第2話
「凄い……! 凄い凄い凄い! こ、これ、この夜ヨハンが作ったの!?」
「…………まぁ、そうだけど。」
「っ〜……! 本物の夜空もこんなに綺麗なのっ?」
「……………………こっちの方が綺麗だよ。」
「じゃあもっと凄い!」
「……………………。」
ヨハン先輩、暗がりでも分かるぐらい耳真っ赤ですよ。
一体何処まで行ったのか、それとも辿り着いたは良いがどの資料を見せるのかを割としっかり考えてくれているのか、資料を取りに行ったヴィクトルがなかなか帰ってこない。それにより、イリスが今度は出しっぱなしで電源だけ落とされているヨハンの装置に興味を持った。
やはり記憶がなくてもイリスはイリスのようで、特に説明もなく。少し眺めただけで電源を入れ、色んなパターンや夜空の回転速度、投影パターンの変化まで息を吸うようにやってみせた。
やっぱりこの人、ご自分の作品にも説明書を付けないで有名だったけど……根本的に必要ないのか。
普段のローテンションは何処へやら。ちゃんとヨハンを褒め、ててて、とリビングの中央に来たかと思えば天井に描かれる星を捕まえようと跳ねてみたり。直ぐ届く所に見える白い光を捕まえようとして、一度は手の中に閉じ込めるもそっと開いたらなくなっていて驚いた後、また楽しそうに次を捕まえようとする。
「……………………やばい、イリス先輩が愛い過ぎて心臓が止まりそう。」
「やっぱりイリスは天使なんじゃない?」
「ノア坊はええとして、イルメリナ嬢は一旦黙った方がええと思うわ。」
「待たせたな。持ってき……。あぁ、また付けてんのか。」
「……お帰り、ヴィクトル。」
「……お前はとりあえず鼻血拭いてこい。その量はそろそろバレるぞ。……ハンカチが負けかけてんじゃねぇか。」
「そうする……。」
「あ、ヴィク! 本……資料? 持ってきてくれたっ?」
「おう、沢山な。ただ……こうも暗くちゃ目が悪くなんだろ。電気点けんぞ。」
嫌だったらしい。ヨハンが機械に手を伸ばし、ヴィクトルがリビングの照明ボタンに手を伸ばすなり、そんなヴィクトルの服を掴んでひしっ、と身も付け、無言で。上目遣いで訴えかけてくるイリスはあまりにも爆弾過ぎる。
流石のヴィクトルも少し目をかち合わせて硬直した後、そのままの状態で拡張空間魔術から……――ランタンを取り出す。
「……ほら。目、悪くすんなよ。」
「うん! ありがとう、ヴィク!」
「……それと、あれ資料な。」
ヴィクトルが指を差した先に拡張空間魔術内に格納していたらしい大量の資料が積み上がる。その量は本棚1つ分はありそうな勢いで、それを見たイリスが分かり易く破顔した後にちゃんとヴィクトルにお礼を言ってから、ランタンも受け取ってたたた、と走っていく。
「ヴィクトル先輩も、流石に今のイリス先輩には激甘ですね。」
「……色々見過ぎて距離感に困ってんだよ、俺は。」
実際、ノア達の知ってるイリスと今のイリスは落差がかなり激しい。今のイリスが本人にとって幸せかと問われればそうではないだろうし、記憶喪失になる前のイリスの方が幸せかと問われれば断じてそうではないだろう。
かと言って、ここで無理に記憶を戻させたいかと問われれば……それも違う。
いずれは思い出す事にはなるだろうけど……それでも、だよなぁ。
「……。」
「……やっぱ難しかったんじゃねぇのか?」
「……いや、目が文字追っとるわ。集中しとる。」
「……まぁ、芯はこいつって事だろ。そんならまぁ……焦る必要はねぇだろうし、良いんじゃねぇのか。」




