第20話
「……良し。じゃあ、一応まだ時間もある事だし、イリスも寝たからな。色々情報を整理しよう。…………一気に色々起こり過ぎだ。」
「じゃあ、まずはやっぱり年齢の事でしょ。16……しかも、ノア君が特務官になった日が誕生日だって言ってたわね。」
「10月26日だったっけ。」
「確か……10月26日は皆さんが俺に歓迎会をしてくださった日ですね。実際、俺が特務官の書類を受け取った日は10月21日で、引っ越して実際に“黑棺”で生活し始めたのが10月22日です。」
「じゃあ聖霊祭の日が誕生日なのか。よりおめでたいね。」
「……まぁ、実際イリスは動物に異常なぐらい好かれてるし、ぽいっちゃぽいけどな。」
「……なら、イリス嬢の煙草と酒は辞めさせるべきなんとちゃうか? 未成年やろう?」
「国によっては……特に、寒い地方だと15歳で成人の国がありますよ。」
「一応、アウレリウス帝国も成人は20だが酒と煙草は15歳からだな。だからまぁ……法律的には大丈夫っちゃあ大丈夫か。」
「ねぇ、僕あんまり人型知的生命体の細かい当たり前って知らないけど、今でさえイリスは16だけどさ、この国に来た当初って7年前だから……9歳? 9歳ってこんなに遠い旅路を行かせるような年齢なの?」
「まさか。まだ親元を離れるなんてまずありえないし、丁度甘え盛りよ。」
けれど、これで色々とはっきりした。イリスの異様な感情の欠陥や甘え下手……そもそも、甘えるという概念すらないのは全て出自の問題。そして、環境の問題が全部諸に出ていたからだ。頼れば殺される、そんな世界しか知らなかったから。
時々発生する子供っぽさも、本当は子供っぽいのではなく年相応。……むしろ、これまで子供らしく振る舞えなかった分、余計にその反動が強く出たと考えるべきだろう。
そんな身で……ずっと、こんなに多く沢山の事を抱えて生きてこられたんだ。イリス先輩は。
きっと、イリスにしてみれば子供とか大人とか、そういうのはどうでも良いというよりはそういう物ぐらいの感覚なんだろう。子供だから護ってもらえるとか、助けてもらえるとか、そんなのは全くない。もしそんな物があれば、直ぐにでも殺されてしまうような環境に居たから。
なら、よくイリスがセヴェリウスなどにあからさまな態度を取るのも……子供故に、精神が未成熟である証なのかもしれない。そう思ってくると、もし何かしらの拍子にそれが自分に向けられたとしても……きっと、大人の態度を貫くだろう。
……それを辛いと思う感覚ですら、きっと。
「帰ったら色々教えてあげないとね。あ、じゃあ遊びとかもあんまり知らないかも。」
「……もしかすると、あまり外に出ようとせんかったのは幼さ故の恐怖心だったのかもしれんな。」
「今度お祭りに誘ってみようか。沢山……沢山、教えてあげたい事が山程ある。」
「あ。ねぇねぇ、しばらくは怪我の事もあるんだし、リビングにお布団敷いてイリスが眠くなるまで雑談しようよ! 楽しい夜更かしってこうするんだよ、って!」
「まず夜更かしを推奨しない!」
「まぁまぁ、たまにはええんちゃうか? それも、イリス嬢はちゃんと覚えんとあかんからな。」
「流石に……本の読み聞かせとか、怒るかな。」
「う〜ん……。」
「微妙……だ、な。あいつ、割と子供扱いとは怒んねぇ所あるからなぁ……。」
「……流石に絵本は嫌がると思うけど。“嘘ばっかでつまんない”とかさ。」
「あー……。」
「……ありうる。めちゃくちゃありえるわね。」
「もしかすると、そもそも子供扱いっていう概念すら知らないのかもしれないですよ。」
「……………………ありえそうだからやだなぁ。」
あ、そうだ。
「ヴィル先輩。」
「ん?」
「イリス先輩、未成年なんで告白はもう数年先送りです。何があっても夜の大人っぽい事しちゃ駄目ですからね、怒りますよ。健全な精神の育成上全く以て宜しくありません。」
「……君は俺を何だと思ってるんだい? それぐらい弁えてるよ。………………甘やかしはするけど。」
「そこに関しては全員そうなるだろうよ。」
「アルドリックも甘々になるのかなぁ?」
「えー……? 想像出来ねぇんだけど。」
「あ、じゃあ一応聞いとこっかな。ノア君、年齢は?」
「俺、これでも26ですよ。……まさか、あのイリス先輩が10歳も歳下なんて思いもしなかったですけどね。」
「……ふむ。せやのに敬語は辞めそうになさそうやな。」
「勿論です! イリス先輩がお幾つだろうと特務局への着任順では俺の方が若いですし、何より俺の敬語は尊敬から来る敬語です。社会的な風習として使う事を強要されてる敬語じゃないんで、皆さん相手にタメ口なんて利きませんよ。――よっぽど馬鹿な事をされてらっしゃらない限り。」
「言われてんぞ、ヴィルヘルム。エリクス。」
「え、僕? 僕なのっ!?」
「……特務局の後輩達は末恐ろしいねぇ。」




