第15話
「っ……!!」
新たに《アイテール》に搭載しておいた機能、大鎌フォルム。なるべく速度を殺さないように全力疾走しながら首を刈り取っていく。中には防御してくる敵も居る為、そういう時はもう片方の腕に持つ、同じく大鎌フォルムへと変化させている《エレボス》で薙ぎ払う。
先程から湯水のように溢れ出す彼らは、まるでイリスの位置を知っていると言わんばかりに何処からともなく現れては襲ってくる彼らは……恐らく、あれが作用しているのだろう。…………イリスが来た事を察知して。
私の体力が、魔力がなくなる前に殲滅しないと。夜になったら
「――セヴェリウス?」
ラグナレイズ帝国に乗り込む際、暴走するように出力が最大になった上に速度が最大に達したのを確認してから破壊した、空母の操縦桿。あれで大破させた軍港、港町、更には城下町と城の城門、玄関ホール。無駄にでかい金属の塊を用意するからだと内心すっきりしていたが……その周辺、灯台の足元にセヴェリウスらしき人物が見える。
おかしい、この国に彼らは居ないはずなのに。まさか
……。
もしあそこに居るのが本当にセヴェリウスなら、もしもこの後にアウレリウス帝国や特務局が突っ込んでくるなら。……ここでの戦い方を教えてなければ。
何より、ここに辿り着いたのが昼間である以上、日没まであまり猶予はない。国1つの生物全てを余す事なく殺すのが間に合わなければ……勝利は絶望的になる。
「…………どうやって来たのか知らないけど、本物なら。」
一度足を止め、そのまま踏み止まった足を軸にして尾で城の壁を大破させる。追手が来るのを無視して飛び降り、振り返れば奴らも随分と往生際が悪い。まだイリスを求めて追い駆けてくる彼らに向け、《アイテール》と《エレボス》から《フィンブルヴェト》と《ワルプルギス》に持ち替え乱射する。
空中でイリスと共に落下しながら《フィンブルヴェト》による凍結、《ワルプルギス》による爆破で死んでいく敵の返り血や氷の欠片を多少浴びながら……普段は背中に格納している翼を拡げ、一気に灯台目掛けて飛翔する。
少なくともあいつが居るって事は……!
「セヴェリウス!」
「おぉじゃじゃ馬娘、随分派手に暴れ回るじゃないか。」
「……一応聞くけど、死神に知り合い……居ない?」
「私もお主も死んではおらんし、ここも冥土ではないわ、この生意気な小娘が。全く……。それはそうとヴォルカ、お主インカムは。」
「攫われた時に壊された。」
「なら私のを使え。丁度、シュタール卿と繋がっておるわ。」
「……。」
「……何だ今度は。」
「……汚いからやだ。」
「こやつ……。ほれ、予備のインカムだ。」
「最初からそっち寄越せ。」
「…………その減らず口が聞けて肩の荷が下りたわ、全く。」
ぴ
≪イリス・ヴォルカ特務官、ダメージレポートを。≫
「……空母から脱出する時、若干肋骨やったぐらい。」
≪……命に別状がなくて良かった。ヴォルカ特務官、もうじき特務局も現地に到着する。君は直ぐ、ヴィクトルの《黎閃》に乗船して戦線を離脱するように。これからそこは≫
「駄目。私が離れたらあれが暴走する。」
≪暴走……?≫
「……やはり何か知っておるようだな。ヴォルカ、説明せえ。我々アウレリウス帝国に喧嘩を売る割にはあまりにも敵が弱くて気味が悪い。……ここは何を隠している?」
「神様。」
「……は?」
≪……すまない、ヴォルカ特務官。我々にも分かるように説明してくれないかい?≫
「だから、神様。少なくとも……この国ではそう、呼ばれてる。この国は元々、膨大な死のエネルギーを対価に神代の時代に存在した原初の神々をまた新たに顕現させる事を執拗に研究してきた。それを……数年前に成功させて、でもその儀式の為に。その儀式で呼び起こした神様を支配下に置く為、依り代を必要としてきた。…………それが、その依り代候補が私。私達、《神ノ箱》。アウレリウス帝国に私を迎えに来たあの子供も、全部そう。……………………15年前、ラグナレイズ帝国がアウレリウス帝国へアルを攫いに強襲したのも、当時はアルが神様の依り代に丁度良いとされたから。」
それに失敗したから、ラグナレイズ帝国は自分達で依り代を作る事にした。ただその依り代として耐えられるだけの膨大な魔力を保有する個体が、素体がなかなか出来なくて……もう一度、暗殺に見せかけた誘拐を命じた。それが、元々イリスがアウレリウス帝国に投入された理由だった。
それすらも失敗した当時のラグナレイズ帝国は、きっととんでもなく激高しただろう。
それでも、今回私を連れ戻しに来た。……だから多分、
「……数年前、私をラグナレイズ帝国がアウレリウス帝国に投入したのはアルを暗殺に見せかけて誘拐する為。でも、私が命令違反を起こして……しばらく様子を見る過程で私の保有魔力がアルを上回る、又はアルの代替としての条件を満たした。…………だから、私を回収しにラグナレイズが動いた。」
≪……待て。…………少し、待ちなさい。≫
「……つまり、15年前の事件とお主がアウレリウス帝国に来た事、そして今回の誘拐。全て……関連があると?」
「そう。全部、全部これから起きる神様の依り代探し。……でも、私で十分だから今回、連れ戻された。……………………神代の神様を起こす儀式は、もう始まってる。止められないから、起こして神様を殺さないと駄目。」
「少し……情報が大き過ぎる。とりあえず経緯について、お主が《神ノ箱》と呼ばれる不遜かつ悍ましい実験体だった事は分かった。それで……その儀式というのは? この妙に大地や空、海が死んでいるのと関連しておるのか?」
「そう、この環境汚染が神様を起こす儀式。……後は、この国の人間が全員死ねば神様は君臨する。――神代の罪を象徴する神様が。」
≪……………………………………………………思う所はあるが、とりあえず……呑み込もう。ヴォルカ特務官、なるべく我々も君の言葉を疑いたくはないが……その神代の神とやら。そして、その儀式とやら。それが本物であるという確証がどうにも感じ難いのだが。狂信教によくある思い込み、又は妄想ではない事は証明出来るのかな?≫
「この儀式も、儀式と呼ばれている装置や設備は全てエスメラルダが作った。」
「エスメラルダだと!!?」
≪エスメラルダ……!!?≫
「待て待て待て、エスメラルダとは……あのエスメラルダの事か!?」
≪……魔導文明その物の開拓者、大賢人エスメラルダの?≫
「…………あの人は、私の義母。……義母さんがこの技術の開発途中、ラグナレイズ帝国皇帝の目論見を見抜いて研究を中止しようとして……反逆罪で処された。だから、私があの人の代わりにこいつらが無理矢理完成させた神降ろしをめちゃくちゃにして、呼び出された神様が二度と顕現出来ないように神の息の根を絶やす。――それが、私がここに帰ってきた理由。……だから、こっち来るなら手伝って。神殺しはまだ始まってもないから。」
その為に、私はここを離れる訳にはいかないから。




