第36話
「……アルドリック。」
「……あぁ、AZOTHか。構わない、傍に居るのはセヴェリウスだ。」
まぁ、分かっていて声を掛けてきているだろうけれどね。
幾ら世界的にあらゆる面で先進国として優れているアウレリウス帝国でも、この規模の調査は1日などでは終わらない。此方としても予想外だが、AZOTHが盗み聞きしていた話だとラグナレイズ帝国は引っ越し前の土地がある。そこにも何か残っているかもしれない。
暫定として、帝国は2ヵ月の調査期間を設ける事にした。今も本国から調査の為に物資やここと向こうを繋ぐポータルの建造、調査拠点の建設などが進んでいる。
ここで一番問題になるのは……食糧だ。こうも土地が死んでいては水上拠点を設け、その施設内で人工栽培を視野に入れなければならない。特務官達の研究のお陰で栽培技術も多少向上してはいるが……進んで研究してくれる訳でもなく、あまり関心を持っていただけていない分野なのもあって、他の分野に比べればまだまだ発展途上が目立つ。
ここもまた、研究を頼まなければならないかな。
一度、作戦会議の為に戻ってきた帝国軍艦隊の旗艦にあるアルドリックの私室。セヴェリウスと情報のすり合わせや共有を行う中、AZOTHもAZOTHで何かを掴んだらしい。
「やぁ。お主も報告か?」
「肯定。……始めても?」
「あぁ、始めてくれ。」
「了解。第1報告、イリス・ヴォルカ特務官を始めとする特務官複数名を載せた《黎閃》の外洋進出を超深海より追尾・護衛中の個体識別コード:CHARONが確認。現状、周辺に敵性反応なし。」
「……そうか。もう外洋に出られたか。」
「ここから1週間……いや、2週間と少しの旅か。まだ先は長いな。」
「第2報告、ラグナレイズ帝国移転先地下、大賢人:エスメラルダ建造と思われる巨大地下施設にて個体:神代の神の死亡を確認。管理者:アルドリックの命令により、捕食を実行……完遂済み。」
捕食を実行……か。
「それで、どうだった。」
「…………あれは、神ではない。数多の怨嗟が生物の形を得た祟りの類に類似。その中に大賢人:ウルカヌス、大賢人:ディアーナ、大賢人:ミネルヴァ、大賢人:テルミヌス、大賢人:アウローラの魂波長を検知した。」
「…………何?」
「複数の魂……それも、複数人の大賢人の怨嗟、だと? 待て、という事は……少なくともラグナレイズ帝国でエスメラルダを含め、6人の大賢人がここで殺されている?」
「AZOTH、それに関連するもっと詳しい情報は?」
「現在、調査中。……少なくとも、イリス・ヴォルカ達の会話データから、大賢人:エスメラルダの遺体はこの島周辺海域に存在する可能性あり。…………当機は、それを発見した。」
な、
「本当か!!?」
「海底14685km付近。大量の水銀溜まりとその中に沈む大賢人:エスメラルダらしきドラゴンの遺骸。並びにその他大賢人達と思わしき遺骸も当エリアにて個体識別コード:MERCURIUSが発見済み。……対象の回収自体は可能な物の、輸送機能がMERCURIUSだけでは大きく不足している。」
大賢人、そう呼ばれる彼らは大体が“準”上位存在だ。それ故、今となっては竜人としての形しか取れない竜人も、大昔はドラゴンと呼ばれ、大空を駆け。大地を引き裂き。生ける災害として空を自由に飛び回っていた。
それと同様に、大賢人と呼ばれる彼らの殆どがその先祖返りを引き起こしており、今では考えられない程の巨体や膨大な魔力を有している事がある。その為、彼らの遺骸の回収は……原則、魔法を使って行えない。
その理由は簡単で、彼らの遺骸その物が膨大な魔力を誇っているのでそれに魔法を使った場合、想定以上の火力を叩き出したり。そもそもとして、力が及ばず過ぎて此方に何かしらの形でリバウンドが返ってくるかなりの危険性がある。
しかし、6人か……。AZOTHの話では大賢人エスメラルダはドラゴンらしいが、彼女に関する素性や写真はまるで出回っていないからな……。これは、後にヴォルカ特務官の記憶に頑張ってもらう必要があるやもしれん。
「皇帝陛下に進言し、帝国で最も大きな輸送艦を複数艦出していただこう。それまでは遺骸の腐敗を防ぐ為にも、海流に流されていないかを引き続き警戒しておいてくれ。」
「了解。……差し支えなければ、その他の報告を再開しても?」
「優秀で助かるよ、宜しく。」
「了解。第3報告、地下施設にて蔵書庫を発見。中に収められているのはどれも大賢人の物と思われ、署名や手記などが多数存在。そのレパートリー及び分類から察するに、先の大賢人も合わせて20名前後の大賢人が何かしらの形であの地下施設に関わったと推測。」
「…………本当にとんでもないな、この国は。」
「……しかし、話を聞く限りだともうどの大賢人も生きてはおるまい。…………全く、惨たらしい事を。」
「手書きと思われる手紙を複数枚、発見。」
「手紙……? 中には何と?」
「――“全ての研究の後継者をエスメラルダの子に託す”。……大賢人:エスメラルダの子とは、イリス・ヴォルカ特務官と推測。」
「……あぁ。間違いないだろうね。」
「……全く。仔細を知れば知る程に謎が深まるな、あの小娘は。一体何者だ……?」
「まぁしかし、大賢人エスメラルダに関する物は最初からそのつもりだったが……他の大賢人の皆々様がそう遺書を遺されているのであれば、そうすべきだろうね。AZOTH、地下への通路はすでに崩落して我々はそこへ辿り着けない。君の方で全て回収し、《メルクリウス》の格納庫に保管しなさい。本国へ戻った私からヴォルカ特務官へ返還する。」
「了解。」
……全く、本当にどんどん人の頭を重くする子だ。
てっきりこれで報告は終わりかと思われたが、ふと手書きと思われる多少血が付着した手帳がデスクに差し出される。その本に細長い白銀の指が入れられ、大きく開かれたそこには
「なっ、これは……!!?」
「……説明しろ、AZOTH。少なくともお前はこの手記を全部見たんだろう? これは……ここに書かれている事は、何だ。」
「……イリス・ヴォルカは人造生命体。魔導文明の祖 大賢人エスメラルダと高次元生命体との契約理論の祖 大賢人グリモワール、魔導軍事学の祖 大賢人ミネルヴァの複数遺伝子を有するホムンクルス。……ただ、どうやら培養槽の中で成熟させる過程でラグナレイズ帝国より妨害が入り、感情を司る一切の機能が大きく破損。また、過度なストレスを与えると――一時的な記憶喪失を引き起こす可能性がある。この国は、大賢人の量産及び複製を研究していた。」
ホムンクルス……か。全く、……通りで色々と認識のズレが大きい訳だ。
これまで、そのズレはあくまでイリスがストリートチルドレンか、物心着くか着かないかぐらいの時期に何かしらの研究施設に連れ去られた。又は、売られたのではないかというのがアルドリック達の予測だった。
実際、何度かイリスに行われた取り調べでも「最初の記憶は研究所からだった」。「外の世界に来るのは今回が初めて」と何度も発言していた。……まさか、その初めてがこの規模とは。
しかし、様子を見るに大賢人達は……成長出来るホムンクルス。それこそ、本当に無から人間を作り出す事に成功した。
それが命令で着手する事になったのか、それとも彼らが好奇心や何かしらの目的の元で創り出しす事になったのかはかなり重要になってくる。……少なくとも、イリスを子として扱っている以上、無碍にする目的ではなかったはずだ。
問題は
「……ヴォルカ特務官自身が何処までこれを理解しているのか。」
「……あまり、理解しているようには見えんかったがな。あの小娘は聡く、説明を端折る事はあるがいつだって事実をそのまま叩き付けるような話し方をする子だ。…………分かっていたのであれば、もっと早い段階で宣言していると思うが。」
「やはり……そう思うか。」
「……あぁ。それと、これはしばらく伏せておくべきだろうな。」
「……そうだな。私としても、少し考える時間が欲しい。」




