第27話
「……これまた随分悪趣味な場所じゃないか。」
これまでの道中、あからさまな古い遺跡の内装は何処へやら。半ば駆け下りてきた先にあったのは……随分と異様な光景だった。
何処にも角のない、全てが曲線で構成された真っ白な施設。柱も壁も、その継ぎ目ですらも曲線で設計され、近付いてみるとその白の中に白銀色のラメのような物が見える。
やたらと少ない柱に、この巨大な地下空間の岩肌に張り付くように伸びている白い柱も。……蜘蛛が吐き出した糸をそのまま固めたようなそれは果たして柱と呼んで良いものか。
「……気持ち悪。」
「繭、かぁ……? あの施設の中が目的地?」
「……多分な。ヴィルヘルム、イリスは。」
「……ここへ来てから急に落ち着いた。」
「精神干渉魔法の類は感じられないよ。……変な大きな気配が中にあるけど。あれがイリスの言ってた神様を閉じ込める箱、かなぁ……? 確かに、気配の大きさだけで言えば上で暴れ回ってる気配を簡単に呑み込んでしまえそうだよ。」
ヴィルヘルムの腕の中で眠るイリスは……確かに、かなり脱力している。ただ、安心というよりは疲労困憊の末に昏倒したような休み方で、その表情は普段よりも遥かに無表情と化している。
「……個人的には起こしたくねぇが起こすしかなさそうだな。イリス。起きろって。」
「イリス、起きて。……イリス。」
分かりきっている事ではあるが、かなり限界なんだろう。ゆったりと開いたイリスの目にいつもの芯のある光はない。ぼんやりとしていて、見ているこっちが辛くなるような……いつもとは違うこちらを貫くような瞳がそこにある。
イリス先輩……。
「……着いたよ。ここで合ってる?」
「……降ろして。」
「分かった。」
そっと地に降ろされるイリス。いつぞやのようにそのまま自分の足で立つのではなく、その場に座り込むように着地したイリスはしばらくあの妙な施設を長めで……ふと、立ち上がる。
ただ先の階段の道中の時とは違い、ちゃんと意識はあるらしい。くるり、とそっとこちらを振り返るイリスの目は……やっぱり死んでいる。
「……あっち。あの中に……《神凪》がある。神様を閉じ込めて……水銀で溺れさせる《神凪》。…………凪の如く静かに、惨たらしく殺すエスメラルダが遺した最期の作品。……………………起動する前に状態を確認しなきゃ。どうせ……どうせ、あいつらはここを放棄してる。ここの事は……私しか、憶えてないから。」
「イリス、機械なら俺も多少は役に立てるはずだ。その……大賢人エスメラルダが作って言う作品、俺にも出来る事あるか?」
「……なら、制御パネルの配線……確認して。断線有無と……後は、魔力を多少含ませないと機能しないから。」
「おう、任せとけ。」
「イリス、私達にも出来る事ある?」
「……魔法陣、描かないとだから。……図面教えるから、手伝って。……装甲車ぐらい大きくて、魔導具ぐらい緻密だから。」
「鬼過ぎるだろ。」
「最早古代魔法相当だね……。」
「……後、エリクス。」
「うん、僕にもある?」
「……………………。」
「イリス……?」
「……多分、発電炉……壊されてる、から。…………エリクス、炉になって。コイルに電撃向けまくって。」
「了解! 僕、そういう雑なの得意だよ!」
エリクス先輩……。
「……めちゃくちゃバツが悪そうな顔されてるの、気付けないんですね。エリクス先輩って。」
「まぁ……あやつは察しが悪いというより、そういうのが元々ない種族じゃからな。」
「……まぁ、誰だって“発電機になって”って言うのは躊躇うよなぁ。イリス……今、めちゃくちゃ居た堪れないんじゃないかな。」
「……まぁ、相手はエリクスだ。あいつ相手にはあんくらいで良いんじゃねぇのか。」




