第7話
「ん”……。やっぱり西部より中央の方が居心地が良い。」
「俺も初めて行きましたよ、西部……。元々ああいう場所なんですか?」
「いいや? あんなシャッター街などではなく、随分とコアな連中やギークな連中が歩き回る街だ。武器や防具、何かしらの電子部品などそういう専門的な物をよく扱う場所だ。……だから、中央とはまた違った賑わい方をしているはずなんだが。」
「……それだけやっぱり何かあるんですね。」
「だろうな。」
実際、何か居たからな。
大方、あの死体をわざとあそこに置いておいたのだろう。天井からぶら下がる鎖の位置と、明らかにシャンデリアの落ちた位置。仮にもあの人狼の成り損ないがぶら下がったとしてもあの位置ずれはなかなかに不自然だ。
流石にノアが死体を解剖出来るという事は予想外だったんだろう。だが、結果として死体から瘴気が出てきたのを良い事に、此方に銃口を向けようとしたがイリスが魔導拳銃を取り出した事で、その武器を降ろした。
あの光の反射は、それこそ弾を撃ち出した直前か。又は銃身が光で反射した場合に発生する反射によく似ていた。あのままあそこに長居していれば、それこそ蜂の巣にされていた可能性もある。
問題は、一晩置いてどうなるか。一応分かり易くあそこで諸々話してやったが……さて、お前は何処まで考えなしの無鉄砲野郎なんだ?
恐らく、不気味な程に何もしてこないだろう。そうでなければ川を使った死亡推定時刻の偽装やあんな回りくどい複数名の貴族の失踪なんてやるはずがない。
もしかすると、犯人がそれぞれ違うのか……?
「え、あれ?」
「何だ。……あぁ、あれか。ほら、行くぞ。」
「は、はい。」
仮にも皇帝という立場上、お高くというべきか。それとも偉そうにというべきか、玉座でふんぞり返っていれば良いのにこの皇帝はそれを良しとしない。何処までも行動派で、それでいて合理的な国家元首だ。
今だってそう、玉座で待つ事もせず。こうしてイリスが帰ってくるのを傍に近衛兵隊長のヨルン・アイゼンと。親衛隊隊長のディートリヒ・ヴァルガルトを引き連れて待っている。
相も変わらず人を引く腰まである長い金髪に、この国ではあまり見ない寒空のような蒼い澄んだ瞳。しかし、未だ齢15歳というのもあって、左右に巨漢かつ高身長の2人が並ぶとより幼く見えてしまう。――それでも、彼はこの国の皇帝でこの帝国の祖だ。
「……お帰り、イリス。ノア君。」
「……ただいま。」
「た、只今帰還致しました。」
「良いの良いの、畏まらないでよ。元々僕が君を彼女に就けたんだし……存外、気に入られているようで僕も安心したよ。」
「え、気に入る……?」
「……。」
「実は、イリスってば結構選り好みが激しくてね。何度かこうやって僕がパートナーを組ませた事があってね。その度に、最初の夜に“要らん、外せ”だよ。」
「え。」
「…………。」
「そんなイリスが、第一声に“ただいま”なんて。やっぱり気に入ってるんじゃないの?」
「……。」
「……その、陛下。発言をお許しいただけますか?」
「勿論、どうしたんだい?」
「実は、その……明日、ヴェルカー……。ごほん、ヴォルカ特務官殿と朝食のお約束と、その後の調査の約束もしておりまして……。」
「おい。」
「……俺の技術もその、ほ、褒めて……いただきまし、た。」
「……………………え!!? あのイリスが褒めたの!?」
「アル。」
「っ~~~! やっぱり僕の見立ては間違いなかったんだよ! イリス、やっぱり彼は君の理解者になり得る存在だ、存分に楽しんで精査しておいで!」
「はぁ……。」
「……陛下、そろそろ。」
「うん、そうだね。イリス、帰ろうか。」
「ん。」
「ではお疲れ様です、ヴォルカ特務官殿。」
ここで、ただ「お疲れ」と返すだけで良い。それだけのはずが、何故かその言葉が間違っているような気がして押し黙ってしまう。……何となく、今使う言葉はこれじゃない気がする。
「……。」
「イリス?」
「ヴォルカ特務官殿……?」
「…………また明日。」
「え……。っ、はいっ! また明日も宜しくお願いします!」




