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『帝国魔導特務録』  作者: 夜櫻 雅織
~ヴォルカ特務官と神代の怨嗟~

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第25話

「……ここが、地下の入口。ここから……城の高さと同じぐらい、降りる。」

「「「城の高さと同じぐらい!!?」」」

「……途方もないね。」

「……魔導ビーグル持ってくるべきだったか。」


 ラグナレイズ帝国正面に位置するアーシェ軍港付近に着岸する《黎閃(アイゼンバーン)》から移動してしばらく、城の真裏に存在する地面を数m魔法で破壊的に掘ってようやっと出現する巨大な地下への隔壁扉。

 それを、後に“神様の魂が通れるように”敢えて魔法でぶっ放した結果、必然的に扉はひしゃげる事になる。これだけ分かり易くしておけば……幾ら下界に慣れていない神様とやらでも道ぐらい分かるだろう。


 どうせ……()に惹かれて何処までも探しに来ると思うけど。


「……階段、急だから気を付けて。」


 相変わらず、どうにもここに来ると足が竦む。このまま深い所にまで降りてしまったらもう上がってこれないんじゃないか、何か言葉にするのも。認識するのも憚られるような何かが手を開いて、その掌に足が乗るのを待っているんじゃないかと。……その足を掴んで呑み込んで、縛り付けられてしまうのじゃないかと気が気でなくなる。

 それでも……かつて、イリスはこの底から出てきた。この底にある、この階段の底にある神様の檻の周りに建設された、人体実験用の施設から。……イリスの人生の3分の2は、そこだった。

 でも、今回は決してあそこに帰る為に戻ってきた訳じゃない。あそこを壊して、二度と戻らなくて良いようにする為にここへ戻ってきた。……決して、また実験動物に戻る為じゃない。


 大丈夫……大丈夫。私はもう、E13534じゃない。ここは私の居場所じゃない、ここはもう私の牢獄じゃない。ただ、ただ……!!


「イリス先輩!!」

「……はぁ。……はぁ。……? の……あ。の、あ……? ……私。私、どう……したん、だっけ。」

「フラッシュバックで……過呼吸を。」

「国全体が大きく揺れたんだ。……さぁ、手を。俺達が傍に居るよ。」

「いっそ、抱えてやったらどうだ? その様子だとそっちの方が良いだろ。」

「それもそうだね。おいで、イリス。怖かったら幾らでも抱き着いて縋り着いて良いんだよ。」


 普段ならもっと躊躇うはずなのに、もっと考えるはずなのに、気付いた時にはヴィルヘルムの懐で抱え上げられていた。余計な物を直視しないで良いように後頭部に手を添えられて、顔を埋めるような状態で。

 ヴィルヘルムの肩口から見える、これまで降りてきただろう道のりを見るに……どうやらかなりの時間が経っているんだろう。ここに来ると、どうにも時間の感覚がおかしくなって仕方ない。


 大丈夫……大丈夫。私はまだ、壊れてない。ここでやる事があるんだ、それが済んでないのに帰れない。……帰れない、んだ。


 いつまで、どうして自分は帰れないのか。そもそも帰る場所なんてあったか、今自分は何の為にこんな所を降りているのか。ここに居るノア達は本物か、そんな前提ばかりがどうにも輪郭を危うくなってその後の事も全部崩れ去ってしまいそうだ。

 本当は、ノア達と思っているだけで研究者や審問官に運ばれてしまっているのではないか。アウレリウス帝国なんて、特務局なんて本当は存在しない、気の触れた自分が作り出した妄想なのではないか。


 ……なら、随分とよく出来た妄想だ。


「……ヴィ、ル。」

「うん、ここに居るよ。……ちゃんと居る。君の直ぐ傍に、ノア達と共に。」


 …………なら、どうしてこんなに静かなの?


「……………………寝てて、良い?」

「良いよ。こんな悪夢……なるべく直視しない方が良いからね。」


 ……………………どっちの、悪夢の事?


「……うん。…………お休み。」

「お休み、イリス。……少しでもマシな夢を。」


 願わくば、皆との日々が本物である事を願って。

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