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『帝国魔導特務録』  作者: 夜櫻 雅織
~ヴォルカ特務官と神代の怨嗟~

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第35話

 ……終わった。…………終わらせられたんだ。


 人生で初めて着た、お綺麗なお洋服とやら。こんな動きにくい服、こんな脆くてまるで機能の搭載されていない服なんて着て、もし海獣との戦闘にでもなったらどうする気だ……と。いつものように突っ込む元気は今のイリスにない。

 最初こそは居心地が悪く、どうノア達に顔向けするのかすらも分かっていなかった。そもそもの話、イリスは今回の帰国で死ぬ物だとばかり思っていたのに……それが全部跳ね除けられて、手を差し伸べられて、取らないようにしたら今度は背後から抱き込まれて……気付けば共に走っていたり。その懐で腰を落ち着けるような事ばかりだった。


 …………………………私は、こんなに弱かった?


 ヴィルヘルムがタオルでイリスの髪を拭く反面、肩には手を掛けて頼んでもないのに解してくるイルメリナ。動くに動けず、かと言って話をする気にもなれず、ただ呆然としながら。されるがままながら、思考がどんどん深い所へと沈んでいく。

 数十年ぶりのラグナレイズ帝国は……全く変わらなかった。あの街も、あの城も、あの施設すらも。いつまでも遺物のように居座り続けていたあれは……遺物の如く、滅亡した。


 ……。


 こういう時、どんな顔をすれば良いのかイリスには分からない。任務に失敗すれば死に、成功したら感情を吐き出したり噛み砕く前に次の任務や研究に駆り出されるあの日々は……もう、ない。

 あの日々が気に入っていた訳では、断じてない。あの日々が帰ってきてほしい訳でも、恋しい訳でもない。ただ……こうも、簡単に崩れ去るとは思っていなかっただけで。

 そっと、地から足を離して懐に収める。かつて行っていたように、自分だけの収容室の端で世界に怯えて小さくなったあの時のように。……遥かに広く、大きくなったこの世界の中で。

 その膝に顎を埋めても……何も満ちる事はない。不安が解消される訳でもなく、この妙な感覚がマシになる訳でもない。ただ……倦怠感と疲労感が増すだけだ。


 ……。


「……聞かないの、何も。」

「うん、今日はお腹いっぱい。……むしろこれ以上知り過ぎるのがちょっと怖いかなぁ。でも、いつの日かは知りたいと思ってるよ。まだ今日じゃなくて良いけど。」

「実際、何かとスケールもあれば個人的にも頭の中を整理する時間が……少し欲しいかな。」

「……まぁ、あんま戦闘してねぇ割に疲れたし。」

「僕もちょっと、今日は情報過多かなぁ……。」

「イリス嬢も疲れとるやろうからな。」

「むしろ、イリス先輩の方から確認しておきたい事とかありますか?」

「……リックは。」

「シュタール主任なら帝国軍と共に現地に残りました。色々、後始末するみたいですよ。」

「……おぉ、揃ってんな。」

「ちゃんとお風呂……は、入ってるわね。」

「この濡れた髪とタオルが見えねぇか? ……ったく。イリス。」

「…………何。」

「警戒すんな、怒らねぇよ。……ほら、これ。」


 ラグナレイズ帝国の地下で見た、曲線で銃口へ向かうに連れて渦を狭めるような模様の銃。どうやらヴィクトルの方で整備でも試みたのか、地下で見た時よりも光沢が強くなっているように見える。


「……整備、しようと思ったけどパーツの切れ目が分からなくて拭き上げしかしてねぇが……返しとく。」

「……うん。…………ありがとう。」

「……それと、もう1つ。」

「……?」

「良いから手ぇ出せ。」

「……はい。」


 どうしても信用出来ないらしい。依然として警戒した様子のイリスだが、とりあえず様子を見るようにしたようで、例の銃を拡張空間魔術(マジックバック)に収納後。……恐る恐る左手を出す。


 ……イリス先輩、ちゃっかり利き手じゃない方出してるし。


 ヴィクトルも思う所はあるが呑み込む事にしたんだろう。同じように拡張空間魔術(マジックバック)へ手を入れ、取り出したのは


「……ノート?」

「大賢人エスメラルダの手記だとよ。……アウレリウス帝国が過去に収集した分が丁度アルドリックの拡張空間魔術(マジックバック)内にあったんだとよ。」

「タイミング良過ぎだろ。」

「ちょっと出来過ぎだと思うけど……。」

「……俺だって思ってるっての。聞きゃあ中身の解析中だったんだとよ。使われてる言語が相当古いのか、それとも暗号か。そこらへんははっきりしてねぇが、まぁ……お前なら何とか出来んだろ。後、国に帰ったら宝物庫ひっくり返す勢いで大賢人エスメラルダの遺物や遺品を探すってよ。あるにはあるらしいから、全部お前に還すとさ。」

「……かえす。」

「そう、お前に。大賢人エスメラルダはお前の母親だ。血が繋がっていようと繋がっていなかろうと、そんな事はどうでも良い。……あの大賢人エスメラルダとお前が互いをそう認め合い、地下に現れたあの上位存在も……大賢人エスメラルダを契約者と呼んで、お前と大賢人エスメラルダの為の環境を用意してるって言ってた。…………イリス、お前は大賢人エスメラルダの子だ。誰が何と言おうと、あの上位存在がそう認めるなら十分だ。」


 ……エスメラルダ。


「……ありがと。」

「……イリス。」

「……?」

「2人に髪乾かしてもらったらとっとと飯食って今日は寝ろ。……どうせ帝国に、“黑棺(ブラックボックス)”に到着するまでかなりかかるからな。それに……もう夜の10時だ。普段のお前ならもう寝てる時間だろ、1人で寝んのが不安ならここで全員で雑魚寝すりゃあ良い。」

「おし、布団持ってこようか。」

「珍しく気が早ぇじゃねぇか。」

「イリス嬢をよう見てみぃ、ヨー坊。自覚しとらんだけで、廊下歩いてる時に倒れそうな勢いで体に力が入っとらんわ。」

「…………確かに。じゃあ……俺も手伝う。」

「いや、お前は機材で天井に夜空でも作れ。」

「夜空ぁ? ……まぁ、はい。分かった。プロジェクトマッピングで夜空作ちゃあ良いんだな? ゆっくり星の配置変わるようにしてやるよ。」

「イリス。俺は隣で寝るから、寂しかったら布団に入って来て良いんだよ。」

「じゃあたまにはその反対側を私が貰おっかな。」

「じゃあノアが向かい側かな?」

「え、良いんですか?」

「うん!」

「そんじゃあ……どうせヴィク坊は寝やんのやろう?」

「……まぁ、今晩だけは一緒に寝てやる。そのつもりで自動航行システム起動させてるからな。」

「ほう。そんじゃあ……8人で雑魚寝じゃな。4:4で別れよか。」

「じゃあノア君、私と隣代わる?」

「いえ、俺はヴィル先輩の背中側貰います。」

「じゃあ俺、イリスの向かい側な。」

「じゃあ僕イルメリナの向かい側~!」

「……じゃあ俺は入口に近いノアの向かい側な。」

「なら俺はヴィク坊とヨー坊の間やな。さ、布団持ってくんぞ~。」

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