第6話
「じゃあ……とりあえずあの死体はもう良さそうですね。次、どうします?」
「帰る。」
「分かりました、じゃあ……えぇえ!!? か、帰る!!? もう帰っちゃうんですか!!? まだ玄関ですよ!!?」
「はぁ……。時計を見ろ、アルヴェルト。もう19時だ、私は帰って今日の分の報告書を纏める。人生初めての捜査なのかどうかは知らんが、余程楽しくて時間を忘れていたみたいだな。時間管理は社会人の基本だ、もう少し体内時計も鍛えておけ。」
「この人マジで時計見てねぇ……。てかマジで19時だし……。ま、まぁ確かに、あのヴェルカーさんとご一緒に仕事が出来るっていう意味ではめちゃくちゃ楽しんでますよ? でも、でもですよ? これだけ証拠だらけの場所を放置して一晩明けたら明日には荒らされてるかもしれないんですよ?」
「うん。だから?」
「い、いやいやいや、問題ですって……。全部持ち去られたらどうするんですか。」
「必ず痕跡が残るから追えば良い。出来るだろう、暗務局員君。」
「……………………出来、ます。」
「ならば問題ない。さぁ、帰ろう。」
「……はぁーい。」
現場での遊び方を知らんのか。……余程真面目な教官が就いていたんだなぁ。
どちらかといえば、イリスよりもノアの感覚の方が正しい。現場を放置すれば次の日には証拠が持ち出されている可能性や、何なら真夜中に爆破されて跡形もなく消えている可能性だってある。又は、明日もここに調べに来ると見て敷地いっぱいの伏兵を配備している可能性だってある。
でも、だからこそ。だからこそイリスは敢えて敵を泳がす。
その方が面白いじゃないか。
ただの捜査なんてつまらない。その程度の事で特務官たるイリス・ヴォルカの足を止められるならやってみろと、むしろやってみせてくれと胸が高鳴って足を奥へ進ませない。代わりに、体内時計と踵の翻り方は誰よりも正確で優雅だ。
「死体はそのままにしておけよ。」
「分かりました……。それで、機動隊や警備隊に連絡の方はどうされますか?」
「しない。お前も兄貴に話すなよ。」
「マジかこの人。……まぁ、はい。ヴェルカーさんがそうせよと仰るなら。」
「良い子だ。……じゃあ、中央までは共に帰ろうか。」
「中央までは……あ、そっか。ヴェルカーさんはあそこ……確か、“黑棺”でしたっけ。あそこが居住区なんですよね。」
「あぁ。特務官はあそこで寝て起きて作業する。そういう場所だ。」
再度 《ノクス》を魔導拳銃へ変化させ、今度は大口径に変質させて取り出した魔石を撃って破壊する。あの魔石という物は魔導具の核となり、糸状にして防具の材料とされ、時に熔かされてインゴットとして活用される非常に主要な資源だ。
だからこそ、ここで壊しておかなければならない。今回の装備や既に開発済みの魔法、研究済みの魔法には魔石が生身で触れられる状態になるまで約半日は放置しなければならない。だからと言って安全に保管して運び出す事の出来る道具もない以上、あれが悪用される事だけは避けなければならない。
あれだけ壊しておけば問題ないだろう。
帝国魔導特務局研究所、通称「黑棺」は特務官にとって家であり、最高の研究施設であり、そしてこの国の最も最先端な技術が生まれる場所でもある。その秘匿性と重要性の高さから窓という物が概念ごと失落している。
その為、全館空調となっていて10人以下の特務官しか居ない割にはえげつない設備が山程ある。お陰で電気の使用量やガスの使用量もかなりの物で、面倒だからと自分達で自家発電出来るように諸々設備を拡張していったのも今では良い思い出だ。
お陰でこの国全体のエネルギー問題は全て解決。ガス水道電気の一般人が支払う料金も大幅に安価になったらしいが……まぁ、街の事なんて私に直接関係のある事ではないが。
「ヨハン。」
≪はーい。ちゃんと居るぜ。……まぁ、建物の中だから見えてはいねぇけど。どした、お帰りか?≫
「うん、帰る。」
≪りょーかい。心配性の皇帝陛下に伝えとく。≫
「ん。」
相変わらず過保護なもんだ。
「アルヴェルト。」
「はい、どうされました?」
「……。」
「……?」
「……明日は朝から調査を行う。0900に今日お前が教えてくれたパスタ屋の前に集合だ。……朝食はそこで摂る。」
「はいっ! 気に入ってくださったんですね!」
「一鳥で済まない所がな。……明日は蟹のクリームパスタにする。」
「レモン掛け美味しいですよ。」
「なら、そうする。」




