第30話
「……皆、本当にそこ居るの。」
「たりめぇだろ。」
「イリス、俺達が君を1人にする訳ないじゃないか。」
「本当はこんな儀式、させたくもないんだけど……イリスは一度やるって決めたら止まらないからね。せめて、少しぐらい手伝わせて。」
「……結界の用意、出来てるから。その神様とやらが来ても、絶対護る。」
「神殺しなんてそう何度も出来る機会とちゃうからな。あんま救われ慣れとらんイリス嬢の事や、貴重な神殺しのついでに護られるとでも思っとったらええ。」
「絶対、ぜぇ~ったい皆で帰るんだから!」
「イリス先輩。……背中、勝手に預かってますからね。」
誰よりも所属歴が若いのに、誰よりも未熟なのにその観察眼だけは初対面の頃から何かと恐れ入る。……本当に、この特務局は心で果てしなく勝っている奴が多過ぎる。
だからその分、心の折り方も知ってる。
それが怖くなる事も。そして、羨ましく思う事もある。……その自由さが、その雄弁さが、その眩しさが。
彼らの所為で色々と乱されてしまったが、もう神様は解き放たれてしまっている。地下深くなのもあって、連絡の取れないアルドリックは。セヴェリウスは。……帝国軍は、どうしているだろうか。
刻一刻と迫り来る夜が明ける前に決着を付けよう。……後は、エスメラルダの亡霊がどうにかしてくれる。
今回、不安要素はかなり多くある。この装置を使うのも、この魔方陣を使うのも、当然ながらセヴェリウスから貰ったあの笛を使うのも全部初めてだ。
これまで、何をするにも必ず性能を確認してから使うようにしていたのに……まさか、こんな一番しくじってはらない場所で必ず決めないといけないなんて。少し緊張している自分が居るのに、自然と口角が上がってくる。
「……エスメラルダ。――私が貴方を証明するからね。」
貴方は、死して尚務めを果たしたって。
イリスが足を踏み入れるなり、ナイフでがりがりと刻み込んだ魔法陣が反応して淡く黒く光る。やがてはその縁から黒い炎のような物が、太陽の表面上に発生するフレアのように何度も何度も火を噴く。
時間経過と共に早く寄越せと、早く起こせと求めるそれは魔法陣の中心に立ったイリスの前に、魔法陣の縁から溢れる焔が凝縮されて錬金された黒い十字架のような鋭い針を作り出す。
……あぁ、
「……神殺しに貴様の血だけ程度では足らんだろう、小娘。――それも寄越せ。」
イリスは黒い十字架を掴んで、――何の躊躇いなく胸元へ突き刺した。




