い?」
「うん、超凄い!」
「……超じゃ済まないレベルでね。」




